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狼は眠らない  作者: 支援BIS
第28話 ラフィンの岩棚亭
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 翌日の朝となった。

 ナークは深酒のために寝過ごしてしまった。

 酔いの残る頭に刺激を与えないように台所に行くと、ネルーが片づけをしていた。

「うん? 朝飯を食べたやつがいるのか?」

「レカンさんとアリオスさんだよ。もう出かけたよ」

「出かけた?」

「〈グリンダム〉の三人を起こそうとしたけど起きなかったみたいで、二人で迷宮に行ったよ」

「迷宮に……行っただと? ばかな」

「ばかはあんただよ」

「大きな声を出すな」

「しんどいんだろ? 茶を淹れてあげるよ。椅子に座っときな」

 食堂の椅子に座ってぼんやりしていると、香りのいい茶をネルーが淹れて持ってきてくれた。

 しばらくすると気分が落ち着いてきて、物事を考えることができるようになった。

 そうしてみると、どうも気になることがある。

 〈ウィラード〉は二人だ。だが二人では深層は探索できない。

 〈剣の迷宮〉では、出現する魔獣の数が階層ごとに決まっている。一階層から九階層は一体、十階層から十九階層は二体で、九十階層から九十九階層は十体の魔獣が出る。これを倒そうとすれば、五人から十人程度の人数がいる。よその町からやってくる騎士団などは、三十人規模の騎士が交代で部屋に入って魔獣を倒す。〈グリンダム〉にしても、いつも合同探索をする五人組のパーティーがいて、八人で戦っている。

 〈ウィラード〉はどうなのだろう。

 おそろしいことに、あの二人から、どこかのパーティーと合同で探索しているという話を聞いたことがない。

 そもそも〈グリンダム〉のように、もともとこの町出身で、知り合いの多いパーティーならともかく、自前で十人以上の人数を抱えている大規模パーティー以外は、領主直営の斡旋所で合同探索をするパーティーを斡旋してもらうものだ。条件の合うパーティーがみつかるまで、直営の旅館に泊まるのが普通だ。

 ところが〈ウィラード〉の二人は、この町に来るなり〈ラフィンの岩棚亭〉に腰を据え、それで不自由している様子もない。

 そこから考えられるのは、この二人はずっと二人だけで探索しているのではないかということだ。しかし二人では深層は探索できない。

 考えると頭が痛くなってきたので、考えるのをやめた。

 翌日、〈グリンダム〉と〈ウィラード〉は一緒に宿を出て迷宮に向かった。この日も帰りは遅かった。なんと一日で二階層進み、恩寵品の武器が三本出て、大金貨九枚で売れたという。祝杯を上げたが、みな早々に部屋に引き上げた。

「明日も迷宮探索だ。姫亀の一刻には出発するぞ」

 そうレカンが宣言したからである。

 アリオスはあきらめ顔でうなずいていたが、〈グリンダム〉の三人は文句を言った。

「おいおい。今日も二階層も進んだんだぞ。ゆっくり祝わしてくれんか」

「そうさ。たっぷり稼いだしね。こんな日にお祝いしなくてどうするのさ」

「休養も大事ですよ。明日は休養日にしましょう」

「そうですよ、レカン殿。無理はいけません」

 四人に食い下がられても、レカンは動じなかった。

「ふむ。確かに休憩は大事だ」

「そうだとも」

「わかってくれたかの」

「だが、中途半端に休憩を取ると、なかだるみしてしまう。せっかく連携も取れてきたことだし、ここは切りのいいところまで進んでおくべきだ」

「レカン殿。切りのいいところとはどこですか」

「百階層だ」

 食堂が、しんと静まりかえった。

「百階層、じゃと?」

「そうだ。本当にすぐれた恩寵品が出るのは百階層からだと聞いている」

「無理だよ。あんた、百階層がどういう場所か知ってるのかい?」

「いや、知らん。どういう場所なんだ」

「あたいたち地元の冒険者は、百階層以下を〈あっち側〉って呼んでるんだ」

「ほう」

「九十九階層までと百階層からは、まるで別物なんだよ」

「そういうことだのう」

「ふむ。ではまず九十九階層まで進む。そこから先のことはそれから考える。それならどうだ」

「私はそれでいいです。でも、明日は休養日にしませんか」

「昨日も休養日だったろう。一日おきに休養では、あまりに休養が多すぎる。明日は迷宮に潜る。だが、あんたたちは潜りたくないんなら、それでもいい」

「それは……」

 〈グリンダム〉の三人は黙り込んでしまった。

(ちいっ)

(それでもいいってのは、あんたたちと一緒に潜らなくてもいいって意味だろうな)

(いやなら別のパーティーと組むと言ってるわけだ)

(だがこれは〈グリンダム〉にとっては到達階層を伸ばすチャンスだ)

(今〈ウィラード〉とたもとを分かつのはいやだろうな)

 ナークは〈グリンダム〉の三人を応援しようかと思ったが、やめた。これは外部の人間が口を出す問題ではない。当事者どうしで結論を出すべき問題だ。

「レカン殿。せっかく連携も取れてきたことだし、明日は潜りましょう。でも明後日は休養日にして、二人で九十階層辺りを周回しませんか」

(周回!)

(九十階層を周回だと!)

(しかも今、二人でと言ったのか?)

 このときナークは、この二人が自分の常識では測れない相手だとはじめて明確に思い知った。

 ともあれ、翌日五人は迷宮を探索し、九十七階層まで下りた。

 その次の日は休養日で、さらに次の日は九十八階層まで、その次の日は九十九階層まで到達し、そこで三日間の休養日を取ることになった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 2人の常識外なところが自然な戸惑いを通して伝わってきていいですね
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