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狼は眠らない  作者: 支援BIS
第31話 ツボルト迷宮の秘密
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 その翌日も休み、十六日には百三階層を攻略した。

 十七日には休養を取った。

 十八日に、百四階層の普通個体の部屋に入ったときのことである。

 レカンは部屋に入るなり、〈炎槍〉を撃とうとした。百一階層からそういう作戦に戻したのである。

 ところがこの〈鉄甲〉は、レカンが魔法を放つより早く魔法を撃ってきた。

 もちろん、その魔法は〈インテュアドロの首飾り〉によって防がれた。そのあとレカンは〈炎槍〉を撃ったが、魔獣は余裕をもってそれをかわした。

 その間にアリオスはレカンの横を走り抜けて敵に肉迫した。それは魔法を撃ったのとは別の個体である。

 レカンも少し遅れて走り始めたが、走り寄る途中で二発魔法を撃たれた。二発とも〈インテュアドロの首飾り〉に防がれ、レカンは敵の首を飛ばすことができた。

「〈鉄甲〉の魔法が早くなってきたな」

「そうですね」

 レカンは部屋に入る前に魔力を練り上げ、それを保持したまま部屋に入り、入ると同時に魔法を撃っている。

 〈鉄甲〉のほうも、たぶんあの不気味なうなり声を、レカンたちが部屋に入る前に済ませている。

 そこまでは対等といってよい。

 だがレカンが〈炎槍〉を撃つには発動呪文を唱える必要がある。そしてその呪文に合わせて魔力を放出する。

 ところが〈鉄甲〉のほうでは発動呪文を唱えず、そのまま魔法を発動している。

 今まではそれでもレカンが先手をとれていたが、百四階層に至って〈鉄甲〉のほうが魔法の発動が早くなってしまったのだ。

 百階層でやったように、最初は攻撃をせず歩いて近づけば、間合いを詰められるかもしれない。

 だが、いつも相手が待ってくれるとはかぎらない。その作戦は、みすみす相手に先手を与えるのと一緒だ。

 レカンとしては、入り口を通るとき〈炎槍〉の発射状態を維持するのが精いっぱいで、とてもそこから歩くようなことはできない。

「アリオス。次から〈炎槍〉を初手に撃つ作戦はやめだ」

「はい。わかりました」

 もう一度百四階層で普通個体の部屋に入った。

 そのとき思わぬことが起きた。

 侵入通路から部屋への入り口は、冒険者が二人並んで入れなくはないほどの広さがあるが、レカンが部屋に入ろうとしたら、その脇をアリオスがするりと抜けていったのである。

 レカンは部屋に入るなり走った。だがアリオスはすでに三歩前にいる。

 そして短距離走の速度はアリオスのほうが速い。追いつくことはできない。

(このままではアリオスが魔法攻撃をくらう)

(どうしてこんなことをしたんだ?)

 魔力の強いほうの〈鉄甲〉が何かの魔法を発動した。

 アリオスの体を取り巻いて、突然銀色の雪のようなものが現れた。その範囲はレカンにも及んでいる。

(まずい!)

 次の瞬間、すべての雪片がまばゆい光を放って消滅し、すさまじい破壊の嵐が吹き荒れた。

 目には何もみえない。しかしレカンの鋭敏な感覚は捉えていた。アリオスの周りに障壁ができて魔法攻撃を防いだのを。そしてレカンの〈立体知覚〉は、アリオスが突撃速度を少しもゆるめず、〈鉄甲〉に到達し、その首を抜き打ちで斬り飛ばすのを。

 〈インテュアドロの首飾り〉に守られて無事だったレカンも、わずかに遅れて魔法を放ったほうの〈鉄甲〉にたどりつき、首を刎ね飛ばした。

 〈立体知覚〉は物理的に存在するものしか感知できない。だから魔法攻撃も防御魔法も映さない。けれど、レカンの魔力に対する知覚能力は、〈魔力感知〉を働かせていなくてもそれなりに鋭い。たしかに先ほどアリオスは、魔法的な手段で敵の攻撃を防いだ。

(今アリオスの胸で何か魔法が働いた)

(あの宝玉だな)

 はじめて百階層の魔獣と戦った日、アリオスは、軽鎧の下、胸の中央辺りに魔力の込められた宝玉のようなものを装着していた。それまでも持っていたはずだが、百階層に挑むときに装着したのである。

(おそらくあの宝玉は〈インテュアドロの首飾り〉のような機能を持っているんだ)

(だがニーナエの攻略をしたときには)

(あんな物は持っていなかったはずだ)

(ということは)

「アリオス。その宝玉は、実家から持ってきたのか?」

「ええ。そうです。そのほかにもいくつか、迷宮探索で役に立ちそうなものを持ってきましたよ」

「そうか。それは心強いな」

「はい」

 さわやかな笑顔だが、この童顔の剣士はレカンよりずっと年上なのだ。

 それにしてもアリオスの剣技はおそるべきものだ。それに応え、たやすく〈鉄甲〉を斬り裂く剣もずばぬけた名剣だ。

 対してレカンのほうはといえば、〈威力剣〉の恩寵に支えられて、かろうじて一撃で勝負を決めることができている。

 このままでよいとも思えなかったが、とにかく進めるところまで進んでみるつもりだ。

「その宝玉、魔力を使い切ったらどうなるんだ?」

「ある袋のなかに魔石と一緒に入れておくと、魔力を補充します。ちょっと時間がかかりますけどね」

「なんだ。そういうことなら、お前にも魔石をわけたのに」

「いえ。自前で持ってきましたから」

「これ、持っとけ」

 レカンは大魔石を一つかみアリオスに渡した。

「ありがとうございます」

 魔法攻撃からアリオスをかばう必要がなくなったので、戦いがやりやすくなった。もしかするとそれを教えるために、わざと飛び出したのかもしれない。

 以後、一日置きに休養日をとりながら攻略を進め、三十二日には百十一階層を攻略し、百十二階層に下りた。

 気になったことがあったので、ある日八十階層で検証した。

 その結果、〈威力剣〉には、〈ザナの守護石〉の攻撃力付加の恩寵が働いていないことがわかった。〈威力付加〉と〈攻撃力付加〉は両立しないのだ。ただし、〈オドの剣〉には〈ザナの守護石〉の恩寵が働いていたし、もとの世界から持ってきた〈威力付加〉が付いた別の剣には、やはり〈ザナの守護石〉の恩寵が有効だった。つまりこれはこの世界の恩寵同士にのみ働く制限なのだ。

 百六階層と百八階層には、戦闘中のパーティーを探知したが、遭遇はしなかった。相変わらず階段では誰とも出会わない。

 レカンは、〈浮遊〉と〈突風〉で、階段の空間を飛行して下りるわざを身につけた。アリオスは、ひいひい言いながらも、ちゃんとついてきている。

 三十三日から七日間の休養となった。




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― 新着の感想 ―
[一言] >この童顔の剣士はレカンよりずっと年上なのだ そうだったのですか。読み逃したか、忘れたか。アリオスが30代後半というのはおぼえてましたが。 >〈浮遊〉と〈突風〉で、階段の空間を飛行して…
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