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狼は眠らない  作者: 支援BIS
第33話 隠された階段
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 翌日、二人は百二十一階層に下りた。

 百二十一階層の構造は第百二十階層と同じだった。つまり、部屋は五つしかない。そのうちの一つは階段のある部屋だ。残り四つの部屋のうち、右手前の部屋の侵入通路に入った。

「うん?」

「どうかしましたか」

「魔獣が現れたが、一体だけだ」

「へえ?」

 この階層からは、何人で入っても一体しか出ないのだろうか。そうだとすると、格段に難易度が下がったことになる。だがそんなことがあるだろうか。もしかするとこの一体は、とてつもなく手ごわいのかもしれない。

 今日腰に吊っているのは〈威力剣〉である。百階層で得たものだ。万能の使い方ができ、手持ちの剣のなかでは攻撃威力が最も高い。ただし、〈ザナの守護石〉の物理攻撃力付加は無効である。

「ふむ。体の大きさは、百二十階層とさほど変わらんな。オレと同じぐらいの背の高さだ。魔力は強い。得物はショートソードだな」

「わかりました」

「〈展開〉!」

 レカンは〈ウォルカンの盾〉を展開した。うだうだ考えていてもしかたがない。しょせん戦ってみなければ相手の強さや特性はわからないのだ。

 部屋のなかに入って立ち止まった。

 すぐあとからアリオスが入ってきた。

 敵は部屋の中央に自然体で立ち、右手にショートソードを持っている。

 身長が高いので、ショートソードがひどく小さくみえて不釣り合いだ。

(うん?)

(あのショートソード)

(どこかでみたことないか?)

 ショートソードが白い光を放ち、剣身の長さが三倍ほどに伸びた。

 レカンは全身の血の気が引くのを感じた。

「〈彗星斬り(ファスターシル)〉だ!」

「ええっ?」

「あの剣身、さらにあの倍ぐらいに伸びると思っておけ! 瞬時にだ」

「はい」

 危機を知らせる鐘の音が、レカンの頭のなかで鳴り響いている。

 相手がこちらに向かって走りだした。

 壁際に追い詰められてはたまらない。レカンも走りだした。その横でアリオスも飛び出した。アリオスが速い。レカンより前に出る。

 あと十歩あまりの距離に達したとき、魔獣が剣を右に引いた。そして右から左になぎ払う。レカンたちからみれば左側から右への攻撃だ。

 魔法剣の剣身が突然伸びて、左側のアリオスを真っ二つにする寸前、アリオスが跳躍した。レカンは盾の高さを合わせて魔法剣の攻撃を防いだ。

 防いだはずだった。

 だが魔法剣の剣先は、レカンの右胸と右肩を斬り裂いた。

 空中に跳び上がったアリオスが、魔獣の頭部に斬撃を放つ。だが魔獣はおそるべき反応をみせ、斜め後ろに下がってかわす。それでも魔獣の顔の右上部が削り取られる。

 次の瞬間、レカンが魔獣に肉迫し、首に刺突ぎみの斬撃を放つ。

 あと一歩のところで首を落とせない。

 魔獣が魔法剣を振る。だがレカンは至近の位置に接近しており、すでに盾は敵に肉迫している。金属音が鳴り響き、魔法剣は〈ウォルカンの盾〉に防がれた。

 魔獣の斜め後ろに着地したアリオスが、反動を生かして右に回転しつつ後ろに跳び戻り、魔獣の首を刎ね飛ばした。

 勝負は終わった。

 がちゃん、と音を立てて、レカンの手から剣がこぼれ落ちる。だらんと垂れ下がった右手からは血がしたたっている。

 左手を下げて手を放すと、〈ウォルカンの盾〉が音を立てて床に転がる。レカンはがくりと両膝を突き、左手を右胸にかざして呪文を唱えた。

「〈回復〉」

 次に右肩にも回復をかける。

「〈回復〉」

 もう一度、右胸と右肩に回復をかける。

「〈回復〉〈回復〉」

「大丈夫ですか?」

 アリオスが心配そうな顔で近寄ってくる。

「お前、斬られてなか……」

 魔獣が振った魔法剣の先が、アリオスの足をかすめたようにもみえたのだが、今近寄るアリオスをみて、レカンは言葉を失った。右足のブーツが深く斬り裂かれている。レカンの心配を先読みしてアリオスが言った。

「大丈夫ですよ。大赤ポーションを口に含んで突進しました。跳躍した瞬間に飲みましたからね。ブーツはずたずたですけど、なかの足は無事です」

「〈回復〉」

 そうは言われても回復はしておいた。

「盾できちんと防いだつもりだったんだがな」

「盾で防がれた部分は無事だったんじゃないですか? そして魔法剣の軌道が盾を通り過ぎたとき、再び剣先が出現した。その剣先が」

「オレの胸に達していたわけか。なるほど」

 わかってみれば当たり前のことだ。魔法剣の剣身は、根元のショートソードの部分以外は魔法でできている。魔法が盾に当たれば、盾のほうには衝撃はあるが、剣のほうにはない。あるいはほとんどない。そして盾に防がれて剣先は姿を消したが、盾がない位置に剣が達すれば、剣先は姿を現す。それだけのことだったのだ。

 二度目に盾で防ごうとしたときは、距離が近かったからよかったのだ。至近距離まで近づいていたから、魔法剣の魔法でできている剣身ではなく、物理的な剣身のほうを盾に当てて押し込むことができた。それが勝負をわけたのだ。

 魔法剣というのは、受ける側になってみると、実に厄介なものだ。なにしろ、〈立体知覚〉で探知できない。〈立体知覚〉は物理的に存在するものを探知できる技能であって、魔法は探知できないのだ。かといって、〈魔力感知〉は〈立体知覚〉ほど緻密ではないし、高速戦闘に対応できない。〈魔力感知〉はそもそもそういう能力ではないのだ。

 だが、勝った。

 とにかく勝った。

 レカンは宝箱に近寄り、蓋を開けた。

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― 新着の感想 ―
[一言] レカンの元いた世界は魔法剣ってないんですよね 爆裂弾のような技術的に落ちた世界より進んだものとか、能力を付与できる技能があったりするので魔法剣くらいありそうだなと思うんですが存在しないのは意…
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