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狼は眠らない  作者: 支援BIS
第33話 隠された階段
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 宝箱のなかにあったのは、確かに〈彗星斬り〉だ。

 ニケが持っていたのと同じ剣だ。

 レカンは笑いが込み上げるのをこらえられなかった。

「〈鑑定〉!」

 魔法を発動させたが、何も情報が浮かんでこない。

「変だな」

 落ち着いて気息を整え、慎重に魔力を練った。

「〈鑑定〉!」

 だめだった。確かに魔法は発動しているのだが、いつものような手応えがない。魔力が散っているような感覚がある。

「はじかれた……のか?」

 そういえば、以前ニケの持つ〈彗星斬り〉を鑑定させてもらったことがあったが、鑑定が通らなかった。ニケはあのとき、〈鑑定〉を磨けばいずれ鑑定できるようになると言ったが。

「これが〈彗星斬り〉なんですか?」

「そう思うんだがな。以前みた〈彗星斬り〉と同じようにみえる。さっきの発動の具合もな」

「えっ? 〈彗星斬り〉をみたことがあるんですか? いったいどこで?」

「どこでも何も、お前、ニケが」

 ニケが持っているのをみただろうと言いかけて、レカンは言葉に詰まった。もしかすると、アリオスとニケは会ったことがないかもしれない、と気づいたのだ。

「そういえば、〈ウィラード〉のもう一人のメンバーであるニケという人が〈彗星斬り〉の使い手だと、ヘレスさんに言ってましたね。あれ、本当の〈彗星斬り〉だったんですか」

「〈彗星斬り〉の本物とか偽物とかがあるのか?」

「いえ、建国王が愛用した〈彗星斬り〉は有名ですからね。似たような名前の剣やわざには、けっこうお目にかかりますよ」

「建国王?」

「ええ。ザカ王国を打ち立てた英雄です。まさか知らないなんて言いませんよね」

「知らん」

「あなたはそういう人でした」

「ふむ。〈彗星斬り〉が使いこなせたとすると、建国王というやつは魔法剣士だな。しかも相当魔法に熟達していたはずだ」

「え? そうなんですか? 魔力のある剣士なら使えるんじゃないんですか?」

「使ってみろ」

 アリオスは喜々として〈彗星斬り〉を手に取り、抜いた。そして剣身に魔力を流し込んでいる。今までアリオスが魔法を使うのをみたことはないが、魔力持ちだということはレカンにはわかっていた。だからアリオスには〈彗星斬り〉に魔法の剣身を出させるところまではできると思ったのだ。

 ところが発動しない。しばらく奮闘したが、やがて剣を鞘に収めた。

「まいったなあ。今までも魔法剣は使ったことあるんですけどね。これはだめです。発動もさせられない。というか、これ、本当に魔法剣なんですか?」

「貸してみろ」

 レカンは剣を受け取り、鞘から抜き、魔力を流し込んだ。

 美しい白色の魔法の剣身が出現した。

「おお。出ましたね。やっぱり魔法剣だったんですか。美しい色ですねえ」

 レカンはさらに魔力をそそいだ。剣の長さはぐんと伸び、今やレカンの身長ほどもある。さらに魔力を流し込んだ。長さはさらに五割ほど伸びた。そこでレカンは魔力を流し込むのをやめた。魔法の剣身はただちに消えた。

「これ、ものすごい魔力消費だな」

「そうなんですか?」

「扱えるやつは限られているだろうな。いや」

 レカンは以前、ニケが〈彗星斬り〉を使うのをみた。変幻自在の魔法剣の舞をみた。あれをやるにはきわめて高度な魔力操作が必要だ。しかも今実際に使ってみてわかったが、必要な魔力量がすさまじい。それでいて、武器としては剣なのだから、剣の技量が必要だし、近接戦闘がこなせる装備と体力と打たれ強さがないと、強い敵とは戦えない。

「これを本当に使いこなせるやつなんか、いないんじゃないか?」

「レカン殿なら使えるかもしれませんね。というか、レカン殿に使えないとしたら、誰にも使えないでしょうね」

「そうだな」

 これは自慢ではなく、素直な感想だ。

「ニケという人は、どういう人なんですか?」

「ニケはシーラだ。シーラが若い女の姿をとったのがニケなんだ。エダにはまだ教えていないがな」

「えええええっ? シーラ様ですか。あの人はもう、何でもありですね。そうか。でもシーラ様か。もしかしたら」

「うん?」

「私の祖父が〈彗星斬り〉をみたことがあると言っていたんです。でも〈彗星斬り〉といえば、王宮の宝物庫に国宝として保管されている一本しかありませんからね。どこでみたんだろうと思っていたんです。祖父はシーラ様に〈彗星斬り〉をみせていただいたのかもしれませんね」

「それはありそうな話だな」

「ところで、どうしてエダさんには秘密なんですか?」

「どうしてと聞かれても、特に理由はない。しいていえば、シーラが秘密にしているからだな。だが、ふむ」

 レカンは自分がなぜエダに秘密を打ち明けなかったのか、その理由を自分の心に聞いてみた。

「心のどこかで、エダに教えてしまうと秘密を守りきれなくなるという気持ちがあったかもしれんな」

「そうですね。エダさんには言わないほうがいいでしょう」

「ほう? なぜだ」

「あの人の心には、隠し事なんかないほうがいいです」

「隠しきれないからか?」

「そうではなく、あの人の心が太陽のように明るいからです。それがあの人のいいところです。それを曇らせるようなものも多少は抱えているでしょうけど、わざわざそれを増やすようなことをする必要はないでしょう」

「ふん? まあ、エダにならばらしてもかまわんとは思うが、とりあえずは内緒にしておこう」

「はい」

 レカンは、〈彗星斬り〉の生の剣身をじっとみつめた。

 魔法をまとっていなくても、この剣は美しい。

(知りたいな)

(この剣の真の性能を)

 レカン自身にはこの剣を鑑定する力がない。だがこの剣の詳しい中身をどうしても知りたい。そして本当にこれが〈彗星斬り〉だという確証も欲しい。

 かといって、レカンとアリオスが存在しないはずの百二十一階層から恩寵品を得たということは、今は知られたくない。

(秘密鑑定とかいうのがあるという話だったな)

(あのじいさんなら信用してもいいか)

 レカンは買い取り所に行くことを決めた。


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― 新着の感想 ―
あの人の心が太陽のように明るいからです。このくだり大好き
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