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普通個体の部屋にもう二つ入ってからボス部屋に挑んだ。恩寵品は出なかったが、攻撃力も切れ味も非常に高いショートソードが出た。
八十七階層では、普通個体の部屋二つに入って夕食をとり、さらに普通個体の部屋一つを制覇してからボス部屋に入った。〈呪い耐性(大)〉と〈毒耐性(大)〉のついた短剣が出た。これはアリオスが欲しがったのでアリオスの物とした。
翌二十六日は、八十八階層の普通個体の部屋二つを制覇して昼食をとり、もう一つ普通個体の部屋に入ってからボス部屋を攻略した。八十九階層では普通個体の部屋三つをこなしてからボス部屋に挑んだ。
この日は、〈速度付加(大)〉と〈威力付加(小)〉のついた長剣が出た。あとはポーションばかりだったのでアリオスに渡した。
ボスを倒して床に座り込んでいると、アリオスが話しかけてきた。
「ここまでの情報を整理してみましょう」
「ほう」
「まず、この迷宮は特殊種迷宮で、白幽鬼の特殊種だけが出ます。特殊種は二種類いて、それぞれ〈赤肌〉〈黒肌〉と呼ばれます」
「ああ」
「〈赤肌〉は魔法攻撃をしてきますが、剣や槍を持っていることもあり、浅層では剣で攻撃すると剣や槍で反撃してきました。しかし、〈中層〉のなかばからは、剣で攻撃しても、剣や槍では反撃しなくなったので、気を引いて魔法攻撃をさせないというやり方が通用しなくなりました」
「そうだったな」
「このことは、階層が変わると白幽鬼の戦い方も変わる可能性があることを示しています」
「なるほど」
「ちなみに、魔法を撃つと肌が薄紅色にそまります。たぶんこれが〈赤肌〉という名の由来です」
「どうでもいい」
「〈赤肌〉は、最初にうなり声を上げてから魔法を口から放ちます。うなり声を上げるのは一体だけで、その一体が魔法を撃つと、ほかの〈赤肌〉も魔法を撃ってきます。うなり声を上げた個体が必ず最初に攻撃を放つので、その点、攻撃予測には便利です」
「そうだな」
「魔法は衝撃を伴う熱線で、青白、薄赤、黄色などの種類がありますが、色によって特性が変わるということはないようです。ただし、青白の攻撃は比較的強力です」
「ああ、そうだ」
「うなり声は、階層が下がるほど早く始まるようになり、また短く終わるようになってきており、八十階層台では、こちらが部屋に入ると同時にうなり始めています」
「それがどうした」
「このうなり声は、階層によって変化し、しかも段々手ごわくなっています」
「そんなことは、わざわざいわれなくてもわかっている」
「ということは、やがてうなり声はなくなるかもしれません」
「なにっ」
「レカン殿」
「何だ?」
「われわれは魔獣がいる部屋のなかをのぞくことはできません。ですが、レカン殿は敵の位置を探知できます」
「ああ」
「魔獣のほうはどうなんでしょう」
「何だと?」
「魔獣のほうも、何らかの手段で、部屋に入ろうとするこちらを探知しているかもしれません」
「そんなことが。いや」
そんなことは考えもしなかった。だが、絶対にないとは言い切れない。
「われわれが部屋に入る前にうなり声を上げておき、部屋に入ると同時に撃ってくるというようなこともあるかもしれません。あるいは、うなり声そのものを上げず、いきなり撃ってくるかもしれません」
「ふうむ」
「次に、浅い階層では、〈黒肌〉と〈赤肌〉の比率はばらばらでした。十階層台でいうと、二体とも〈黒肌〉のこともあり、二体とも〈赤肌〉のこともありました。しかし階層が下がるにつれて、比率が安定してきたように思えます。八十階層台では、〈黒肌〉五体〈赤肌〉四体と一定しているようです」
「そうだな。黒いやつが前衛で、赤いやつが後衛だ」
「そこです」
「うん?」
「浅い階層では、配置がばらばらでした。しかし深い階層では、〈黒肌〉が前衛、〈赤肌〉が後衛と、隊形が整ってきています。このことも、魔獣の側では侵入者の侵入を察知しているのではないかという予測を裏付けているかもしれません」
レカンは返事をしなかった。できなかったのだ。
だが敵の陣形が段々と整ってきているのは確かだ。
「次に、〈黒肌〉は物理特化です。黒い外皮は異常に硬く、鎧そのものです。しかも下に行くほど鎧は強化され、むき出している部分が減っています。ただ、首が急所ということは変わらないので、技術があれば倒せます」
レカンにはアリオスほどの技術がない。ただし、〈刺突〉スキルの助けを借りれば、アリオスなみの正確さで剣をふるうことができる。
「次に、〈黒肌〉も〈赤肌〉も、深い階層にくるほど大きくなっています。第一階層の大型個体はちょうどレカン殿と同じほどの体高でしたが、今ではほとんど頭一つ分、あちらが大きくなっています。普通個体は、それより一回り小さいのですが、敏捷性など、基礎的な能力は階層によって一定しているように思います」
「ああ。それに個々の動き方や集団としての動き方も、同じ階層なら同じような感じだな」
「つまり普通個体の部屋で魔獣の攻撃速度や動き方に慣れておいて、その階層の大型個体に挑む、というやり方が有効です」
それはもとの世界の多くの迷宮でもそうだったのであり、レカンにとって目新しいことではない。
「最後に、部屋の大きさと魔獣の数についてです」
「うん? それははっきりしていると思うが」
「はっきりしているように思えます。そこがおかしいと私は思うんです」
「なに?」
「部屋の大きさは、一階層から八十九階層まで、ほとんど同じです。いえ、若干形はちがっているものの、まったく同じ広さといってもいいように思います」
レカンはうなずいた。
「魔獣の数は、十階層ごとに一体増えています。これは完全に規則的です。このままいくと、九十階層では十体の、百二十階層では十三体の敵が出現します。この階層の敵より少し大きな敵が」
レカンは今度もうなずいた。
「それはおかしい、と思いませんか。十三体の魔獣と十三人の冒険者が入れば、もう戦いなんかする広さはありません。でもこの迷宮は年に一度やそこらは踏破されているんです」
「おかしくても、実際にそうなんだから、しかたがないだろう」
「そうかどうか、確かめてみるべきです」
「む」
「受付に情報料を払って教えてもらうか、深層を探索している冒険者に教えてもらうかしたほうがいいです」
「ふむ」
確かにそうだ。
ここから先の戦いでは、わずかな手違いが死につながる。金を払って情報が得られるなら買っておくべきだ。
もちろん、部屋の大きさも、魔獣の数も体高も、どのような態勢にあるかも、〈立体知覚〉で探査することができる。だが、どのような能力を持っているかというようなことはわからない。
そこまで考えて気づいた。
(アリオスのやつ)
(オレの能力を探っているな)
「よし。明日の朝、受付で情報を買おう」
レカンとアリオスは、いったん九十階層におりて〈印〉を付け、迷宮を出た。




