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狼は眠らない  作者: 支援BIS
第30話 共同探索
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 斡旋所は総合受付棟のなかにある。総合受付棟の場所は、迷宮入り口ほぼ正面に近い。

 総合受付棟は、四つの建物が集まってできたような造りをしている。

 奧側の建物は、迷宮事務統括所だ。すべての施設を統括する部門であり、強大な権力を有する。

 重厚な石造りの建物で、手前の二棟は平屋なのだが、二階建てあるいは三階建てかと思わせる立派な造りをしている。奧側の迷宮事務統括所は中央部分が三階建てになった威圧感あふれる建物で、二階や三階からは迷宮入り口がみわたせ、さらに迷宮を取り巻く施設群が一目でみわたせる。

 手前三棟のうち、中央が受付所だ。迷宮に入場するための鑑札の販売や各階層の地図の販売のほかに、手紙や荷物の発送、荷物の保管、冒険者が必要としそうな情報の販売などはもちろん、予算に合った宿の斡旋なども行っている。とにかくわからないことがあればここで聞けと、最初に来た日にいわれた。

 手前左側の建物が迷宮管理事務所だ。迷宮内の管理と安全維持を担当する部署で、冒険者同士のいざこざを仲裁あるいは断罪したり、物品や魔石の納品依頼を出したりする。安全維持に関する依頼を出すこともある。迷宮内で遺品をみつけたが自分のものにはしないという場合、ここに届け出れば処理してくれる。

 そして手前右側の建物が斡旋所だ。これから行く場所である。

 中央の入り口をくぐると、正面に受付所がある。

 朝の時間帯ということもあってか、受付所に立ち並ぶカウンターに空きはなく、どのカウンターの前にも冒険者たちが列をなしている。

 その列を取り巻くように、油断のならない目をした〈(チルラン)〉たちがたむろしている。年齢は十五歳そこそこから五十過ぎと思える老人までさまざまだ。

 ちょうどカウンターの一つで職員が手を上げて声を張り上げた。

「案内希望! 十五階層から十八階層!」

 たちまち十人ばかりの〈鼠〉が手を上げる。

 職員は手を上げた〈鼠〉たちをじろりとながめ、一人の名を呼ぶ。

「コグスン!」

 選ばれた男はカウンターに近づき、職員と冒険者にあいさつをしている。浅い階層だから案内料は安いだろうが、とにかく仕事にありつけたわけだ。それ以上どのぐらい稼げるかは、男自身の才覚にかかっている。

 カウンターが立ち並んでいるその奥にはたくさんの机があり、大勢の職員が座って仕事をしている。その周りには至る所に棚が並び箱が積み重ねられているが、そのなかにはすさまじい量の書類が収まっている。

 さらにその奥にある三段の階段を上った場所に大きく豪華な机があり、いかにも権威のありそうな服を着た若い女が座っている。その場所からなら、迷宮管理事務所と受付所と斡旋所のすべてをみわたせるだろう。女の斜め後ろには騎士が控えている。その後ろには閉じた扉があるが、その扉の向こう側が迷宮事務統括所なのだ。

 迷宮の側からみると迷宮事務統括所は裏側ということになるが、この町の正門である西門からまっすぐ迷宮に続く巨大な道路の終点が、この迷宮事務統括所なのであり、正門側からみた迷宮事務統括所はみる者を圧倒する威容を備えている。そして、迷宮事務統括所を利用できるのは貴族だけだ。

 受付の様子を横目でみながらレカンはアリオスを従えて右のほうに歩いていった。

 立ち並ぶ石柱のあいだを抜け、受付所の棟と斡旋所の棟のあいだに開いたアーチ状の巨大な出入り口をくぐる。

 ここが斡旋所である。

 冒険者たちがたむろしている。ここにいるのはほとんどがソロの冒険者だ。手っ取り早く人数を集めたい場合は、ここで集めることができる。ただしソロの冒険者には当たり外れが多い。やはり信用がおけるのは実績のあるパーティーだ。斡旋を希望するパーティーは、ここに申し込んでおいて宿舎のほうで待機するか、別の用事をする。条件に合ったパーティーがみつかるまで、何日もかかる場合もあるという。

 奥まったカウンターが開いていたので、レカンはそこに近づいていった。

 カウンターの手前に置いてある椅子に座ると、レカンは口を開いた。

「パーティーメンバーの補充を探している。ソロでもパーティーでもいいが、すぐに迷宮に潜れるやつがいい」

「ここは深層用の窓口だぞ。で、何階層だ?」

「八十二階層の大型個体の部屋からだ」

「ほう」

 職員の男は顔を上げてレカンをみた。痩せて筋張った顔をした初老の男だ。レカンは上背があるので、見上げる形になる。

「お前のパーティーの名前、人数、構成を言え」

「パーティー名は〈ウィラード〉。人数は二人。構成というのは何だ?」

「職種と得物と得意な技術だ」

「二人とも剣士だ。オレは〈回復〉も使う」

「ほう、それは珍しい。〈回復〉持ちで八十階層台に行けるなら、割のいい斡旋が八件可能だ」

「よそに雇われる気はない。こちらが雇う」

「雇う、だと? 合同探索ではなく、雇用か?」

「合同探索と雇用というのは、どうちがうんだ」

「合同探索だと、メンバーの一人一人が対等だ。どこにいくか、いつ引き上げるか、得たものをどう配分するかも話し合いで決める。こちらはその内容に関知しない。お前たちは二人パーティーだから、八十階層台を探索するなら五人から十人程度の斡旋を受けることになる。主導権は握れないだろうな」

「雇用は?」

「雇用した人数分の日当を払わなくてはならん。収益があろうとなかろうとだ。日当の額はこちらが決める。取得品の分配方法は当事者同士で話し合って、こちらに報告してもらうが、当然雇った側が主導権を握れる」

「雇用でいく」

「わかった。お前たちが組んでいたパーティーの名前を教えてくれ」

「この迷宮では、まだどことも組んだことはない」

「組んだことのある冒険者の名前を、覚えているかぎり教えてくれ」

「だからこの迷宮では、誰とも組んだことはない」

 職員の男はペンを下ろし、顔を上げてレカンをじっとみた。

「お前は、八十二階層まで二人で下りたとでも言うつもりか」

「そうだ」

 男は、怒りを顔に浮かべた。

「出ていけ!」

「何だと?」

 職員は立ち上がり、出入り口を指さして怒鳴った。

「ここはお前たちのような者の来る場所ではない! ただちに出ていけ!」

(ああなるほど)

(この男はオレが言ったことを嘘だと思ったんだな)

(この迷宮ぐらいになれば相当腕の立つ冒険者がいるだろうし)

(そういうやつらなら八十二階層あたりを二人で攻略できるだろうに)

 自分たちが二人で八十二階層に達していることを今すぐ証明できるだろうかと考え、むずかしいと結論した。恩寵品を鑑定してもらえば、八十階層台の品を得ていることは証明できる。ただし自力で得たかどうかは証明できない。まして二人で探索しているということは証明のしようもない。

 レカンは静かに立ち上がった。

「邪魔したな」

 そのまま身をひるがえし、出入り口に向かう。

 レカンを追い返した職員に騎士が何かを告げ、職員は後ろの立派な机に座る女のもとに歩いていった。そこまでを〈立体知覚〉で捉えた。

(前だったら)

(こんな扱いを受けたら頭に血がのぼっただろうな)

(シーラのいう剛剣にオレも少しは近づけたんだろうか)

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― 新着の感想 ―
[一言] 主人公の成長とも言えるけど、理不尽に対して言い返さないのは物語的に爽快感は薄れた印象。 一時的に鼠でも雇って実力を証明してもらえば良かったのでは。
[一言] 受付の人が信じられないのはわからんでもないけど それでいきなり出ていけは対応が乱暴な気もしますね マニュアル対応に慣れてて予想外のことへの対応がおざなりになってる感 冒険者なんてイレギュラー…
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