16
16
この日は六十六階層まで探索した。〈呪印剣〉以外の武器は落ちなかった。
翌日、つまり一の月の十六日には、七十一階層まで探索した。
ボス部屋のほかに三度部屋に入った。
結局八部屋で合計五十七体の白幽鬼を倒し、十二の宝箱を得た。
そのうち恩寵武器は〈呪闇剣〉〈隠身剣〉〈貫穿槍〉〈破砕槌〉の四つで、そのほか恩寵のないロングソードが一本出た。振ってみた感じでは、恩寵のないロングソードが一番バランスがよいように思われた。ままならないものである。
〈呪闇剣〉は、斬られた側の視界が不良になるという効果がある。
〈隠身剣〉は、装備した者の姿や気配がぼんやりするという効果がある。
〈貫穿槍〉は、突いたとき防御系恩寵の効果が低下する。取得品についた恩寵の効果はあまり強くない。
〈破砕槌〉は、打撃に爆発が加わる恩寵だ。攻撃手段としては強力だが、槌がひどく重いので使い手を選ぶだろう。
ここまでそれなりの数の恩寵武器を手に入れたが、正直レカンにとって、自分で使いたいと思う武器はほとんどない。ただ、こういう武器を持った相手と戦うときのために、特質を知っておきたい。だからしばらく売るつもりはなかった。
この点についてはアリオスの了解を得ている。
レカンもアリオスも、ニーナエ迷宮でたっぷりと稼いだ。
はっきりと確認していないが、レカンは現金だけでも白金貨十枚程度の金額を持っているはずだ。売れば金になるアイテムも数多く所有している。
だから手に入れたアイテムをすぐ売らなくても少しも困らない。アリオスも同様だ。ただし、いくら分け前を渡せばよいかを知るために、そのうち販売所で売値の査定はしてもらうつもりだ。
ちなみに魔獣が持っている状態で〈鑑定〉をかけても、もう成功することはなかった。前回成功したのはたまたま相手が動かずにいてくれたからなのだろう。今後は〈鑑定〉は通じないと思うほかない。
探索を終えて宿に帰ると、さすがにへとへとだった。
「アリオス。明日は休養日にする」
「ありがとうございます」
ここまで快進撃を続けてきたが、下に下りるに従い、戦いは厳しさを増している。これからは今までのようにはいかないだろうと、レカンは思っていた。
翌日、レカンはひたすら寝た。
そして休養日明けの十九日には七十四階層まで進んで迷宮で眠り、翌日には七十七階層まで下りた。
この二日間は八個の宝箱が出て、うち恩寵品は三つだった。
〈剛力剣〉は、〈威力付加〉に似て攻撃力が上がるが、攻撃力だけではなく剣を使う動作のすべてで筋肉が強力になったかのような付加がある。これでつばぜり合いをやれば、巨大な相手でも吹き飛ばせるだろう。
調子に乗ってこの剣で白幽鬼を両断していたら、折れてしまった。
レカンほどの膂力を持った者がこの〈剛力剣〉を使えば、〈黒肌〉をたたき斬る衝撃は非常に大きい。その衝撃の強さに剣の耐久力が耐えられなかったのだ。
そのうえ、筋や関節への負担が非常に大きい。レカンには〈回復〉があるからいいが、普通の人間がこの剣で戦ったら、数日間は休まないといけないだろう。
もうひとついえば、この剣は軽すぎる。いや、実際には重い剣なのだが、軽く感じてしまって振り回してしまい、そのぶん体に負担がかかる。
(この剣も今後出たら売り飛ばしだな)
〈回復剣〉には驚かされた。この剣で斬ると傷はつかず、逆に傷が治るのだ。
「なんで迷宮の魔獣が相手を癒すアイテムを持っているんだ?」
「そうじゃありません。深く斬れば回復作用が追いつきませんから、相手を倒せます。自分に小さな傷をつければ怪我が治り疲労が取れます。小さな傷をいくつもいくつもつければ、かなり大きな傷も治ります。この剣はきっと高く売れますよ」
〈冷気剣〉は、斬った相手を凍りつかせる恩寵を備えているが、白幽鬼相手に試してみたところ、全身は凍りつかず、切り口の周りが凍りつく程度の効果しかなかった。何の役に立つ恩寵なのかよくわからないが、火属性の魔獣などというものがこの世界にもいれば、この剣は威力を発揮するだろうと思われた。
翌二十日は八十階層まで下りた。つまり七十九階層までを攻略した。ここまで十階層ごとに目にみえて敵が手ごわくなったのだから、八十階層の魔獣は強敵だろうと考え、体調を整えてから挑むことにしたのだ。この日は恩寵品は得られなかった。
迷宮で眠った。
目が覚めれば二十一日だ。
ゆっくり食事をして、八十階層のボス部屋に移動した。
魔獣の数は九体となるはずだ。
レカンは部屋の前で呼吸を整え、魔力を練った。
そしてかっと右目をみひらき、部屋に突入するなり、全力で魔法を撃った。
「〈雷撃〉!」
縦横無尽に走る雷が、九体の魔獣を捉えた。五体の〈黒肌〉は一瞬動きを止める。だが四体の〈赤肌〉は、まったく動きを止めず、一体がただちに不気味なうなり声を上げ始めた。レカンは右奥のわずかな空間目指して高速で移動する。アリオスが部屋に突入してきているが、魔獣たちの注意はレカンに向いている。全力で〈雷撃〉を撃ったかいがあるというものだ。
レカンが急激に方向転換をする。
〈赤肌〉から飛んできた光の槍が、レカンの前の〈黒肌〉の背中で爆発する。だが〈黒肌〉は少しも動じることなく剣を振り上げ、振り下ろす。身をかわしたレカンが〈黒肌〉の剣を持つ右手の手首に〈ラスクの剣〉をたたき付ける。
斬れない。
そのことにレカンはわずかに驚きを覚えた。
今の一撃が通らないとなると、この階層の〈黒肌〉の防御力は格段に高い。
首を刎ねるべく、剣をよこざまに振った。だが、〈黒肌〉の首の横には鎧状の外皮が張り出していて、レカンの剣をはじき返す。
〈黒肌〉の左右から別の〈黒肌〉が攻撃を繰り出してくる。
レカンは剣を引き、中央の〈黒肌〉に突きを放った。自動的に〈刺突〉技能が発動する。両翼の〈黒肌〉が振る剣が命中するが、レカンの攻撃はぶれない。〈ラスクの剣〉が喉を突き破って後ろに抜ける。素早く左右に剣を振って引く。〈黒肌〉の首が真上にちぎれ飛ぶ。
「〈炎槍〉!」
左側の〈黒肌〉を左手から放った〈炎槍〉で吹き飛ばし、右側の〈黒肌〉の脳天に〈ラスクの剣〉を振り下ろす。右側の〈黒肌〉が振り回す剣がレカンの左肩を打撃するが、委細構わず〈ラスクの剣〉を振り上げ、猛然と振り下ろす。頭がはじけて〈黒肌〉の動きが止まる。
〈インテュアドロの首飾り〉が反応して魔法攻撃を防ぐ。魔法攻撃をしてきた相手のことは無視して、起き上がって突進してくる〈黒肌〉に相対する。
速い。
体の動きも振り下ろされる剣も、一流の剣士の速度だ。高く振り上げて振り下ろすので、威力も充分に乗っている。
レカンはタイミングを合わせて剣を打ち下ろしつつ、相手の剣を斜めにはじき飛ばし、突きで喉を突き破る。
その後ろから別の〈黒肌〉が飛び込んでくる。さきほど吹き飛ばした〈黒肌〉と激突して転倒していたが、体勢を立て直したのだ。
レカンは冷静に突きを放ち、首を切り落とした。
そのとき最初に〈雷撃〉を浴びて麻痺していた五体目の〈黒肌〉が起き上がってこようとした。アリオスが剣を振り、その〈黒肌〉の首が落ちた。
戦闘は終わった。これまでになく、激しい戦闘だった。
「うまいこと〈黒肌〉のうちの一体が〈雷撃〉で麻痺してくれたからよかったが、そうでなかったら苦戦していたな」
「この階層になると、〈雷撃〉でも一瞬しか足止めできませんね。その一瞬が大きいですけど」
「〈赤肌〉には足止めにもならんな」
今までの階層で通用していた戦法が通用しなくなりつつあるようだ。
それにしてもアリオスの剣技は素晴らしい。〈赤肌〉三体を引きつけて、うまく死角に入りながら手際よく始末していたのを、レカンは〈立体知覚〉で捉えていた。また、黒肌の首の横に張りだしたネックガードもどきをものともせず首を断ち斬る剣技はすさまじい。剣も相当によいものであるようだが。
正直、レカンの剣技と〈ラスクの剣〉では、この階層の〈黒肌〉の相手は厳しい。
だが、〈ザナの守護石〉を取り出すのはまだ早い。こんな階層で守護石を使っていたら、百階層以降では行き詰まってしまうだろう。しばらくは、〈刺突〉を多用して相手を倒しながら、〈刺突〉技能を磨くことにした。だが戦いに余裕がなくなってきているのは確かだ。
やはりパーティー人数を増やすべきだろうか。
わずかなあいだ何体かの白幽鬼を足止めしてくれさえすればいい。
倒してくれなくていいのだ。ただレカンとアリオスに一対一か、せめて一対二で戦える状況を作ってくれればいい。
領主直営の斡旋所をのぞいてみようかと、レカンは思っていた。
この日は八十二階層までで探索を終え、宿に帰った。
翌日は休養日にした。
食事以外ずっと寝て過ごした。
(このままでは、すぐに行き詰まるな)
(今のところはある程度時間をかければ勝てない相手ではないが)
問題は恩寵武器だ。
この迷宮では魔獣が恩寵武器を持って現れる。
どの部屋にいつ現れるかわからない。
幸い、アリオスは恩寵武器を持った敵が現れたら、そうと言い当てることができる。
だが、どんな恩寵だかはわからない。
六十二階層のボス戦では、相手が持っている恩寵武器を〈鑑定〉で調べることができたが、あれはたまたま相手の動きが緩慢だから成功したのであって、それ以降は一度も成功していない。しかも〈鑑定〉をしている時間で〈炎槍〉が撃てるのだから、〈鑑定〉をして失敗したときは貴重な時間をむだにする。
恩寵武器を持った相手との戦いはむずかしい。
攻撃を武器で受けたりそらしたりするのは危険であり、盾で受けることさえ不安がある。
遠距離攻撃が飛び出してくるかもしれない。
そういう恩寵武器を持った魔獣が一体いるだけで、ひどく戦いにくくなる。
しかも恩寵武器を持った魔獣は一体とはかぎらないのだ。
一対一なら問題ないのだ。相手の攻撃をかわしきって倒すことができる。
しかし九対二だと、かなり厳しい。
まして十対二になってしまうと、完全回避は無理だ。
八十階層台に入ると、〈黒肌〉の動きもがぜん速くなった。おかげでレカンの腕では一撃で首を刎ねるのはむずかしい。そして装甲も硬くなった。
〈赤肌〉は、最初の一体が一度うなり声をあげると、あとはどの魔獣も矢継ぎ早に魔法を撃ってくる。
レカンは〈インテュアドロの首飾り〉で防いでいるが、アリオスはできるだけかわしている。しかし乱戦になるとそれもむずかしい。何とか軽鎧の性能で持ちこたえている。
練り込んだ〈炎槍〉なら、〈黒肌〉を一撃で屠れる。だが、ここらの階層になると、〈炎槍〉を撃つ時間が取れないことが多い。起動速度が相当に速くなっているとはいえ、〈炎槍〉を練るにはわずかばかりの時間が必要だ。その時間をこの階層の白幽鬼は与えてくれない。部屋の大きさがもう少し大きければ距離をとることもできるのだろうが、この狭さでは敵が近すぎる。
あらかじめ魔力を練っておいて、部屋に突入した瞬間に〈炎槍〉を撃つことはできる。だが、初撃は足止めのために〈雷撃〉を使うようにしている。〈火矢〉なら素早く撃てるが、ほとんどダメージを与えられない。
二人だけでは百階層越えはむずかしい。それだけは確かだった。
(ふむ)
(斡旋所をのぞいてみるか)
「第29話 ツボルト迷宮への挑戦」完/次回「第30話 共同探索」




