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狼は眠らない  作者: 支援BIS
第32話 コグルス領主からの依頼
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「呪いには、呪術師、つまり呪術に詳しい魔法使いが行うものと、呪いの恩寵を持つ迷宮品によるもの、そして神罰によるものが知られています。そのうちどれだと思いましたか」

 リオルと騎士ジャコフの顔が急に厳しさを加えた。

「私は呪術にくわしくありません」

 このとき、ノーマの目の光がわずかに鋭くなったことに、エダは気づいた。

「ですが、コグルスには呪術にたけた優れた魔法使いが何人もいます。彼らが調べたところ、既知のいかなる呪術によるものでもないということでした。またコグルスには呪いの恩寵にくわしいものがおりますが、その者が知るどのような恩寵品にも、その症状は当てはまりませんでした。最後に神官たちを呼んで九日間にわたって儀式を行いましたが、現在知られているいかなる神による呪いでもないことが判明したということでした」

「ふむ、ふむ」

 ノーマはメモをとる手を休め、目を閉じて、ペンの軸で自分の額をこつこつとたたいた。

「呪術師の調査、恩寵品にくわしい人の調査、神官様がたの儀式は、それぞれいつのことですか?」

「一番目と二番目は、十年前から行われ、今でも時々彼らが呼ばれて意見を求められます。三番目は五年ほど前です」

「症状が重篤になったのはいつごろからですか?」

「昨年の九の月です。それまでは、時々お倒れになるとはいっても、普段は元気にしておられたのです。判断や記憶に誤りが生じたこともありません。それが、去年の九の月にお倒れになってからは、意識は混濁したままで、いくら薬を処方しても〈回復〉をほどこしても、また数種類の〈祝福〉を受けても、覚醒されません。肉体のほうも目にみえて衰えてゆかれました」

「呪いの正体がわからなくても、呪いをはねのけたり解除したりすることはできますね」

「はい。探し求めて七年前、ある迷宮から出た〈ハルトの短剣〉を買い取りました。しかし病状は好転しませんでした」

「なるほど」

 ノーマは目を閉じて深くソファーに座り、沈思した。

 やがて目を開けると、身を起こして言った。

「ありがとうございます。必要なことはお聞きできたと思います。おかげで、むだな手順を省くことができます。お話をお聞きしていなければ、呪術師や神官様をお呼びして意見を聞かせていただくところでした。しかし、その必要はないことがわかりました。〈ハルトの短剣〉でも症状が好転しないとなると、すでに呪いは患者の命そのものと同化していると考えられます。あと少しでもここにいらっしゃるのが遅ければ、命をお救いすることは不可能だったでしょう」

「ということは、治療可能だということですか?」

「助かるかもしれません」

「おお、神よ!」

「ありがたい!」

「治療をほどこす余地があることは、先ほどすでにわかっていました。あとは少しずつ味方を増やしていくことです」

「味方を増やす?」

「そうです、リオル様。臓腑のすべてが敵に寝返っている状態です。本来なら体を生かす働きをするはずなのに、じわじわと殺す働きをしているのです。その臓腑たちをこちらの味方に引き戻さねばなりません。それができたら一気に勝負をかけられます」

「ううむ。よくはわからんが、軍師殿には勝算がおありなのだな?」

「はい、ジャコフ様」

「ならばわれらは軍師殿の下知に従うまで!」

「あなたがたのうち、どなたかが交代で患者の枕元におつきになるのでしょうか?」

「いかにも。護衛は常に二人がおそばをはなれぬ。そのほか、リオル様か、小官か、施療師アテルナ殿がおそばにつく」

「長期戦となります。宿舎の場所を聞き、交代で休憩に入ってください。休憩も戦いのうちです。心ゆっくり休み、しっかりと食事をとり、体調を調えねば、役に立つ働きはできません」

「おおっ。心得たっ」

「ノーマ殿」

「アテルナ殿、何か?」

「先ほど杖をかざして、臓腑の様子を一つ一つ確かめておられた」

「ああ。あれがみえたのですか。あなたは魔力をみることができるのですね」

「ええ。かすかにですが。それで、あれはいったい何をしておられたのでしょう」

「臓腑の働きを整え導き、本来の働きを思い出すよう働きかけていたのです」

「そんなことができるものなのですか?」

「はい。臓腑の構造と働きをよく知り、その働きが狂った場合の対処法を学んでゆけば、あとはわずかな魔力で施術することができます」

「あなたは、そのお若さで、いったいどれほどの知識を身につけておられるのか」

「私だけの努力や研鑽ではありません。亡き父が残してくれた研究が、私を支えてくれるのです」

「失礼ながら、お父上のお名前を聞かせていただけまいか」

「サースフリー・ワズロフ、といいます」

 ノーマは、つい家名も添えて父の名を告げてしまった。

 伯父ゴドフリーが父をそう呼んだことを知ってから、いつか父のことを自分もそう呼びたいと思い続けていたのだ。

 リオルと騎士ジャコフが、ワズロフ家の名に反応したのか、ぎょっとした顔をしたが、口に出しては何も言わなかった。

「サースフリー・ワズロフ殿」

 施療師アテルナは、かみしめるようにその名を口にしたあと、さらに質問をした。

「ずいぶん長時間にわたり、魔法を行使しておられたが、よくもあれほど魔力が続くものですね」

「はは。これのおかげですよ」

 ノーマは、小袋から魔力回復薬を一つ取り出して、施療師アテルナに渡した。

「これは?」

「薬師レカンの手による魔力回復薬です。飲めば半日間は魔力が湧き出続けます。私はもともとごくごくわずかな魔力しかないので、少ない魔力をいかに有効に使うかを工夫してきました。この薬があれば、先ほどのような施療も可能になるのです」

「そうか、それで。エダ殿があれほど立て続けに〈浄化〉を行使され、先ほどは〈回復〉を続けざまに行使した秘密は、この薬だったのですな」

「いや、それは」

「薬師、レカン!」

 施療師アテルナは、作り物のように静かだった顔に、怒りとも闘争心ともつかない表情を浮かべ、魔力回復薬を厳しい目でにらみつけた。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] アテルナがレカンに対して怒りを燃やしてるような描写ですが 結局なんでアテルナはレカンに対してそのような感情を抱いてたんですかね
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