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狼は眠らない  作者: 支援BIS
第36話 賢人王の血
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 ニルフトは、今回の仕事を甘くみていた。

 それは認めなければならない。

 わざわざニルフト自身が来る必要のない仕事だと考えていた。

 数年がかりでゴンクール家の親族を取り込んできており、このあとすることといえばドプス・ゴンクールを暗殺することだけだ。

 そもそもボルドリン家がヴォーカの貴族であるゴンクール家の乗っ取りをたくらんだのは、コグルスへの、つまりザック・ザイカーズへの対抗措置だった。

 ヴォーカがザックの軍門に下るのは時間の問題だと思われていた。そうなればザックはヴォーカを橋頭堡としてバンタロイにまで干渉してくる。そうなる前に、ヴォーカに情報収集の拠点を築いておく必要がある。これがボルドリン家の支配者カッサンドラの考えだった。

 そうなると標的はおのずと絞られる。ザックがヴォーカを支配したあとも生き残れるほどヴォーカに深く根を下ろしており経済力のある家となると、まず候補に挙がるのがゴンクール家だ。直系男子が少なく後継態勢に問題がある点でも狙いやすい。そのうえ、ゴンクール家の親族には商売上ボルドリン家とつながりがある者が何人かいた。

 乗っ取ってしまえばうまみのある家なので、それなりの金額がつぎ込まれた。そうしたところ、なんとザック本人がヴォーカに乗り込んできた。あわてたボルドリン家では、大金をつぎ込んでゴンクール家の親族たちを取り込んでいった。そしてそろそろ本格的に乗っ取りを始めようとしたころ、様子が変わってきた。

 まず、ザックがコグルスに引き上げた。これには唖然とした。ザックがヴォーカを諦めるとは、意外すぎた。

 次に、ヴォーカが発展の兆しをみせ始めた。今はまださほどの成長を達成してはいないが、この機運は数年は続くとカッサンドラはみている。もしかすると、北部諸都市と国の中心部を結ぶ重要な商業都市に発展するかもしれない。

 そしてカッサンドラが昨年の暮れ、血をはいた。

 余命短いカッサンドラが、最後の大仕事としてゴンクール家乗っ取りを選んだ。そして腹心のニルフトをヴォーカに送り込んだのである。

 その使命は、ゴンクール家に残った最後の成人男性であるドプス・ゴンクールを暗殺することだ。そうすれば、ゴンクール家はボルドリン家のものとなる。ゴンクール家ならば情報収集の拠点としてはちょうど頃合いの家だし、成長著しいチェイニー商店の最大出資者でもあるので、経済的な利益もみこめる。

 カッサンドラは、ゴンクール家から取った嫁であるクサンドリアに、三男のホルカッサをゴンクール家の跡継ぎに押し込むのがゴンクール家のためであると吹き込んでいる。そのクサンドリアがホルカッサを連れてゴンクール家に訪ねる一行に、ニルフトは従者として参加した。

 だがカッサンドラの狙いは、ホルカッサを後継者にすることではない。ホルカッサを後継者にという揺さぶりをかけることによって、ゴンクール家がガイプスを後継者とし後見人を立てるよう仕向けることが、真の狙いだ。

 そうなればゴンクール家はボルドリン家の思いのままとなる。なぜなら後見人に選ばれるにちがいない一族の重鎮ドン・コスペスは、とうにカッサンドラに取り込まれているからだ。もちろん本人はゴンクール家をボルドリン家に売り渡したつもりなどない。ボルドリン家を利用してゴンクール家と自分を肥え太らせることを狙っているのだ。

 それにしても、暗殺などという手段をとるということは、カッサンドラの焦りを示している。それは将来に禍根を残す手段だ。だが、今度ばかりはやむを得ない。カッサンドラには時間がないのだ。

 そしてニルフトはヴォーカに来た。クサンドリアは三男のホルカッサをゴンクール家の後継にするべきだと、都合三度にわたり当主プラドに申し出た。プラドの忍耐がそろそろ限界に達する頃合いをみはからって、ニルフトはドプスを暗殺した。簡単な仕事だった。ゴンクール家には騎士がおらず、腕の立つ兵士や密偵もいない。昼寝しながら尻を掻くような仕事だった。

 あとは葬儀のあとに行われる親族会議の顛末をみとどけてバンタロイに帰るだけのことだ。そのときはそう思っていた。

 当然ながら、ニルフトはドプスの葬儀には参列しなかった。ボルドリン家の一行は誰も招かれなかった。まったく当然のことだ。

 騎士カロダン・ホイストが親族会議に護衛として入室したいと申し出たときは、絶対に断られると思っていた。ところがどういうわけか、当主に判断を仰ぐので、取りあえず入室してよいと言われた。クサンドリアと、ホルカッサと、そのほか二名が。

 それは、ゴンクール家の執事カンネルらしからぬ判断だった。何か魂胆があるのかもしれない。だが、その魂胆が読めない。

 とにかく入室の許可が出たのだ。騎士カロダンのほかにもう一人入れる。ニルフトは、自分の目で親族会議の成り行きをみとどけてやろうと思った。

 ノーマが当主の横に座るのをみたときには、愕然とした。事前情報では、ゴンクール本家にこんな人物はいない。

 そして、それ以上の衝撃を与える人物が入室してきた。

 騎士ジンガー・タウエルが。

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