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狼は眠らない  作者: 支援BIS
第33話 隠された階段
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「やれやれ。取りあえずはブーツの補修ですね。私のほうは別のブーツを買ってもいいけれど、レカン殿の鎧は補修しなくては戦えないでしょうね」

「そうだな。これ以上の軽鎧はちょっとやそっとでは手に入らんだろう。修理工房はどこだったかな?」

「買い取り所があるところと迷宮を挟んでちょうど反対側の建物ですよ」

「ここは施設と施設のあいだが遠いな。複数の施設に用事があるやつは、えらい距離を歩くことになる。おっ?」

「どうしました?」

「今まで注意を払っていなかったが、ここ以外の部屋にも魔獣が湧いているな。それぞれ一体ずつだ」

「ほう」

「ただし階段のある部屋だけ、魔獣が湧いていない。なるほどな」

「何がなるほどなんですか?」

「まあ、この次来てからのお楽しみだ。出るぞ」

「はい。それにしても、あれほどの防御力がある八目大蜘蛛の軽鎧やブーツが、いともあっさり斬り裂かれましたねえ」

「隠された下層の敵は、やはりそれだけのことがあるということだな」

 レカンとアリオスは迷宮を出て、修理工房に行った。細かく細分化されていて、驚いたことに蜘蛛素材の軽鎧専門の窓口というものがあった。

「へえーー。こりゃ、いい鎧だねえ。ニーナエのかなり深い層の素材だね。ってか、もしかしてこの胸当てと肩当て、女王素材かい? 久しぶりにみたよ。職人もいい腕だねえ。うーん。補修材は工夫できなくはないけど、もとの素材残ってないかい?」

「あるぞ。これだ」

「これこれ。腹の皮は?」

「これだな」

「あるんならさっさと出しなよ。糸は?」

「これだ」

「いいね、いいね。補修には応急補修と正式補修がある。応急なら一日、正式なら一応十日もらう」

「ずいぶんかかるんだな」

「きちんとばらして隅々まで補修するからね。値段もだいぶちがう。けど言っとくよ。これは正式補修に出しな」

「もちろんそのつもりだ」

「いいね、いいね。これが預かり証と見積もりだ。見積もりのほうは、実際にやってみたら多少増減する。日にちも、多少ずれることもある。いいね」

「わかった。よろしく頼む」

「あいよ! まいど!」

 アリオスも、斬られていないほうのブーツも補修に出した。今は〈箱〉から出したサンダルを履いている。それだけでなく、結局アリオスも軽鎧を修理に出すことにした。あちこち傷もついているし、ゆるんだりゆがんだりしている部分もあるようだ。

「オレはさっき出た剣を鑑定してもらいに行く」

「あ、じゃ、鑑定書、あとでみせてもらえますか」

「かまわんが、どこかに行くのか?」

「靴を買いに行ってきますよ」

「そうか。明日から十日間休みにする」

「じゃあ私はこれから留守にします」

「町を出るのか?」

「ええ。手に入った剣を実家に送る段取りをしてきます。今出してもらえますか」

「わかった」

 レカンはアリオスから預かっていた槍や剣を出して渡し、アリオスと別れて一人で買い取り所に向かった。

 迷宮の北側を回った。右に〈錦嶺館〉の塀がある。なるほどここが宿舎なら、買い取り所に行くにも補修屋に行くのも、そして迷宮に入るのにも便利ではある。

 買い取り所に着くと、老鑑定士テルミンの列に並んだ。まだ早い時間なのに、この列だけ長い。

「テルミン老師がお呼びです」

 期待した通り職員が呼びに来たので、レカンは列を離れ、老鑑定士の座るカウンターの前に進んだ。

「今日は秘密鑑定を頼みたいんだ」

「そうか。誰かここを代わってくれ」

「えっ」

「えっ」

「ええっ?」

 並んでいる冒険者たちが戸惑いと不満の声を挙げた。それは当然だろう。わざわざ並んでいるのに、お目当ての鑑定士が消えてしまうのだ。それでも声を荒げたり実力行使に出ようという者はいなかった。

「すまんな」

 誰にともなく声をかけ、レカンは案内されるまま、奥に進んだ。

 奥まった一室に着くと、老鑑定士は腰の袋から宝玉を出して入り口ドアノブの脇に取り付けられた魔石にふれ合わせた。何かわずかな魔力が働いたのをレカンは感知した。かちりと音がしたのは、たぶんドアが開かないような仕掛けが解除されたのだろう。

 老鑑定士はドアを開き、なかに入った。レカンもあとに続いた。

 大きな横長のテーブルの両側に椅子がある。

「そちらにかけなさい」

「ああ」

 椅子に座る前に〈彗星斬り〉を取り出そうとするレカンを、老鑑定士が制した。

「物品を出すのは職員が来てからだ」

「職員?」

「立ち会いの職員だ」

「秘密鑑定なのに立ち会いがつくのか?」

「何もせんよ。お前がわしを襲うか、わしがお前の物品を奪うか、勝手に売買の話をするか、あるいは費用を支払った以上の秘密鑑定をせんかぎりはの」

「なるほど」

 言われてみればもっともなことだ。確かに領主としては立会人を置かなくてはならない。

 どたどたと足音が近づいてきた。

 入ってきた男がドアに宝玉をかざして錠を下ろす。

「はあはあ。お待たせしました」

 汗を拭き取りながら男が言った。身長は低い。太っているわけではないがぽっちゃりしていて、にこにことした人のよさそうな顔をしている。だがレカンはだまされなかった。

(こいつ密偵だ)

(しかも暗殺者の匂いがする)

 出てもいない汗を拭いて楽しいかと言ってやろうかと思ったが、やめた。

 

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― 新着の感想 ―
運命の出会い!(笑) そうか、初登場はこの話だったか……
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