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狼は眠らない  作者: 支援BIS
第37話 第121階層の死闘
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「〈風よ〉!」

 頭上からゾルタンが襲いかかってくるその直前、レカンは強い魔力を込めて〈突風〉を発動し、ゾルタンの足元をすり抜けた。

「〈風よ〉!」

 そしてさらに加速して入り口に到達し、横の壁を蹴り、反動でまっしぐらにゾルタンに向かって突進した。このときレカンは胸の前に〈ウォルカンの盾〉を構え、盾で隠すように〈彗星斬り〉を構えている。

「〈風よ〉!」

 〈突風〉でさらに加速する。

 ゾルタンはすでに地上に降り立っており、右回りに振り向きつつ右手の魔法剣を斜め上からたたき付けてきた。

 防御したくなる気持ちを無理やり抑え込み、足にためた力のすべてで地を蹴る。そして体をひねりながら、まっすぐに剣を突き込んだ。

 魔法剣が障壁に衝突してまばゆい光が生じる。

 レカンの剣がゾルタンの右脇腹に突き込まれる。

 ゾルタンは回転速度を緩めず、その長い両手を振り回し、左手に構えた聖硬銀の剣を斜め上からたたき付けてきた。

 そのときレカンの体は半回転している。ちょうど床に背を向ける角度だ。顔は天井を向いている。

 その顔の真上から聖硬銀の剣が振り下ろされ、〈ウォルカンの盾〉に打ち当てられる。

 信じがたいほどの衝撃がレカンを襲った。それほど、ゾルタンの斬撃には威力があった。聖硬銀の剣は超絶的な切れ味こそ持つものの、長さは短く薄く軽い。威力の出る武器ではない。その聖硬銀の剣でこれほどの打撃力が出るからには、ゾルタンの膂力と攻撃力は想像を絶するほどのものだ。

 ゾルタンの脇腹に突き立った〈彗星斬り〉は、ゾルタンの体が回転するにしたがって体の左側にそれてゆく。肉を裂き骨を断つ手応えをレカンは感じた。

 すさまじい音を残して聖硬銀の剣が折れ飛んだ。レカンは背中から床にたたきつけられる。

 ゾルタンがさらに半回転して右手の魔法剣でレカンの体を両断しようとした。

 だがそのときレカンは勢いを利用して後ろに回転していた。

 足が通り過ぎた空間を魔法剣が薙ぐ。

 レカンは跳ね上がりながらくるりと空中で回転して足から地に降り、腰を落として上半身を折り曲げ、盾と剣を体の前に構えて、迎撃態勢をとる。

「〈風よ〉!」

 ゾルタンの呪文が響く。ゾルタンは空中で無理やりに〈暴風〉で自分の体を吹き飛ばし、レカンに襲いかかった。

 右手の魔法剣で斬りつけてくると思ったレカンの予測ははずれた。

 ゾルタンの左手はすでに聖硬銀の剣の残骸を手放していて素手だ。その素手の拳で殴りかかってきたのである。

 レカンは〈ウォルカンの盾〉で拳を防いだ。

 だが、衝撃はやってこない。ゾルタンは〈ウォルカンの盾〉の上端を、がっしりと左手でつかんで、にやりと笑った。

「〈力よ(ガスパー)〉!」

 しまった、と思うまもなくゾルタンが〈ウォルカンの盾〉をぐいと引っ張る。驚異的な力だ。それもそのはずであり、〈力よ〉という呪文は〈剛力〉というスキルを発動させる呪文なのだ。レカンの相棒であるボウドもこのスキルを持っていたので、このスキルのことはよく知っている。

 レカンは前方に飛び出した。考えての行動でなく、本能のままにとっさにそうした。ゾルタンが盾を引っ張る、ちょうどその方向に飛び出したのである。一瞬がら空きの全身をさらけ出したわけであり、これにはゾルタンも意表を突かれた。レカンの体を真っ二つにたたき斬る機会だったが、ゾルタンも体勢を崩してしまい、攻撃には移れない。しかも、盾を握る力も弱まったので、レカンは盾をひねってゾルタンの手を振り切った。

 着地したレカンの背中にゾルタンが魔法剣で斬りつけるが、首飾りの障壁に阻まれる。

 レカンがくるりと半回転してゾルタンと向き合う。

「〈刃よ〉!」

 〈影刃〉が障壁に当たって燐光を発した瞬間、レカンは後ろに大きく跳躍していた。その跳躍に合わせるように、ゾルタンが飛び込んできて、魔法剣を振り下ろす。

「〈食え〉!」

 ゾルタンのスキルが発動した。

 ところが魔法剣は障壁に阻まれ、燐光を放った。

(なにっ?)

 先ほどはゾルタンのスキルで障壁が食われてしまい、魔法剣はレカンの体に届いた。しかし今回は障壁が魔法剣を防いだ。いったい何がちがったのか。

 ゾルタンは立て続けに〈影刃〉を放った。

「〈刃よ〉! 〈刃よ〉! 〈刃よ〉! 〈刃よ〉! 〈刃よ〉!」

 五つの〈影刃〉がレカンを襲う。そのことごとくは障壁に阻まれて燐光を放つ。障壁の青白い輪郭がはっきりと浮かんだ。

 レカンはゾルタンの右脇腹をみた。肉を裂き、骨を断ち、肺腑を引き裂かれたはずなのに、そんな深手を負っているようにはみえない。幻魔緑蜂の鎧は大きく斬り裂かれているし、出血の痕がみえるが、それだけだ。まるで傷などついているようではない。

「〈食え〉!」

 燐光がごっそりと消えた。障壁が食われたのだ。

(そうか!)

(こいつ赤ポーションを口に含んでいたな)

(そしてさっき飲み込んだんだ)

 ゾルタンが魔法剣を大上段にたたきつけてくる。逃げられるタイミングではないし、逃げるより受けたほうがよい。とっさにそう判断してレカンは〈ウォルカンの盾〉をかざした。

 激突音が響いた。

 先ほどの聖硬銀の斬撃をも上回る威力の攻撃がレカンを襲った。

 その攻撃を盾で防いだ。

 だが、次の瞬間。

 〈ウォルカンの盾〉は真っ二つに割れた。

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