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狼は眠らない  作者: 支援BIS
第5話 ゴルブル迷宮
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「さあさあ! 各種ポーション、格安だよ! 普通の薬もあるよ。ここで買っとかないと後悔するよ!」

「遠距離攻撃できる人、いませんか! こちら五人パーティー、あと一人できれば遠距離攻撃役募集中!」

「案内人がここにいるよ! 十階層までなら任せとけ! 地図があるって? じゃあ地図に、魔獣の弱点が書いてあるかい? 次の階層で必要な装備を教えてくれるかい? 宝箱の出現率を上げるこつを教えてくれるかい? しかも荷物持ちもするよ! さあ、ベテラン案内人は、どうだ!」

 実ににぎやかだ。

 こんな迷宮を、レカンは知らない。

 だが、この雰囲気はきらいではなかった。

 つい先ほど、レカンはこの町に着いた。つい早起きして、早く出てきて、うれしさのあまり早く走ったら、昼前に着いてしまった。

 この町には、入場税がない。そもそも外壁もないし衛兵もいない。ただ、町の入り口に〈迷宮都市ゴルブルにようこそ!〉と書かれた大きな看板があるばかりだ。

 迷宮がどこにあるか、などと人に訊く必要はなかった。人の動きを追ってゆき、にぎやかさをたどってゆけば、おのずとたどりついたのだ。

 それにしても、迷宮の入り口が、とてつもなく広い。そして真ん中の部分に仕切りが作られ、右が入り口、左が出口だと記されている。

 入り口の近く五十歩ぐらいに柵が作られている。その内側は商売禁止になっているようで、四人ほど衛兵がいるばかりだが、途切れることなく右の入り口に入っていく者たちがおり、そして左の出口から出てくる者たちがいる。

 柵の外の入り口側には、装備を売ったり、修理をしたり、仲間を集めたり、食べ物や消耗品や情報を売ったりする者たちがひしめき合い、その外側には店が立ち並んでいる。迷宮探索に必要なものを売る店だ。武器屋や薬屋などは、ちょっとのぞいてみたいとレカンは思ったが、あとだ、と自分に言い聞かせた。

 柵の外の出口側には、素材の買い取りを呼びかける者がおり、治療はいりませんかと呼びかける者があり、鑑定しましょうかと呼びかける者がいる。そのさらに外側には、素材処理所、買い取り所、治療院、休憩所、修理屋、食堂が雑然と並んでいる。買い取り所は、魔石専門、武器専門などの看板を掲げている。そしてそこから離れてゆくと、段々と大きな建物群が、それなりに壮大な町並みを形成しており、歓楽街と職人街が合体したようなありさまだ。神殿もある。そしてさらにその外側には、大きな荷車がひっきりなしに出入りする建物群がある。

 ここはまさに迷宮都市だ。迷宮から得られる富に引き寄せられた者たちが形成し、迷宮の富を加工し、消費し、輸出することで成り立つ都市なのだ。

 町の規模としては大きくない。ヴォーカと比べると、数分の一の規模だろう。

 ただし集積度と繁華街のにぎやかさは、こちらが上だ。そして、こんな小さな町なのに、繁華街の外側には貧民街もあるようだ。考えてみると、ヴォーカは大きな町なのに、貧民街はみかけたことがない。

 思った以上に若い冒険者が多い。そして表情が生き生きしている。

 チェイニーの話を聞いて、どんなにひどいことが行われているのかと心配していたが、少なくとも大多数の人は、ここでの生活に希望を感じているようにみえる。もちろんその裏で、悪辣なことも行われてはいるだろう。だがそれはどこであっても同じだ。

 もう一つ、レカンをうれしくさせたことがある。

 魔法使いだ。

 この町には、魔力持ちがあふれ返っている。今、迷宮に入ろうとしている人々のなかにも、何人もいる。魔力持ちだからといって魔法使いだとはかぎらないのだが、これだけ魔力持ちが迷宮の周りに集まっているのだから、やはりこのなかには魔法を使う冒険者が多いにちがいない。いかにも魔法使いらしい格好をした冒険者もみかける。やはり迷宮には魔法使いがいなくてはならない。

 レカンは、客引きの声など耳にも入れず、入り口に向かって歩いた。すると入り口の見張りをしている兵士から声をかけられた。

「おお、あんた、みるからにやりそうだなあ。しかも、それは〈(ルーフ)〉か。すごいな。どこから来たんだ」

「ヴォーカから来た」

「ヴォーカ? まあいいさ、しっかり探索してくれ。そしてたくさんの品を得て、それをわがゴルブルの町に落としていってくれ。よい冒険を(ラー・ジット・ジート)!」

ありがとう(ナロウ)

 予想に反して、レカンはごくよい気分で、異世界迷宮にその第一歩を刻んだのだった。


3


 さて、いよいよ迷宮突入である。

 〈生命感知〉では、迷宮のなかが探知できなかった。冒険者たちが一歩迷宮のなかに入ると、肉眼ではみえているのに〈生命感知〉から消えるのである。もとの世界の迷宮のなかも〈生命感知〉は及ばなかった。もっとも、もとの世界では、迷宮に入った瞬間各階層に飛ばされてしまうので、迷宮のなかに入った冒険者を迷宮の外から肉眼でみることができるというのは、なかなかに新鮮な光景ではある。しかし、〈生命感知〉が届かないという基本的な性質は同じであり、そのことはレカンに、言いようのないほどの安心感を与えていた。

 迷宮のなかに入った。

 たちまち、〈生命感知〉が機能を発揮し、同じ階層にいる冒険者たちを一斉に表示した。その代わり、迷宮の外の情報は消えた。これももとの世界と同じである。

 不思議なことが起きている。

 迷宮に突入した冒険者のうち少なくない数が、突然消えるのだ。

 〈生命感知〉でも消えているし、肉眼でみても消えている。

 消えるとき、何やらつぶやいているようである。

 また、それと逆に、左奥のほうでは、冒険者が突然出現している。

 ほかの冒険者が平然と受け入れているので、あれはこの世界ではあたりまえの出来事なのだろう。

 何が起きているのか気にはなるが、いずれそのうち明らかになるはずだ。

 この迷宮には三十の階層があるというが、〈生命感知〉ではこの階層しか表示されていない。これも、もとの世界と同じである。

(この階層には魔獣がいないのか)

 となれば、ただちに下の階に降りるまでである。地図をみて、それを〈生命感知〉の情報と照らし合わせると、冒険者たちは、それぞれ明確に五か所の階段を目指している。みんなよく地理を知っているのだ。

 人とぶつからないように走りながら、レカンは下の階層をめざした。階段は、意外に広く、意外に長かった。


4


 階段を降りた場所は、地図によれば〈第一階層〉である。入り口を入ったばかりの層は〈地上階層〉と書いてある。

 ごつごつした岩の迷路をたどっていると、すぐに前で戦闘の気配がした。

 たどりついてみると、五人の若い冒険者と三匹の魔獣が戦っていた。

 〈赤猿(ウルドゥ)〉である。

 戦いの邪魔をしないように後ろを通り過ぎた。

 前から何か来る。

 〈赤猿〉だ。

 斬り捨てた。

 〈魔力感知〉で魔石の位置を探り、剣のひとなぎでえぐり取った。

 魔獣が砂になった。

 それにしても、チェイニーから預かった〈箱〉の機能が付いた袋が邪魔である。〈収納〉にしまった。誰かにみとがめられたら、外套のポケットに突っ込んだことにすればよい。

 地図で下の階層への階段の位置を確かめ、そこを目指して走る。

 途中、冒険者たちがいれば、できるだけ迷路を迂回したが、時には横を走り抜けもした。

 何回か赤猿に遭った。斬り捨てたが、魔石を取る時間も惜しいので、そのままにして走り去った。

 どうもこの階層は、赤猿しかいないようだ。



 

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ・こんな迷宮を、レカンは知らない。 レカンの生まれた世界でも、平和な時代には、こんな風な賑やかな迷宮が有ったのでしょうか。 [一言] 景気良さげに見えて、実は色々と不都合が生じている…
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