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狼は眠らない  作者: 支援BIS
第31話 ツボルト迷宮の秘密
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 翌朝である。

 いい天気なので、少し寒いがテーブルを外に出し、庭のすぐそばで朝食を取った。

「うまいな、このパン」

「おいしいですね。焼きたてでしょうね」

「庭も綺麗だな」

「はい。美しい庭です」

「あのメイチェルの木は、どうして庭側にはあんなに枝を伸ばしてるのに、回廊側には枝が伸びていないんだ?」

「根止めですよ」

「ねどめ?」

「地面に大きな石を連続的に埋め込んで、そこで根を止めてるんです」

「ほう?」

「メイチェルの木は、太い枝と太い根は、同じ長さで同じ方向に伸びるんです。ほら、庭側に伸びた太い枝のちょうど真下に太い根が伸びてるでしょう」

「ああ、確かにそうだ」

「その特性を利用して、枝を伸ばしたくないほうには根止めをするんです」

「ふうん。しかしあんなに角っこに植えられて狭苦しくないかな」

「枝の伸び方を制御するのは造園士の腕のみせどころではありますが、ちょっとあざといですね。それより左側のシロキズナの木が気になりますね」

「あの白くて細い枝をひょろひょろと伸ばした小さな木か?」

「ええ」

「後ろの緑に映えて綺麗だな。形も面白い」

「色の対比は文句なしですね。ところでシロキズナは成長が早いんです。あと五年もしたら今の三倍か四倍の大きさになるでしょうね」

「うーん。それだと大きさのバランスが悪くないか」

「ええ。だからたぶん、大きくなる前に引っこ抜くでしょうね。そして新しい木を植える。この庭は全体的にそんな造りをしてますよ」

「ふん。なるほどな。ところで昨日はよく眠れたか?」

「ベッドは心地よかったですね。あんな気持ちのいいシーツは久しぶりです」

 食後の茶を手のひらに乗せ、ゆらゆらと手を動かすと、茶の上品な香りがふわりと鼻孔をなでる。さぞ高級な茶葉が使われているのだろう。

 もう一度、庭をみた。

 美しい庭だ。

 今レカンたちがいる位置から見るとき、最高のコントラストをみせるよう計算しつくされている。

 だが、どこか不自然さを感じなくもない。

「マメツブグサは日陰を嫌うんですけどねえ。あんな位置に植えたら、こちらからみえない位置では葉が枯れてるでしょうね」

 マメツブグサは薬草である。シーラの薬草畑にもあったし、ノーマの診療所の庭にもあった。みなれた植物なので、この庭のマメツブグサがいかに丁寧に刈り込まれているかがわかる。

「シロキズナの成長が早いということを、この庭を造った造園士は知らなかったのかな」

「まさか。これだけの技術を持った造園士が、シロキズナの成長率を知らないなんてあり得ません」

「わかってて無理をしたわけか」

「これは私の勘なんですが」

「うん?」

「ここはこういう形にしろ、こういう植物を植えろと指示した人がいるんではないかと」

 なるほど、と思った。そして、ふに落ちた。

 この庭の造りは、区画の造りや建物の造り、回廊の造りなどと、とてもよく調和している。というより、一つの設計思想のもとに全体が作られている。一つの人格のもとにといってもよい。

(オレはそいつとは気が合わんだろうな)

 レカンは、ヴォーカの町のノーマの診療所の庭の木や草を思い出した。

 実に伸び伸びと枝葉を伸ばしていた。配置はちょっと雑然としていたが、そのざっくばらんな植え方と、思い思いに伸びた枝葉に、心をほっとさせるものがあった。

 それから、〈ラフィンの岩棚亭〉の野菜畑を思った。あの野菜たちの、なんと生き生きとしていたことか。

「昨日のいぶし酒はどうでした?」

「うまかった。一杯目は」

「一杯目だけですか?」

「あんなもの、二杯目以降は一緒だろう」

「はは」

「昨日の肉はうまかったな」

「ええ。おいしかったですね。一口目は」

「そうだな」

 二人は茶を飲み干し、高価そうなカップを置いた。

 しばらく静かな時が流れた。

「帰るか」

「帰りましょう」


13


「支配人、昨夜は行き届いたご手配、ありがとうございました」

「これはこれは、アリオス様。レカン様もご一緒に。わざわざ受付にお越しいただかなくとも、こちらから参りましたのに。これは昨夜お預かりした品の代金と鑑定書でございます」

 アリオスは鑑定書をちらとみてレカンに渡した。

「ありがとう。百階層以降を探索するについて、一度は〈錦嶺館〉に泊まってくれということだったので、泊まらせていただきましたが、実に素晴らしい旅館でした。調度も料理ももてなしも、文句のつけようがありません」

「恐れ入ってございます」

 鑑定書をみたレカンは、あることに気づいた。

(うん?)

(〈深度〉がかき込まれていないな)

(どういうことだ?)

「ところで、ここ以外に宿泊してはいけないというような決まりはありませんよね?」

「もちろんでございます。当旅館は、ただただ利用者の方々の便のためにございます。どのようにご利用されようとも、ご利用されずとも、それはご利用者の方々のご自由でございます」

「それはよかった。探索の必要上、別の宿で打ち合わせをする必要があるかもしれないんです。その場合、特に連絡なくこちらに帰ってこないことがあると思いますが、かまいませんか?」

「承知いたしました」

「向こうが気に入ったら、しばらく向こうに逗留するかもしれません」

「当旅館にお戻りになりたいとお考えになったとき、いつなりともご帰還くださいませ。ところで、ご連絡の都合上、行き先をお聞きできればありがたいのでございますが」

「まだはっきりと決まっていないので、次にここに帰ってきたときに連絡します」

「かしこまりました。では、行ってらっしゃいませ」

 すぐにも〈錦嶺館〉に戻ってくるにちがいないという自信があるのか、支配人はそれ以上レカンとアリオスの行き先を詮索しなかった。

 そのあと二人は百階層に行き、一度だけ戦闘をして探索を終え、〈ラフィンの岩棚亭〉に帰った。

「いらっしゃ……おおっ? アリオス? レカンも? どうした。何か忘れ物か?」

「ただいま帰りました。前に払った長期滞在の宿泊代、いつまででしたかね」

「おう? 待て。台帳をみる。ううんと。二の月の九日までだな」

「では、取りあえず四十日延長します」

「おおっ?」

「あれまあ、アリオスちゃん。戻ってきたのかい」

「はい。またお世話になります」

「ネルー」

「はいな、レカンさん。何ですか?」

「今日の夕食には、うまい野菜をたっぷり頼む」

「はいはい。任せといてくださいな」

「アリオス。明日から七日間、休養にする」

「もう一回言ってください」

「七日間休憩だと言ったんだ。体と心の緊張をほぐせ。それから攻略を再開する」

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― 新着の感想 ―
アリオスとレカンのやり取りが面白い。 大仰なギャグがなくてもクスリと笑わせてくれる、こういう構成が大好きで読むのが嬉しくて、何度でも読みたくなるんですよ〜。 とっても良い!
レカンとアリオスがツーカーなところ、いつもとても良いなと思います
[良い点] 自由を求める冒険者たちには窮屈そうな宿ですね ここが合う人間なら金が貯まったらすぐに冒険者なんて辞めてそうです
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