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狼は眠らない  作者: 支援BIS
第34話 迷宮事務統括官イライザ
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「それから、オレは剣士だ。魔法使いじゃない。魔法も使うが、それはおまけだ」

「は、はは。ははははは」

 ずいぶん乾いた笑い声だ。水分が足りていないのかもしれない。

「貴殿は自分がパルシモ侯爵から派遣された魔法騎士団の精鋭であることを、どうしても認めないつもりか?」

「オレはパルシモには行ったこともない。パルシモ侯爵にも会ったことはない。魔法騎士団のことなんか何も知らない」

「そうか。パルシモ魔法騎士団の幹部であることは公式には認めないというのだな。そのうえで、手洗いでは小じゃれた方法で〈キルジェヴォグの眼〉を封じてみせた。貴殿が準備詠唱もなく〈移動〉の魔法を使ったとき、筆頭魔法使いのネルツェンは、思わず、えっ、と声を上げていた。そして先ほどみせてもらったソファーの鮮やかな移動。ネルツェンによれば、貴殿は魔法制御の精度においてネルツェンと同等かあるいはそれ以上だという」

 レカンには、自分の魔法制御がそこまでのものだという自覚はないが、アーマミールをはじめとする王都の神殿の施療師たちに認めてもらったことで、多少の自信は持つようになっていた。

「そうか。そうか。公式には認めないが、誰がみても異常な魔法技術をさらしたわけか。それはあえてやったことだ。自分の正体に気づけと。待てよ。もしかすると〈自在箱〉を所持していることを明かしたのも……」

 勘違いが進行しているようだ。

「貴殿の真意はよくわかった」

「たぶんあんた、勘違いしているぞ」

「〈自在箱〉にも大いに興味があるが、その存在を教えてもらっただけで、今回は引き下がるべきだろうな。このことについては、侯爵から直接パルシモ侯爵に提供依頼を出してもらうことにしよう」

「それは勝手にしてくれ。だが、オレの〈箱〉と同じものがパルシモにあるとはかぎらんぞ」

「なに? それは特別製の〈自在箱〉なのか? いや。それはいい。貴殿の意図するところは確かに了解した。今回、パルシモ侯爵の密偵がツボルト迷宮に侵入したというような事実はなかった。冒険者レカン殿が仲間と一緒に探索しただけだ」

「わかってもらえ、たのか?」

(魔法騎士団の幹部から密偵に格下げされたな)

(いや。格上げなのか?)

「もちろんだ。よくわかった。そのうえでお教えいただきたい。そして一つ無理を聞いていただきたい。まず、ツボルト迷宮に百二十階層より下の階層があるということは、なぜわかったのだ?」

「百二十階層に行けば、わかる者にはわかる」

「いや、貴殿はもともと知っていた。でなければ、わざわざ虎の子の魔法騎士団精鋭を、こんな時間のかかる任務に派遣したりはしない。教えてくれないか。何か古文書のようなものでもあったのか?」

「あるばあさんから手がかりになることは言われたな」

「それは、どこのどなたなのだ?」

「それを言うことは禁じられている」

(禁じられていたかな)

(よく覚えていないが禁じられていたような気がする)

(いや。禁じられていなかったかな?)

(まあいいや)

(禁じられていたことにしておこう)

「口伝か。そうか。南部には古代から栄えていた地域も多いからな。何か言い伝えが残っていたのだな。それで、百二十階層から下に下りる方法は?」

「知らん」

「知らないわけがあるか! 現に貴殿は百二十一階層に下りたではないか!」

「下りていない」

「そこを否定するのか。たった今、百二十階層から下に行く方法は、そこに行けばわかる者にはわかるといったではないか!」

「人の話はちゃんと聞け。オレは、百二十階層より下があることは、わかる者にはわかると言ったんだ。どうやって行くかについては何も言っていない」

「言葉遊びはやめていただけないか。われわれは切実にこの情報を欲しているのだ」

「ならば調べたらいい。そこに秘密があるとわかっていたら、その秘密を暴くのはむずかしいことじゃない。徹底的に調べればいいだけのことだ」

「貴殿がわずかな時間でその秘密を解き明かしたことには、驚嘆している。待てよ? 貴殿はいつからここに来ていた」

「この町に着いたのは、今年の一の月の八日だったな」

「そんなわけがあるか!」

 イライザはしばらく荒い息を吐いていたが、深呼吸を一つして気を静めた。

「いや、失礼した。秘密任務で潜入した日付けが答えられるわけがなかった」

「オレは潜入していない。堂々とこの町に入り、堂々と探索している」

「わかった、わかった。それで、何人の精鋭が同行しているのだ?」

「オレともう一人だ」

「それも教えてもらえないのか。……そうか。やっと貴殿の意図がわかった」

「ほう? 一応聞いてみよう」

「直接パルシモ侯爵と交渉しろというのだな。交渉に応じてもらえるだけの対価を用意して。なるほど、考えてみればそれは当然か。貴殿は秘密をつかんだ。その秘密を売ることができるのはパルシモ侯爵だけなのだな」

「オレはパルシモ侯爵とは縁もゆかりもない」

「よくわかった。貴殿の言う通りだ。隠された階層の秘密は、直接パルシモ侯爵と交渉するよう、伯父上に進言しよう。そうとして、本題に入りたい。〈彗星斬り〉のことだ。まさかわが迷宮から本当に〈彗星斬り〉が出るとは。まずは実物をみせていただけないだろうか」

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パルシモ侯爵「? わし、喧嘩うられてんのかな?」
パルシモ侯爵「?」
[良い点] 欠片も話が噛み合わないの好き
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