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狼は眠らない  作者: 支援BIS
第35話 ゴンクール家の後継者
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「誰がお前に発言を許したのだ、クサンドリア」

 空気が凍るほど冷たい声音だった。部屋のなかは緊張で満ち、身動きする者もない。

「も、申しわけございません」

 クサンドリアがわびの言葉を発したので、ほんの少し空気がゆるんだ。

「クサンドリアとテンドリアの陪席を許す。ただし発言は許さぬ。今後二人がわしの許しなく言葉を発したら、ただちに退席させよ。また、二人が陪席するのにふさわしくない話題となった場合は、その時点で退席させよ」

「は」

 カンネルが深々とお辞儀をして答えた。

「次にクサンドリアの横に座っている若者は何者か」

 クサンドリアの横に座っているのは、クサンドリアの三男であり、ボルドリン家がゴンクール家の後継者に押し込もうとしている人物だ。今年二十歳になる。プラドにとっては孫であり、すでに引き合わされているのだから、何者かと問うたのは相当に冷たい態度だ。

「は。クサンドリア様のご三男ホルカッサ様でございます。クサンドリア様によりますと、ホルカッサ様は、本日クサンドリア様がご提案なさる内容に深く関係がおありのため、ご同席なさる必要があるとのことでございます」

「では、クサンドリアに発言を許すことがあり、そのとき必要であると判断したらご入室いただく。それまでは別室でご待機いただけ」

 ここでクサンドリアが何かを言おうとしたが、後ろにいた従者に止められたのを、ノーマの鋭い視線は捉えていた。

「次にクサンドリアの後ろにいる騎士と従者は何者か」

 親族会議の部屋に入れるのは、出席者以外では、本家の執事と執事補佐、それに当主の護衛騎士と本家の兵士のみで、用事があるときだけ本家の従者も入ることを許される。現に今室内にいる親族以外の人間といえば、執事のカンネルと執事補佐のフィンディンと護衛騎士のほかは、本家に仕える兵士六人だけだ。ところがクサンドリアの後ろには、本家どころかそもそもゴンクール家の所属でさえない騎士と従者がいる。

「ボルドリン家の若君であるホルカッサ様がゴンクール家親族会議にご出席されるにあたり、護衛とお世話役として部屋に待機なさる必要があるとのことです」

「では、ホルカッサ殿と一緒に退席なさるがよかろう」

 騎士とは貴族であり、ボルドリン家ほどの貴族家が抱える騎士となると、それなりの身分である可能性が高い。もちろんこの場では部外者にすぎないが、プラドとしてもあまり高圧的な物言いはできない。

「お待ちを!」

 そう言い放ったのは、ほかでもない、ボルドリン家の騎士だった。

 プラドは目を細くしてその騎士をにらみつけた。

「ボルドリン家の騎士殿。他家の親族会議に踏み込んで、許可も得ず発言する。ご自分がいかに非礼なふるまいをしているか、ご承知か」

「しばらく! しばらくお待ちあられたい! 貴家にとり重大な問題が起きておる。この場にとてつもない偽りをなしておる者がおるのだ! 放置すればゴンクール家がとがめを受けずにはすまぬ!」

 この意外な発言に、居並ぶ親族全員が驚き、目をみはった。

 ボルドリン家の騎士は、まっすぐにジンガーを指さして、大声を張り上げた。

「そこな者! この痴れ者めが! 何条あって由緒あるワズロフ家の紋章の刻まれた鎧を身にまとうや! その罪、死をもってもあがなえぬと知れ!」

 全員がジンガーの鎧の左胸をみた。

 左胸に刻まれた、雷を持つ獅子の紋章を。


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 ここに至って親族たちは、事態の重大さを知った。

 ワズロフ家といえばこの国に十三人しかいない侯爵のうちの一人であり、しかもラインザッツ家に続いて家格が高い。かつ王国の北半分では、ツボルト侯爵および二人の男爵と並んで経済力のある貴族だ。

 バンタロイはマシャジャインに距離的に近く、また王都とやり取りするにはマシャジャインを経由しなければならないという事情もさることながら、かつてそこには小さな王国があり、バンタロイの貴族諸家も臣従していたが、その王家の末裔がワズロフ家なのである。

 今ボルドリン家の騎士が、ゴンクール家の親族会議で上座に立った騎士が、ワズロフ家の騎士を騙った偽者だと糾弾したのだ。本当に偽者であったなら、ゴンクール家はただではすまない。

 だが、プラドには、いささかも動転した様子はない。

「ふむ。ボルドリン家の騎士殿、お名前は何といわれる」

「カロダン・ホイストと申します」

「よかろう、騎士カロダン殿。そこな騎士の身元については、親族会議のなかでおのずと明らかになること。ゆえに貴殿には、しばしのあいだ親族会議の傍聴をなさるがよい」

 ここでプラドはぐるりと顔を回し、席に座る親族たちのすべてに目線をそそいだ。

「親族会議を開会する。本日の議題は、わがゴンクール家の後継者指名についてだ。会議の冒頭に、わしの横に座っている人物を紹介しよう」

 親族たちはすでに、葬儀の席でノーマが当主に次ぐ席に座るのをみていぶかしみ、その名とゴンクール家との関係を聞いているはずだ。だがそれは断片的な情報であり、不確かな聞き伝えにすぎない。

 一同はプラドが話す言葉を一言も聞き漏らすまいと身構えた。

 今はじめて当主プラドから、ノーマの正体が語られるのだ。

「第35話 ゴンクール家の後継者」完/次回「第36話 賢人王の血」

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