表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
狼は眠らない  作者: 支援BIS
第29話 ツボルト迷宮への挑戦
297/702

5

5


「〈閃光(リリオム)〉!」

 目の前の魔獣三体に向かって、レカンは〈閃光〉の魔法を放った。

 だが魔獣には何の効果もなかった。

「何やってるんですか?」

「何か効果があるかもしれないと思ったんだ」

「ないでしょう。そもそも白幽鬼には目がないですよ」

「魂鬼族の魔獣には効果があるというし、もしかしたら幽鬼族の魔獣にも効果があるかもしれないと思ったんだ」

 この迷宮の魔獣が白幽鬼だけだと知ったとき、レカンは、エダを連れてくるべきだったかと思った。たしかシーラは幽鬼族の魔獣には〈浄化〉が劇的な効果を持つと言っていたはずだ。だが、連れてこなかったものはしかたがない。

「まあ実験や検証は大事です」

 会話しながらも二人は剣を振るい、三体の魔獣を倒した。そして二十七階層に下りた。

「どうしたんです、レカン殿。剣をじっとみつめて」

「この剣、使いにくいな」

 この剣とは、〈加速剣〉のことだ。この迷宮の七階層で得た、〈剣速付加〉の恩寵がついた剣であり、二割か三割程度剣速が上がる。

 手に入れてからここまでずっと使ってきた。

 軽く力を入れただけで速い速度で振れるので、面白がって使っていたが、どうにも使い勝手が悪い。

 自分で思ったより速く剣が動いてしまうというのは、こんなにも始末に悪いものなのだ。しばらく使っていれば慣れるだろうと思っていたが、違和感がなくならない。

 速度自体もさることながら、相手に当たった手応えが、あらかじめ体が予想した手応えとちがうのが、より大きな問題だ。

 剣が目標に当たれば手応えがある。手応えとは衝撃であり、手首や肘や肩に跳ね返ってくる負荷だ。それがやってくるタイミングが予定より早く、そして大きい。今はそれほど強くも速くも振っていないから、わずかな違和感ですんでいるが、強敵と相対したときには、もっと速くもっと強く剣を振るから、手首や肘を痛めてしまうかもしれない。

 それに、実際に剣を振って敵を斬り裂くときには、剣が相手の体に食い込んだ瞬間に、手元に引いたり剣先の方向に押したり、相手に食い込ませるように押し込んだりする。この剣ではそうしたわざが使えない。相手の剣をはじいて別の攻撃をするのにも不向きだ。

「レカン殿。〈剣速付加〉がついた剣を使う人は、普通は力任せに剣をたたきつけるんです」

「そうだろうな」

「自分の力と剣の重さと速さで、有無を言わせず相手をたたき斬るんです。ほどよい速さとか、ほどよい強さとかではなく、また、当てたあとの工夫なんか考えもせず、とにかく一撃一撃に威力を乗せるんです」

「なるほど」

「そういう使い方をする人にはこの種の剣は大いに価値があります。レカン殿のように高度なわざを使う剣士は、あんまりこの剣を使わないほうがいいです。わざが狂いますから」

「お前の流派では、〈剣速付加〉がついた剣は使わないのか」

「使うとしたら、一撃必殺の攻撃をするときですね。わざのやり取りをしていたら勝てない相手に対して一気に決着をつけるときです。そのときには、自分が持てる力と速さのすべてを込めて剣を振ります」

 レカンは自分が高度なわざを使っているとはまったく思っていなかった。自己流の力任せの剣だと思っていた。だが、そう言われてみると確かに自分はわざも使っている。力のある打撃も放とうとするが、斬撃と斬撃をつないで攻撃を組み立てようともしている。そのどちらかを手放すのはいやだった。

「ふむ。こいつはしばらくしまっておこう」

 そう言って、〈加速剣〉をしまい、〈ラスクの剣〉を取り出した。この剣を腰に吊ると安心感がちがう。いつのまにかレカンはこの剣にすっかりなじんでいたのである。

 レカンとアリオスは迷宮で昼食を取り、迷宮で夕食を取り、夜遅くまで探索をして、三十六階層に到達して迷宮で寝た。

 この日レカンはいろいろな魔法を試してみた。

 二十階層台の魔獣は、〈火矢(ベイアーツ)〉で殺せた。三十階層台になると、さすがに〈火矢〉の一撃では倒せなかったが、四体の魔獣に一瞬で重傷を負わせ、動きを止めることができた。

 三十階層台の魔獣四体に強めの〈雷撃(グィンバル)〉を撃ったところ、一撃で四体とも殺すことができた。

 魔獣戦でも〈隠蔽(ニルズム)〉を使ってみたが、白幽鬼には効果がないようだ。

 〈隠蔽〉は、おもに人間に効果のある魔法だが、魔獣にもある程度は効果があるとシーラに教わった。白幽鬼に効かないというのは、感覚器官のちがいなのだろうか。

 〈水刃(シュートピネル)〉は首を落としたり四肢を落としたりするのには有効だが、この魔獣は体に少々損傷を受けても動きがにぶくならないので、わざわざ水を準備してまで使うほどの効果はなかった。下層にいけばますます役に立たないだろう。

 〈氷弾(シルジン)〉も似たようなものだ。貫通力はあるのだが、あいにく白幽鬼には、ここを貫通すれば死ぬというような急所がない。首を吹き飛ばせば死ぬが、同じ魔力で〈炎槍(バンドルー)〉を撃ったほうが効果が高い。

 やはり頼りになるのは、〈炎槍〉であり、工夫次第で役に立ちそうなのは〈雷撃〉だ。この二つの魔法を、素早くかつ正確に使いこなしていくことを目標にすることにした。

 魔法攻撃を試すなかでわかったのだが、〈赤肌〉は〈黒肌〉より明らかに魔法抵抗が高い。だから〈雷撃〉のような魔力で直接攻撃するような魔法ではダメージが半減される。その一方で、〈炎槍〉は魔力そのものというより、魔力によって生じた火炎と爆発と衝撃をぶつける魔法だが、こちらのほうがよくダメージが通る。

 そしてここにきてはっきりしたが、下に行けば行くほど白幽鬼の動きは速くなり的確になる。やがてレカンとアリオスをもってしても容易に突破できない階層に出会うことになるだろう。

 翌日は、五十一階層まで到達した。

 うれしいことがあった。

 五十階層の大型個体を倒したとき、〈吸命剣(ヴードシラー)〉を得たのだ。

 〈吸命剣〉には〈体力吸収〉という恩寵がついている。これは魔獣に与えたダメージの一割ほどこちらの怪我が治り体力が回復するという恩寵だ。

 レカンには〈回復〉があり、体力回復薬もある。だからたぶんこの剣は不要だろう。

 それでも、どんな恩寵であるのか、その使い心地を、ぜひ試してみなければならない。

 それにしても、人が多い。ここまでの階層でも人の多さに驚いたが、五十階層では一段と人が多かった。千人以上いるといわれても信じるだろう。おかげで通路にもそこそこ人がいて、できるだけ人と出会わない順路を選ぶのが大変だった。

 アリオスは文句も言わずついてくるようになった。よい傾向である。

 五十一階層は、五十階層に比べると人が少ないようだが、やはり四十階層台よりずいぶん多い。

(まあ難易度の高い階層に達すれば人も減るだろう)

 レカンは次々に階層を制覇するのが楽しくてならなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ