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狼は眠らない  作者: 支援BIS
第30話 共同探索
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 レカンには、部屋のなかの様子が〈みえて〉いる。

 肉眼によってではない。

 もとの世界の迷宮で手に入れた〈立体知覚〉という能力によって、魔獣が何体いてどのような大きさで、どちらを向いてどんな姿勢をしているかが、はっきりと〈みえて〉いるのだ。

 霧や煙はみえない。だが、針ほどの太さがあればはっきりみえる。死角はない。袋のなかみもわかる。ただしなぜか宝箱のなかはみえない。

 色彩はない。探知範囲は移動できない。もとは半径五十歩ほどしかみえなかったが、ニーナエ迷宮の踏破で基礎能力が上がってからは、およそ半径百歩が有効範囲だ。

 肉眼は、移動したり激しく動いたりすれば物が揺れてみえたり、みうしなったりする。だが、〈立体知覚〉は、自分自身を含めてその空間を俯瞰する能力である。

 その〈立体知覚〉が、八体の魔獣が今どの位置にいてどの方向を向いているか、ありありと教えてくれる。

 入り口からみて左側に背中を向けた〈黒肌〉がいたので、レカンはまっしぐらに突進してその魔獣を突き飛ばす。

 右側の〈黒肌〉の武器を持つ腕に斬りつけて走り抜け、その奥の〈赤肌〉に体当たりして吹き飛ばし、斜め左に方向転換する。

 このときすでに後ろからはアリオスが突入している。

 レカンは、そのまま左前方に突進し、〈赤肌〉一体の足に斬りつけ、〈赤肌〉一体を突き飛ばして走り抜け、壁際で振り返った。

 七十階層台の普通個体が相手だと、かなり余裕がある。体格でもこちらがまさっている。

 このときアリオスは〈黒肌〉二体の足に負傷を負わせて右奥に走り込んでいる。

(首を刎ねることもできただろうにしていない)

(〈グリンダム〉の手並みをみてみようというわけか)

 ツインガーは部屋に飛び込むなり、目ざとく一番近くにいた〈黒肌〉に襲いかかった。レカンのほうを向いたその〈黒肌〉の右膝の裏側を短槍で突き、振り返ったところで首を突いたのだ。

 そのとき奇妙なことが起きたのをレカンはみのがさなかった。ツインガーの短槍は、短いが太く、みるからに重量級の武器だ。両手で自在に振り回して使う槍である。

 その短槍で魔獣の膝を裏側から突いたときには、目にみえた効果はなかった。ところが魔獣が振り返ろうとしたとき、膝に後ろから衝撃を受けたかのように体勢を崩した。

 振り返った魔獣の喉に短槍を突き込んだときも、威力ある攻撃ではあったが、一撃でとどめを刺すには至らなかったようにみえた。ところがわずかな時間を置いて、魔獣の首が吹き飛んだ。

(何かの恩寵がついた短槍だな)

(たぶんダメージ追加のような恩寵だ)

 そのあと、ブルスカとヨアナが入ってきた。

「〈豪炎斬(ディンバンシル)〉!」

 杖の柄にはめられた宝玉からまばゆい光がほとばしり、〈黒肌〉の喉を直撃した。吹き飛ばされた頭は天井に激突して落ちた。

(ほう)

(うまいな)

(一瞬で狙うべき敵をみさだめ)

(的確に急所に攻撃を当てた)

 レカンは〈赤肌〉の首を刎ねた。

 アリオスも、〈黒肌〉一体を始末した。

 ツインガーはレカンのいる左に来た。レカンの前には〈赤肌〉二体がいるのだからこの判断は不思議ではない。

 ブルスカは、ヨアナの前で二本の斧を構えて仁王立ちしている。

 正面奥の〈赤肌〉がブルスカに魔法を放った。かわせば後ろのヨアナに直撃する。

 ブルスカは斧の横腹で魔法を受けた。爆発音と光を発して魔法ははじけたが、ブルスカは傷を負ったようではない。斧にも異常がないようだ。

(魔法防御のある斧か)

「〈雷矢(グィナーツ)〉!」

 ヨアナは右手には宝玉を柄にはめ込んだ長い杖を持ち、左手にはやはり宝玉を柄にはめ込んだ短い杖を持っている。短い杖は、先ほどまでベルトに差し込んであったものだ。

 ヨアナが放った魔法は、アリオスと切り結んでいた〈黒肌〉の足首に命中した。動きのとまった〈黒肌〉の首をアリオスは刎ねた。

 ツインガーが、相手をしていた〈赤肌〉にとどめを刺しそうな気配だったので、レカンは一足先に自分が相手をしていた〈赤肌〉の首を刎ねた。〈赤肌〉は、胸や頭を攻撃されるとしばらくは魔法が撃てないということが、これまでの経験でわかっている。ツインガーも相手の物理攻撃をかわしながら胸や頭に一撃を入れていたから、この戦法は一般的なものなのだろう。

 レカンに一足遅れてツインガーも〈赤肌〉を倒した。

 正面奥にいた〈赤肌〉は、ブルスカが倒している。

 敵は全て倒した。

 完勝といってよい。

「〈回復〉」

 ツインガーが少し手傷を負っていたので〈回復〉をかけた。

「おおっ? おぬし〈回復〉が使えるのか?」

「驚いたねえ。準備詠唱も杖もなしかい。杖なしで〈回復〉を使える冒険者ははじめてみたよ」

「〈回復〉を使える冒険者自体はいるのか?」

「ああ。あたいが知ってる深層組のなかにゃ、何人かいるね。ま、深層組を全部知ってるわけじゃないけどさ」

「よく効く〈回復〉じゃなあ。ありがとうよ」

「ああ」

「じゃあ、魔石を取ったら、空いてる部屋に入って、少し休憩をしよう」

 そう言ってブルスカは、倒れている魔獣に近寄ってしゃがみ込んだ。

「〈移動(トリムル)〉」

「えっ?」

 レカンは立ったまま、足元の〈赤肌〉の胸元を斬り裂いて、〈移動〉の呪文を唱えた。たちまち青色の魔石が浮き上がって、レカンの左手に収まった。

「〈移動〉」

「〈移動〉」

「〈移動〉」

 四体の〈赤肌〉から魔石を取った。〈グリンダム〉の三人はぽかんとしてレカンをみつめている。アリオスに至っては、最初からまるで動く気配がない。

 しかたがないので、〈黒肌〉の頭の近くにしゃがみ込んで首の横から剣を差し込み、引き抜いて呪文を唱えた。

「〈移動〉」

 同じ作業をもう三度した。

「〈移動〉」

「〈移動〉」

「〈移動〉」 

〈グリンダム〉の三人は呆然としたままだ。

「あたいの知ってる〈移動〉とちがう……」

 レカンは八つの大魔石をブルスカに渡した。そしてうながすように出入り口をみた。

 ブルスカは休憩場所を探すべく、回廊に出た。

 ほかのみなも出た。アリオスは残っている。

 レカンは最後まで残り、胸に手を当てて一礼した。

 アリオスもそれに合わせておじぎをした。

 それから二人は部屋を出た。

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