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狼は眠らない  作者: 支援BIS
第33話 隠された階段
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2


 その日の夜、レカンはあまり酒も飲まず、夕食を早々と終えて、ベッドに横たわった。

 以前アリオスは、戦闘におけるレカンの初動が最適解だと言った。

 だがそれは、わずかな時間であれ、相手の動きをみさだめて動けるからのことである。そしてある程度以上の数の敵を同時に相手取るから、複雑な読みが意味を持つ。

 百二十階層の敵は、動きを読む時間を与えてくれない。そして二体しか出ない。

 今日の敵など、レカンが発動呪文を唱えるまもなく攻撃を着弾させた。

 物理攻撃の敵のほうも、移動も速いし攻撃も速い。今日は何とか〈障壁〉を連続発動させることができたが、正直ぎりぎりだった。剣を使う魔獣が相手だったら、たぶんうまくいかなかった。

 普通個体でさえそうだったのだ。階段部屋の〈守護者〉には、今日の戦い方は通用しない。

 相手の動きが速い場合、やはり左手に盾を持って右手の剣で攻撃するのがいい。ただし今は両手持ちの威力と〈威力剣〉の恩寵の力で、かろうじて一撃で敵をしとめている。片手持ちでは倒せない。倒せるとしても長期戦になる。そして長期戦になると、こちらの分が悪い。

 いっそ初手に〈イェルビッツの弓〉を使うか。魔法を使う魔獣の喉を貫いて魔法を使えなくするのだ。だが敵は物理攻撃もできるし、何より五十歩もの距離があったのでは、狙い通りに喉を射ることはむずかしい。相手もじっとしてはいてくれない。

 やはりいろいろ考えてみると、〈障壁〉頼みの戦法には無理がある。戦闘の途中で〈障壁〉が途切れたら、たちまち危機に陥ってしまう。

 一つありがたいのは、アリオスも魔法を防ぐ装備を持っていることだ。だからアリオスを遠慮せずに迎撃に出せる。

「よし。それでいこうか」

 原点に戻ることにした。

 左手には〈ウォルカンの盾〉を。右手には〈威力剣〉を。

 片手での攻撃となると一撃では殺せなくなるが、しかたがない。そこを恐れていたのでは、ここから下には進めない。

 アリオスを先に出そうかとも思ったが、それはやめた。

 もし二体同時に相手取ることになった場合、さすがのアリオスもかわしきれない。

「待てよ」

 攻撃をしないで左右に散ったらどうなるだろう。一対一の形に持ち込めるのではないか。そうなればやりやすい。前は、アリオスに魔法を防ぐ手段があると知らなかったから、その方法はとらなかった。だが今となってみれば、やってみる価値はある。

 思えば、百階層からこちら、速攻にこだわりすぎた。確かに相手の攻撃はまともに当たれば一撃でこちらを殺せる威力だ。恩寵品も怖い。だが速攻にこだわりすぎたため、戦い方の幅が狭くなっている。

 百二十階層に到達するためということであれば、それは有効な方法だったかもしれない。だが今や、その下があることがわかった。百二十階層の下に何階層迷宮が続いているのかわからないのだ。より幅広い戦い方をしなければ、ここからの戦いを戦い抜くことはできない。

 一つには、アリオスを信用しきれていないのだ。だから魔獣たちの攻撃を、まずレカンが受けるような形で戦術を組み立ててきた。だがもうその発想からは離れるべきだ。

「よし。それでいくか」

 考えが決まり、レカンは気持ちよく眠ることができた。


3


 翌日、レカンとアリオスは、百二十階層の〈守護者〉の部屋の侵入通路に直行した。

「いきなり〈守護者〉戦ですか」

「ああ」

「レカン殿が先ですか?」

「どっちでもいい」

「はい?」

「というわけにもいかんか。オレが先に入ろう」

「はい。私はすぐに入りますか。時間を置いて入りますか」

「好きにしろ」

「はい?」

 アリオスが、レカンの顔をじっとみた。

「もしかして、最初に〈障壁〉を張る戦術はやめにしたんですか」

「ああ。必要になったらそのとき張る」

 それではまにあわないから最初に張ることにしたはずなのだが、その点についてアリオスは追及しなかった。

「速攻もやめですか?」

「ああ。相手の様子をみる」

「相手が速攻をかけてきたらどうします?」

「そのときの判断で対応しろ。オレもそうする」

「わかりました」

「一つだけ決めておく。オレは右側に大回りして敵に接近する。お前は左側に回れ」

「わかりました。レカン殿らしさが戻りましたね」

「そうか?」

「ええ。ところで敵の装備を教えてください」

「右がロングソード。左が短槍。左側のほうが魔力が大きい」

「了解です」

「〈展開〉!」

 〈ウォルカンの盾〉を展開したところで、一つ聞いておくべきことがあったのを思い出した。

「そういえば、〈インテュアドロの首飾り〉は、魔法攻撃を受けると魔力を消費して防御膜を張る。ためた魔力がなくなれば防御膜は張れなくなる。お前のその宝玉はどうなんだ」

「同じだと思います。強力な魔法攻撃だと二、三発で魔力が尽きるらしいです」

「それにためておける魔力は、大魔石でいうと何個分ぐらいだ?」

「さあ? あ、でもたしか、空になったときでも大魔石が一個あれば満杯にできるはずです」

「そうか」

 大魔石一個といってもずいぶん魔力量には差がある。普通の魔法使いなら、強力な魔法を五、六発撃てる量だろうか。だが、この階層の〈鉄甲〉の魔法攻撃はきわめて強力だ。

(アリオスの宝玉が敵の魔法攻撃を防げるのは)

(二回までと思っておいたほうがいいな)

(そして連戦は危険だ)

「〈インテュアドロの首飾り〉は、何回ぐらい敵の攻撃を防いでくれるんですか?」

「さあな。今まで魔力切れになったことはない。なったとしても、すぐにオレが補充する」

「そんな技能もあるんですか。前から思ってましたけど、レカン殿は存在そのものがずるいです」

「入るぞ」

 レカンは部屋のなかに入った。

 アリオスも続いた。

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