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狼は眠らない  作者: 支援BIS
第36話 賢人王の血
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 殺していいのなら、後ろから毒針を差し込んでやりたい。

 一瞬、本気でそう思った。

 だが会議が進むうちに、何が起きようとしているのかを理解し、今や任務が失敗しかかっていることを知った。そして騎士カロダンの暴発も、敵に誘導されたものだとわかった。となれば、あそこで騎士カロダンがあのような振る舞いに出なくても、結局同じような立場に追い込まれたことだろう。

 その後は何をどうすることもできなかった。

 騎士カロダンは拘束され、どこかに連れてゆかれた。

 クサンドリアとホルカッサとニルフトは、大会議室から追い出され、宿舎となっている客棟に帰った。テンドリアも同じく大会議室から追い出されていた。

 おそらくあのあと、ワズロフ家の血を引くというあのノーマという女が次期後継者に決定しただろう。

 今回の任務は、まずはドプスを殺して、ゴンクール家を後継者不在に追い込むことだった。昨年死んだゼプスが当主に就いたならうまく操れる算段がついていたのだが、ゼプスが迷宮深層の冒険者に手を出して殺されたのは誤算だった。

 次に、クサンドリアを使って揺さぶることで、ドン・コスペスを後継者の後見人に就任させることだった。

 そしてまた、当主プラドの体調をみきわめることも重要な任務だった。

 誤算といえばプラドの体調が一番の誤算だ。それまでの体調からいって二、三年前には死んでいたはずなのだ。だが雇った施療師がよかったのか、死なずに持ちこたえた。そして去年から今年にかけては、あの〈薬聖の癒し手〉であるエダの〈回復〉を受けたことがわかっている。たぶんその〈回復〉は実際には〈浄化〉だった。その助けがあってか、プラドはいまだに生きている。

 これが一番まずい。

 ほかの計画がどれほど順調に進もうと、プラドが死ぬか倒れないかぎり意味がない。すべての計画は、プラドが余命わずかだという前提で成り立っている。

 しかし今日の親族会議でみせたあの迫力。なんというすさまじい胆力であったことか。あれでは当分死なない。それは困る。

 実は今回のカッサンドラの指示のなかには、必要に応じてプラドを殺すというものも含まれている。

 ドン・コスペスを次期当主の後見人に立てる計画が失敗し、あのノーマとかいう女が後継者に決まった以上、プラドを殺しても、ゴンクール家の乗っ取りはできない。

 かといって、プラドを殺さずに帰ったら、どうなるだろう。

 何も成果を出さなかったどころか、ワズロフ家の騎士を侮辱するという大失敗を犯してしまった。

 冷静に考えてみると、実際にはゴンクール家は騎士カロダンをワズロフ家に突き出しはしないだろうと思える。しかし、騎士ジンガーは間違いなく本物なのだから、ワズロフ家に何らかの形で報告が入る可能性は高い。

 いったい自分はどうすればいいのか。

 悩んだすえ、ニルフトは、プラドを暗殺する、という選択肢を選んだ。

 この方法には大きな利点がいくつかある。一つは、ゴンクール家の親族たちに、ボルドリン家の恐ろしさを思い知らせることができるという利点だ。親族たちのうち約半数ほどがボルドリン家とつながりを持っているが、彼らがボルドリン家を裏切ろうとする気持ちを吹き飛ばすことができる。

 次に、プラドの復讐を防ぐことができる。ドプス暗殺がボルドリン家のしわざだということは明らかだ。証拠がないから正面切って罪を問うことはできないが、プラドは有無をいわさず経済上の争いといやがらせを仕掛けてくるだろう。ドン・コスペスが次期当主後見人となっていれば押さえてくれるはずだった。後見人の立場は軽いものではない。だが後見人にはなれなかった。

 そして、死期の迫ったカッサンドラが喜ぶだろう。ニルフトにとり、それは大きな意味がある。

 もう一人の従者であるヒューベルトも密偵で暗殺者だ。皆が寝静まった時間、二階の窓から庭に下りた。葬儀と親族会議があった日の夜中である。皆疲れきって眠っている。

 ヒューベルトに〈隠蔽〉をかけた。ニルフトの〈隠蔽〉は上級に達している。動き回れば存在は認識されるが、魔法が切れるまでは、どんな顔をしているか、どんな服を着ているかが記憶に残らない。

 本館の表側で陽動をしてもらい、ニルフトは本館のなかに忍び込んだ。図面は頭にたたき込んである。すぐに当主の部屋近くに到達し、見張りの兵を〈眠りの杖〉で眠らせると、部屋のなかに入り、当主の喉元に毒針を突き刺した。

 今回に限りニルフトは、いつもとはちがうことをした。平白蛇の毒に、ごく微量の女王毒を混ぜたのだ。このやり方なら、症状は平白蛇の毒と変わらない。だがどんな解毒剤も効かない。緑ポーションでさえ、待ち構えて服用するのでないかぎりまにあわない。〈浄化〉持ちであるエダは今ヴォーカの町を離れている。プラドは絶対に助からない。この暗殺は失敗するわけにはいかないのだ。

 針は抜かない。この位置に突き刺した針を抜くと血が噴き出るからだ。

 そして脱出しようと部屋を出て少し歩いたところで声が聞こえた。

「ジンガー。何があった」

「一階で何かあったようです。二階と三階にいた不寝番も下に下りたようです」

「ジンガー。おじいさまの所に行け!」

「はっ」

(ジンガー!)

(どうしてこんな所に?)

 本館のなかには次期当主家族の住む区域がある。ノーマがいるのはそこだと思っていた。あるいは客棟か。

 だが、よく考えてみれば客棟は二棟とも使用中だ。そして次期当主家族の住む区域には亡きゼプスの妻や子がいる。だからノーマが当主用の区域にいることは不思議ではなかったのだ。

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