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狼は眠らない  作者: 支援BIS
第33話 隠された階段
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「あれ? どこに行くんです」

「普通個体の部屋だ」

「今日はもう帰るんじゃないんですか?」

「いや。普通個体と一戦しておきたい」

 アリオスはいやそうな顔をしたが、レカンはかまわず近くの侵入通路に入った。

 続いてアリオスも入ってきた。

 〈立体知覚〉で魔獣を調べたレカンは、少し驚いた。

「おっ? 一体は槍を持ってるが、もう一体は弓を持ってるな」

「弓ですか? この迷宮でははじめてですね。というか、魔獣が弓を持っているというのがはじめてです。レカン殿は経験ありますか?」

「いや。オレもはじめてみるな」

「いい弓だったら、エダさんの土産になりますね」

「オレが自分で使うかもしれんがな」

「はいはい」

 レカンは、〈障壁〉を発動するため魔力を練り上げ、準備が整ったところで部屋に足を踏み入れた。

 入り口を通ると同時に〈障壁〉の呪文を唱えようとする。

 だが、敵のほうが早かった。

 五筋の細く赤黒い光の魔法攻撃がレカンを襲い、〈インテュアドロの首飾り〉にはじかれた。だがその攻撃で一瞬心を乱し、呪文を唱えたものの〈障壁〉は不発に終わる。

 槍を持った魔獣は、レカンが入り口をくぐると同時に突進を始めた。もう目前だ。レカンはかろうじて剣を抜くことができた。

(〈刺突〉!)

 心のなかで叫び声とともに剣を突き出した。この状況で放てる有効なわざは、相手の突進力を利用した突きしかない。突きを繰り出しつつ、上半身をひねって剣をさらに送り込んだ。

 相手の槍は、正確に心の臓を狙っていた。だが体をひねったので、槍先は軽鎧の表面を斬り裂きつつ左に流れた。

 そしてレカンの繰り出した〈威力剣〉は相手の喉を、防御骨ごと貫いた。

「うおおっ」

 左右に剣を激しく振ると、敵の首がちぎれ飛んだ。

 そのときには、なぜか早めに飛び出したアリオスが、弓持ちの魔獣の首を飛ばしていた。

「アリオス。助かった。なぜ早めに飛び出した?」

「何となくそうしたほうがいいような気がしたんです」

 宝箱が二つ出て、槍と弓が入っていた。

「〈鑑定〉!」


〈名前:イェルビッツの弓〉

〈品名:魔弓〉

〈攻撃力:小〉

〈貫通力:中〉

〈速度:大〉

〈最大数:五〉

〈消耗度:極小〉

〈耐久度:極大〉

〈出現場所:ツボルト迷宮百二十階層〉

〈制作者:〉


 慣れない種類の品の鑑定なので、少し心もとないが、おおむねこのような感じだろう。

 中型から大型のあいだというぐらいの大きさだろうか。

 エダに譲った〈イシアの弓〉より二回り大きい。

 造りもがっしりした感じで、(つる)も太い。

 壁に向かって構えてみた。

 重くはない。

 むしろ大きさのわりには軽い。

 弦を引っ張ってみると、魔力を要求されているような感触があった。

 魔力をそそぐ。

 一本の矢が出現した。赤黒いというより赤褐色だ。赤褐色に薄く輝く魔法の矢だ。

 少しだけ引き絞って指を離す。

 矢は目にも止まらぬ速度で壁に到達し、はじけて飛んで、床に落ちて消えた。

「速いな」

 あまりに速いので、光の筋しか目に残らない。

 先ほど魔獣は五本の矢を放っていたはずだ。

 レカンはもう一度弦を引き絞った。

 やはり一本の矢が生成される。

 レカンは、五本の矢を心のなかで思い描いた。

 すでに生じている矢には何の変化もない。だがレカンには、手応えがあったように感じられた。

 矢を放った。放たれた矢はすぐに五本になり、壁に激突した。

「ほう」

 なかなか楽しそうな武器である。レカンはにやりと笑った。

 それからしばらく実験をした。

 実験の結果、〈イェルビッツの弓〉の癖がおよそわかってきた。

 まず、威力は込められた魔力に比例する。弦をどれだけ引き絞ったかは関係ない。ただし、弦を引き絞ると貫通力が上がっているような気がする。この点については、この部屋では確かめようがない。なにしろ迷宮の岩壁や、岩の床、岩の天井というものは、表面部分は砕くことができるが、その奧側は破壊不可能な造りになっている。レカンがもといた世界の迷宮のように、砂漠や湖や森になっている迷宮があればまた話はちがうのだろうけれども。

 次に、矢の数は一本から五本まで、任意に設定することができる。弦を引くとき数を意識すればいい。

 驚くべきは速度だ。発射とほとんど同時に目標に到達している。〈雷撃〉や〈炎槍〉よりも速い。

 残念ながら、複数の矢を射出するとき、位置関係や密度を設定することはできない。五本撃ちの場合、真ん中に一本。その上、下、右、左に一本ずつで、射手の近くでも遠くでも、矢同士の距離は半歩程度だ。

「ふむ。実際に魔獣を射て性能を試してみたいな。上に上がるぞ」

「あの。この槍は鑑定しないんですか?」

 レカンは、上半身だけ振り返って恩寵品の槍を鑑定した。

「なんです。その投げやりな鑑定は」

「〈獅子槍(ザナルウィトー)〉」

「なんですって!」

「おお? 珍しくいい食いつきだな」

「恩寵は何がついてます?」

「〈貫穿〉と〈状態保持〉と、それから切れ味増加の恩寵がついてるな。両方とも恩寵効果は大だ」

 〈貫穿〉は、突いたとき防御系恩寵の効果が下がる恩寵である。より効果の低い〈貫穿〉が付いた恩寵武器を、レカンは〈収納〉に持っている。

「やった。それ、ください」

「おお、かまわんぞ。持ってけ」

「こんなもの入れたら、私の〈箱〉はふくれ上がってしまいます。レカン殿持ってください」

「ああ」

「こんなのが出るんですね。どんどん行きましょう」

「急に乗り気だな。お前、今までの剣やなんかには、ほとんど興味を示さなかったじゃないか」

「興味を引かれるレベルのものがなかっただけです。うちは剣だけでなく、槍や投擲武器もやってますからね。〈獅子槍〉は前から欲しかったんです」

「うちというのは道場か?」

「まあ、そんなようなものです。さ、次に行きましょう」

「いや。上の階層に戻って、〈イェルビッツの弓〉の性能検証をする」

「ええー?」

「今日は二つの階層を制覇したんだぞ。無理はいかん」

「どの口でそういうこと言うんですか。あ、というか、今日は一階層しか制覇してません」

「うるさい」

 八十階層で検証してみたところ、〈イェルビッツの弓〉は恐るべき貫通力と速射性を持っていることがわかった。並の盾や鎧は簡単に貫通してしまうだろう。しかも、標的に当たって消えるまでの時間が長いので、縦に並んでいれば三人でも四人でも一気に射通してしまえそうだ。前の矢が消える前に次の矢が出せるのもいい。ただ、破壊半径が小さいので、一撃で白幽鬼の首をもぎ取るのは不可能だ。

 そういえば、シーラは〈イシアの弓〉が、そこそこいい品だが悪目立ちするほどの性能ではないと言っていた。なるほどこのレベルの恩寵品と比べればみおとりする。

 もっとも〈イシアの弓〉は軽くて小さくて、持ち運びにも便利だし戦闘中の取り回しもいい。威力は〈イェルビッツの弓〉とは比較にならないほど低いが、護衛などで相手する魔獣や山賊相手なら充分だ。

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― 新着の感想 ―
[一言] レカン深く聞かないと思いつつアリオスが流派にまつわることを発言するたびに疑問を投げかけてて 聞かないと思いつつなんだかんだ気になるんだなぁって感じですねw
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