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狼は眠らない  作者: 支援BIS
第30話 共同探索
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3


(人数を増やすのに失敗した)

(ほとぼりが冷めたころまた斡旋所に行くとして)

(当面は二人で攻略を進めないといかん)

 そもそも二人で迷宮の八十階層台に潜り九体の敵を相手取っているのがおかしいのだが、幸いアリオスは迷宮の常識にうとい。これが当たり前だという顔をしていれば、そういうものだと思ってくれるはずだ。その意味では、先ほど斡旋所にアリオスを連れていったのは失敗だった。だが実際にここまでは来られたのだ。少し戦力を底上げして、戦い方を工夫すれば、もう少し先まで進める。行き詰まったらそのとき対処を考えればいい。それにこの迷宮に挑戦する最大の目的は、長く安定して使える剣を手に入れることだ。踏破しなければいけないわけではない。

 レカンは、〈収納〉から〈ザナの守護石〉を取り出して軽鎧の隠しに入れ、しっかりと隠しのふたを閉じた。

(やはりこれを着けよう)

(持っているものを使い惜しみして死んだり)

(迷宮探索が停滞したのでは馬鹿らしい)

 〈ザナの守護石〉を使わずに十の力を持った敵を撃滅できるようになれば、〈ザナの守護石〉を着ければ十二の力を持った敵を倒せる。最初から〈ザナの守護石〉に頼って十の力を持つ敵を倒しても、十二の力を持った敵と戦える力は養えない。

 かといって、〈ザナの守護石〉を着けることで数階層先に進めるとしたら、着けずに戦うことはばからしい。そのあたりの兼ね合いは、悩ましいところである。

 アリオスが興味深そうにみまもっている。〈ザナの守護石〉についてアリオスは知らない。ニーナエ迷宮でも使っていたのだが、わざわざ説明はしていない。

「さて。まずはこの部屋に入ってみるか。オレが先に入るが、今度は〈雷撃〉は使わん。その代わり〈炎槍〉で、敵一体の戦闘力を奪う。いくぞ」

「はい」

 レカンは〈ラスクの剣〉を抜き、魔力を練って〈炎槍〉の準備を調えると、大きく息を吸って部屋に飛び込んだ。

 なかに入った瞬間、九体の魔獣がこちらをみる。

「〈炎槍〉!」

 前から二番目の敵に魔法をぶつけ、両手で〈ラスクの剣〉を握って一番前の敵の喉を突いて首を掻く。

 アリオスが突入してくる。

 二番目の敵は後ろに吹き飛ばされ、後ろにいた二体の〈黒肌〉を巻き込みつつ転倒する。

 アリオスが敵をすり抜けて突進し、右奥にいた〈黒肌〉の首を刎ねる。

 〈赤肌〉四体はやはり後ろにいる。七十階層台までは、〈赤肌〉が前にいることもあったが、どうも八十階層台では、あらかじめ後衛に配置されるようだ。

 レカンは前に出て、起き上がってきた〈黒肌〉の右足首を刎ね飛ばす。やはり〈ザナの守護石〉の効果は高い。昨日は足首も手首も一撃では斬り落とせなかったのだ。

 うなり終えた〈赤肌〉が光の槍を撃ってくる。レカンは目の前の〈黒肌〉の陰に身を縮める。光の槍は〈黒肌〉の背中に着弾する。

 このあいだにアリオスは〈赤肌〉二体の首を刎ねている。

 レカンは右前の〈黒肌〉左足首を刎ね、右に回り込んだ。中央の〈黒肌〉の斬撃が命中して左腕の付け根に衝撃を感じるが、無視してなお右に回り込み、負傷した〈黒肌〉二体とその奥の無傷の〈黒肌〉を牽制しつつ、後衛の〈赤肌〉の首を刎ねる。

 そのあいだにアリオスは最後の〈赤肌〉の首を刎ねている。

 残りは〈黒肌〉三体。

 レカンとアリオスは、余裕をもって残敵を掃討した。

「魔法を一発受けただけですみました。この戦法はいけますね」

「ああ。今までは〈雷撃〉で全体の足止めをしていたが、それも段々効果が薄くなってきていた。今回は、前から二番目の〈黒肌〉を〈炎槍〉で吹き飛ばしたところ、うまく後ろの二体を巻き込んで転倒してくれた。あとはやりやすかったな」

「さっきの装備は、攻撃力を上げる効果があったんですか?」

「そうだ」

「それは、どんな武器にもつく効果なんですか?」

 一瞬、答えをごまかそうかと思ったが、一度効果をみせた以上、隠すのは無意味だ。

「そうだ。ただし投擲武器には効果が乗らんがな」

「なんという夢のような装備」

「次に行こう」

「はい」

 次の部屋では恩寵武器を持った魔獣が出た。

 〈威力剣(ドーマシラー)〉の上位版だった。

 このあと、昼食をとった。

「レカン殿。その装備、ニーナエ迷宮の最下層で使いませんでした?」

 鋭いやつだ。

「使った」

「やっぱり。でも、あのときの威力はまた別格でしたね。その装備、威力の調整ができるんですか?」

「充分に準備すれば一度だけ大きな効果が出る。そのあとはしばらく大きな効果は出せん」

「へえー」

 そのあと、八十二階層のボス部屋を攻略した。

 午後は四つの部屋で戦ってから、夕食をとり、八十三階層のボス部屋を攻略して八十四階層に下り、迷宮のなかで寝た。恩寵品が四つ出たが、いずれもレカンにとっては物珍しくはあっても、食指の動く武器ではなかった。

 翌日は八十六階層まで下りて探索を終えた。

 宿で食事を済ませたあと、アリオスが部屋に訪ねてきた。

「何か用か」

「これをみてください」

 と言ってメモを差し出した。

 〈立体知覚〉では字は読めない。レカンは灯りをともした。

「〈光明〉」


九日 十一 迷宮泊まり

十日 十五(十階層台、二十階層台)

十一日 十二(三十階層台)迷宮泊まり

十二日 十三(四十階層台)

十三日 四(五十階層台)迷宮泊まり

十四日 六(六十階層台)

十五日 五 迷宮泊まり

十六日 五(七十階層台)

十七日 休養日

十八日 三 迷宮泊まり

十九日 三 

二十日 三 迷宮泊まり

二十一日 二(八十階層台)

二十二日 休養日

二十三日 二 迷宮泊まり

二十四日 二


「日付のあとの数字は何だ? ああ、そうか。その日に何階層攻略したかだな」

「そうです。これをみてどう思います?」

「休養日が二つもあるな」

「その感想は間違っています。そうじゃなくて、攻略速度が速すぎませんか」

「そうか?」

「いいですか。ニーナエ迷宮では四十五階層を攻略するのに三十三日かかってるんですよ。その速度でさえ、ジェイドさんが驚いてました」

「そうだったかな」

「そうだったんです。ところがここでは五日目には五十階層台に突入しています。むちゃくちゃですよ。それに、中層や深層では、もっと大人数で戦うものなんですよね。斡旋所で信じてもらえなかったのも当然です」

(ちっ)

(気づいていやがったか)

「今、舌打ちをしませんでした?」

「していない」

「まあ、この迷宮は、レカン殿と私にとって、ニーナエよりずっと相性がいいことは確かです。でも、やはり八体や九体の敵を同時に相手取るのは厳しいです。もっと慎重に戦わないといけません。明日からはペースを落としましょう」

 レカンは、アリオスがみるのと少しばかりちがう視点で、攻略の記録をみていた。

 それは迷宮に泊まる頻度が低い、ということだ。

 レカンの考えでは、一度迷宮に入ったら、最低でも四、五日は外に出ずに探索を続けるべきである。それは、外に出てしまうとゆるみが出るからだ。密度の高い戦いを維持するには、やはり外に出ないほうがいい。

 だが今回は、最初のうちは一日の踏破階層数が多すぎて、相手の手ごわさが目まぐるしく変わったため、いったん外に出て気分を変えるのがむしろ効果的だった。

 そして深層に入ってからは、多数の敵を二人で相手取るため消耗が激しい。〈回復〉で肉体の疲れはある程度とれるものの、やはり外に出て体調を更新しないと、次の戦いへの気力が充実しない。

 そのうえ、この世界の迷宮は、〈印〉さえあればどの階層にも自由に跳べるので、外に出たからといって、さほど時間の損失はない。

 ではいっそ毎日外に出るというのはどうだろうか。

 いや、それはだめだ。

 アリオスが、まだ迷宮というものに慣れていない。二日に一度は迷宮に泊まって、アリオスの体に迷宮攻略のテンポというものを刻み込んでやらねばならない。

 それにレカン自身も、毎日宿に帰るような戦い方が体になじんでしまえば、次の迷宮で苦労することになる。やはり一度迷宮に入ったら最低でも一泊はする必要がある。

「レカン殿」

「なんだ?」

「攻略のスピードをゆるめませんか?」

「そうだな」

「えっ?」

「少しゆっくり進もう。いくつかの部屋に入って、この階層での戦い方を充分練ってからボス部屋に挑むようにしよう。どうした。妙な顔をして」

「いえ。言ってはみたものの、了承してもらえるとは意外でした」

「お前はややこしいやつだな」

 これからは、先を急ぎすぎないようにしよう。

 無理をしない範囲で進んでいけば、それで充分だ。

 最下層までは行けないかもしれないが、百階層より先には進みたい。

 それには何か月もかかるだろう。ここまでが順調すぎたのだ。

 ここまで急いだおかげでゆとりができたと考えればいい。



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― 新着の感想 ―
>(ちっ) >(気づいていやがったか) アリオスが知らないのをいいことにいい加減なこと吹き込んでたのがバレたこのやり取り好き
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