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狼は眠らない  作者: 支援BIS
第28話 ラフィンの岩棚亭
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 ナークが昼食を取っていると、ブルスカが下りてきた。

「ナークさん、おはよう」

「こんな時間におはようもないもんだ。飯食うか」

「頼むよ」

 食事を出すとブルスカはうれしそうな顔をしたが、三口ほど食べてスプーンを置いた。

「疲れてるみたいだな」

「うん」

「〈ウィラード〉とは合わないか」

「え? いや、そんなことはないよ。組んでてこんなにらくなパーティーははじめてだ」

「ほう?」

 ブルスカはスプーンをとって野菜を口に運び、皿の上の野菜をスプーンでつつき回した。

「それに、五人で九十階層台が攻略できるってのは、ちょっと驚きだね」

「メンバーを斡旋してもらわなかったのか」

 一番集めやすいのはソロの冒険者だ。

 斡旋窓口に行って、ソロの冒険者を五人斡旋してもらえば十人パーティーができあがる。

「そうするつもりだったよ。でもレカンが、人数が多くなるほど連携がむずかしいから、最初は五人で行ってみようと言ったんで、取りあえず七十九階層に行ってみたんだ」

 七十九階層なら敵は八体だ。

 そして九十階層台に到達した冒険者にとって七十九階層の敵は、八対五でも苦戦するような相手ではない。もっとも、格別の恩寵品を持った敵が出た場合は別だが。

「楽勝だったから次に八十九階層に行った。このときまでは、〈グリンダム〉が主導権を取ってた」

 ということはブルスカが指揮をしていたということだ。

「ところが、レカンとアリオスの動きが速すぎて、うまく指示を出せなかった。ちょっとあわてちゃって指揮が乱れ、ヨアナが攻撃されそうになっちまった」

 ヨアナは後ろのほうから魔法攻撃をする。それを守るのはブルスカの仕事だ。

「そのときレカンが指示を出してピンチを切り抜けた。それからはもう、ごく自然に、レカンが全体を指揮するようになった」

 レカンが全体の指揮をしているらしいことは、〈ラフィンの岩棚亭〉での会話からも察していたので意外ではないといえば意外ではないが、あのぶっきらぼうな男にうまく指揮ができるのかという疑問はある。

「レカンは配置を入れ替えた。アリオスが敵陣深く突っ込んで相手を攪乱する。ぼくとツインガーが前線を支える。レカンが後ろにいて、ヨアナを守るんだ。三体までは通していいという指示だった」

 たぶん部屋に入った瞬間に、敵一体はヨアナの魔法で倒しているはずだから、レカンが三体を引きつければ残り五体を三人で相手取ることになる。

「最初はヨアナもおっかなびっくりだったけど、レカンの防御はものすごい安定感があった。それにアリオスもレカンも攻撃力がものすごい。ぼくとツインガーは余裕をもって自由に戦えたよ。いや、ほんとにやりやすかった」

 野菜のかたまりを大きくすくうと口に放り込み、もぐもぐと咀嚼した。そして水を飲んでそれを喉の奥に流し込み、話を続けた。

「それに、ぼくやツインガーが怪我をしても、戦闘が終わるとレカンが〈回復〉をかけてくれるんだ。驚いたことに、レカンは杖を使わないんだ。しかも準備詠唱もない」

「ほう」

 準備詠唱なしで魔法を使う冒険者は、深層ではそこそこいる。だが〈回復〉で杖を使わないというのは聞いたことがない。それにかすり傷を治すような〈回復〉ならともかく、迷宮の深層で〈回復〉を使うような冒険者は、効果を高めるために準備詠唱をするのが普通だ。

「何度か戦闘をこなすうちに連携もよくなって、ぼくもツインガーも気負わず自由に戦えるようになった。正直、あんなにのびのび戦えたのは、もう記憶にないくらいだよ」

 〈ウィラード〉と〈グリンダム〉は、パーティーとしての相性はよかったようだ。ブルスカの話を聞いて、ナークはほっとした。

「それに、アリオスはとても勘がよくて、恩寵品を持った魔獣がいると、最初に気がついて注意してくれるんだ。これもすごく助かった」

 恩寵品の武器を持った敵は、その階層では考えられない速度や破壊力をみせたり状態異常を引き起こしたりする。死んだり大怪我をしたりする冒険者は、たいてい恩寵品にやられる。この魔獣は恩寵品の武器を持っているとあらかじめわかるとしたら、こんなにらくなことはない。そのうえ、そいつを倒せば大金が手に入るのだ。やる気もちがってくる。

「ふうん。じゃあ、〈ウィラード〉と組んでよかったじゃないか」

「うん。幸運だった。あれよあれよというまに到達階層を更新したしね」

「そうか。しかし一日に二階層も進むというのは、いくらなんでも無理があるんじゃないか」

「はは。九十二階層を攻略した直後に次に進むと言われたときは、こいつ何を言ってるんだと思ったよ。しかしまさか本当に挑戦するとは。そしてまさか本当に攻略するとは。ナークさん」

「うん?」

「あの二人はね、〈あっち側〉の人間だよ」

「ほう」

 〈あっち側〉というのは、百階層の向こう側のことだ。そこに踏み込める冒険者というのは特殊な人種だ。普通の人間とはどこかちがう。能力も考え方も。

 そう言われてみて、ナークは別のことが気になった。〈あっち側〉の人間は往々にして倫理観が麻痺しているようなところがあって、普通の冒険者を平気で犠牲にしたりすることがある。

「使い捨てにされたりせんだろうな」

「え? ああ、いや、それは大丈夫だと思う。そういう感じじゃない」

「そうか。それならいい。だが、無理をするんじゃないぞ」

「うん。ぼくたちの感覚じゃあ、一日きつい戦いをしたら翌日はゆっくり休養を取りたいんだけどね。あの二人はちがうみたいだ。というか、もしかしたら、あの二人にとってはきつくないのかもしれない」

「五人で九十九階層まで到達したんだぞ。きつくなかったら人間じゃない」

 ナークの言葉を聞いたブルスカは、何とも言えない表情でナークの顔をみつめた。

「ナークさん。あの二人だったら、もしかして」

「もしかして、何だ」

「いや、何でもない。とにかくこれは二度とないチャンスなんだ。今あの二人と別れるわけにはいかないよ」

 たとえどんな戦い方をしたとしても、深い階層で魔獣を倒せば、それだけの強さが手に入る。〈グリンダム〉は、ほんの数日前まで九十二階層で足踏みしていたが、おそらく今なら九十二階層の大型個体もらくらく倒せるだろう。

「百階層越えかあ。絶対に無理だと思ってたけど……」

「おい」

「何だい、ナークさん」

「行くなとは言わない。だが、百階層に行って、やっぱりだめだと思ったら、部屋には入るな。あらかじめその許可はもらっておけ」

「うん、わかった。ありがとう」

 百階層の大型個体を倒して百一階層への通行証を手に入れたものは、いわば英雄だ。この町の冒険者であこがれない者はいない。

 なるほどレカンとアリオスというのは腕利きなんだろう。もしかしたらよその迷宮を踏破した経験があるのかもしれない。

 だが五人で百階層の大型個体が倒せるわけがない。

 やはりナークには無謀な挑戦に思えてしかたがなかった。

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