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買い取り所に行って列に並ぶと、またしても鑑定士テルミンに呼び出された。そしてまたしても、大勢の冒険者が並んで待っているのを押しのけて、テルミンはレカンの出した品を鑑定した。並んでいる冒険者たちがなぜ文句を言わないのか、謎だ。
レカンは〈連牙槍〉の鑑定を依頼し、買い取り値段も教えてほしいと言った。
鑑定士テルミンは鑑定書を作り、それが後ろの事務官のもとに運ばれて、査定金額が記入された。
鑑定書を書いているとき職員が鑑定書をのぞき込んでいるのが気になった。
鑑定士テルミンは鑑定書の写しを作り、査定金額も書き込み、レカンに渡して料金を受け取った。その料金は職員に渡され、職員は事務官のもとに料金を持っていった。
「次は」
「今日はこれだけだ。ところで、数日前、別の鑑定士の鑑定書をもらったが、〈深度〉が記入してなかった」
「当たり前だ。〈深度〉を読めない鑑定士が、どうして〈深度〉を書けるのだ」
「もしかして、〈深度〉が読める鑑定士というのは、少ないのか」
「今ツボルトにおる上級鑑定士は、わしのほかには弟子が二人だけだ」
どうも、かなり希少な技能のようだ。
「ここで鑑定してもらった内容は、全部管理事務所とやらに筒抜けなんだな」
「それはそうだ。管理事務所は迷宮から何が出たか知りたいからな。いつ何をいくらで買ったかの記録も残す必要がある。だから鑑定書はすべて管理事務所に残される。それがいやなら秘密鑑定を依頼するしかない」
「秘密鑑定とは何だ」
「別室で行う特別な鑑定だ。その鑑定結果は、依頼主と鑑定士しか知らぬ。そして鑑定士には死ぬまで守秘義務が課せられる。ただし買い取り金額の査定はない。査定をするのは事務官だからな。秘密鑑定の料金は、大金貨一枚だ」
「ほう」
「私も鑑定をお願いしたいのですが」
「品を出せ」
「レカン殿。〈雷鳴剣〉と〈獅子槍〉を出してください」
レカンはその二品を取り出して、カウンターに置いた。鑑定料金はアリオスが払った。レカンがにらみつけたら職員は鑑定書をのぞき込むのをやめたが、いずれにしても鑑定書の原本は迷宮管理事務所に残る。
今はまだいいのだ。だが、百二十階層より下に行けた場合が問題だ。
レカンとしては、最下層に到着して迷宮の主と戦うまで、誰にも邪魔されたくなかった。
7
その日、夕食のとき、レカンはツインガーに〈連牙槍〉の鑑定書をみせた。
「こういう物を手に入れた。今はオレの〈箱〉に入れてある。あんたが買いたいなら売る。どうだ」
何げなく鑑定書をみたツインガーは、ぎょっと目をみひらいてレカンの顔をみた。
「こ、これは!」
「無理に買う必要はない。買い取り所に売り払う前に、一応聞いてみてるだけのことだ」
「追加ダメージの二連か! わしの短槍の上位版だ。基本性能もぐんと上だ。しかも〈状態保持〉まで付いとるのか」
ブルスカとヨアナも食事の手を止め、興味深そうに成り行きをみまもっている。
「すごい恩寵品だ。しかし。うーん」
ツインガーに手が出ないほどの金額ではないはずだが、何を悩んでいるのだろう。
ツインガーは鑑定書をヨアナに渡した。
ヨアナはしばらく眉を寄せて考え込んでいた。そして、さばさばした表情をみせて鑑定書をツインガーに返した。
「ツインガー。いい話じゃないか。悩むこたあないよ。買わせてもらいな」
「しかしのう」
「あたいは短槍のことはよくわからないけど、これが普通の長さの槍だったら、こんな値段じゃないんだろう?」
「それはそうじゃ。短槍は玄人好みの武器だからの。よその貴族や騎士団から注文は来んじゃろう。これが長槍なら三倍の値段が付く」
「三倍だって!」
「それぐらいの性能じゃ」
「買いな! 決まりだ」
「うーん」
「あんたのその短槍、ずいぶん使い込んでるだろ。いつまでもはもたないよ」
「それはそうなんじゃが」
「これからどんな仕事を受けるにしたって、武器はいる。あんたに死なれちゃ困るんだよ」
「しかし、護衛なんかの仕事だったら、長槍のほうが」
「だめだよ! あんたが得意なのは短槍なんだ。得物は変えちゃだめだ。短槍を持ったあんたは無敵なんだから」
「う、うむ」
「レカン。買う前に、一度みせてもらえるかい」
レカンは〈収納〉から〈連牙槍〉を出してツインガーに渡した。
ツインガーは短槍をつぶさに調べ、感嘆の声をもらした。
「こんなすごい短槍はみたことないわい」
ブルスカが、自分にもみせてほしいと手を伸ばし、ツインガーはしぶしぶ短槍を手渡した。
「どうなんだい、ツインガー?」
「ものすごい短槍じゃ。この値段は安い」
「決まりだ。レカン。買わせてもらうよ」
「うん? ああ」
どうしてヨアナが答えるのだろうとレカンは不思議に思ったが、もしかすると〈グリンダム〉の会計係はヨアナなのかもしれない、と思い直した。
その推測を裏付けるように、白金貨一枚大金貨一枚の代金を、ヨアナが自分の〈箱〉から出した。
〈連牙槍〉をおのれの物としたツインガーは、こどものような表情をして、いつまでも短槍をながめていた。