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狼は眠らない  作者: 支援BIS
第30話 共同探索
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「そうさ。そこらに売ってるのは一発しか入らないやつが多い。しかも容量が少なくて、それこそ〈着火(ウテル)〉や〈灯光(パーム)〉しか入らなかったりするのさ」

「杖によって入る魔法の種類が決まってはいないのか?」

「そんな話は聞いたことないね。まあ世の中にゃあ数えきれないほど魔法があるから、もしかしたら入らない魔法もあるのかもしれない。でもまあ、普通に迷宮探索に使うような魔法なら何でも入るよ。あんたのその〈回復〉でもね」

「待てよ。もしオレがその杖に〈回復〉を詰めたら、あんたにも〈回復〉が使えるのか?」

「そいつはやらないほうがいいね。詰めた本人が使うなら何の問題もないが、他人が使おうとすると、うまく発動しなかったり暴発したりする」

「なるほど。では、魔法使いがその杖に魔法を込め、魔法を使えない者が使うことはできるのか?」

「無理だね。考えてもごらんよ。〈着火〉にしても、魔法を使えないやつがどうして発火の位置や強さを調整できるのさ」

「たとえばオレがその杖を買ったとして、〈回復〉を三つと〈移動〉を二つ詰めることはできるのか」

「できるけど、杖のなかで魔法がどういう順番で並んでいるかわからないから、狙った魔法がいざというとき使えないこともある。だからそんなことは誰もやらないね」

「なるほど。容量というのは?」

「杖ごとに、どの程度の魔力が入るかちがうんだよ。五つ魔法が入るタイプの杖でも、全体の容量が小さいと、〈雷矢〉一発を入れるのがやっと、なんてことだってある」

「その杖を四本持っておいて全部に〈雷矢〉を詰めれば、二十発撃てるわけだな」

「実際、そういう使い方をしてるやつもいるよ。だけど、あたいはやらない」

「なぜ、やらない?」

「あたいの場合は攻撃魔法が専門だ。杖にはそれぞれくせがあって、発動のタイミングっていうか手応えが微妙にちがう。一つの杖を使い込めば使い込むほど魔法を命中させる精度はあがるのに、ちがう杖を交ぜて使うと、その感覚が狂っちまうのさ」

「なるほど。戦闘では刹那の狂いが死につながるからな」

「そうさ。あたいもあと二本ほど〈コルディシエの杖〉を持ってるけど、それには別の魔法を詰めてるのさ」

 それは何の魔法かとは、レカンは聞かなかった。ヨアナ自身が明かすのでないかぎり、相手の手札をみせるよう要求するのは非礼だ。そんなレカンを、ヨアナは面白がるような目でみている。

「ここの販売所にも、この杖は売ってるよ。店の表のほうじゃなくて、奥に入ったところだ。買うんならついていってあげてもいいよ」

「ありがとう。買いたい気持ちになったら頼もう」

 そうは言ったが、レカンはこの杖に対する興味を失っていた。

 この杖を買って使いこなす訓練をするより、手持ちの魔法を少しでも速く発動させる鍛錬をするほうが、よほど実りが大きい。そう思ったのである。

 ブルスカとツインガーは、装備の点検をしているが、レカンとヨアナの会話に耳をそばだてている。魔法の杖についての知識は、彼らにとっても耳新しい部分があるのだろう。

 ヨアナが中魔石を取り出して左手の上に置き、右手には細い杖を持って呪文を唱え始めた。

「貪欲なるンゴロヤンダよ、我に宿れ。しかして豊穣の海にその(くちばし)を突き込み、欲するものをむさぼれ。貪婪(たんらん)を欲しいままにせよ。汝神(いましかみ)が腹満つるとき、時は果てん。〈吸収(メポザ)〉」

 手のひらの上に置かれた中魔石に、ほとんどふれんばかりに杖の先が突きつけられている。しばらく時間を置いて、中魔石から細く青い魔力の糸が杖に向かって流れ始めた。

 それは本当に細い糸だ。だが切れることなくゆるむことなく、魔力の糸は杖に吸われ続ける。

 ヨアナの顔は真剣そのものだ。今や目を閉じて、魔力制御に集中している。額にはじわじわと汗が噴き出し、息づかいは荒くなってゆく。

 それでも細い細い魔力の糸は途切れない。少しずつ少しずつ杖に吸われてヨアナの全身をひたしてゆく。

 おそろしく長い時間かかってヨアナは〈吸収〉を終えた。レカンには、その魔石が魔力を失っていることがわかる。

「ふほあー。疲れたあ。あたいはしばらく休むからね」

 ヨアナはそう言って、その場でごろりと転がった。

(この世界では魔石から魔力を吸うのは)

(こんなふうにやるんだな)

(ずいぶん時間がかかるし消耗もするようだ)

 考えてみれば、この世界での普通の魔法使いが普通に魔法を使うのをしげしげとみるのは、これがはじめてだ。それがこんなに新鮮に感じられるということは、レカン自身も普通の魔法使いではないということだ。

 ヨアナが寝転んでいたのは、さほど長い時間ではなかった。

 むくりと起き上がり、ブルスカをみた。

「ブルスカ」

「何だい?」

「レカンも魔法を使う。〈回復〉はみんなの助けになる魔法だ。だからレカンにも青ポーションや魔石を分配しなくちゃ」

「あ、そうだね」

 レカンは口を挟んだ。

「今日はこのままにしよう。いったん打ち合わせしたルールは途中で変えるべきではない。明日のことは明日相談しよう」

「えっ? だけど」

 異議を唱えたヨアナをさえぎって、レカンは言った。

「それに、オレにはこれがある」

 懐から出してみせたものは自製の魔力回復薬である。

「何だい、それ?」

「魔力回復薬だ」


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