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帰ってきた〈ウィラード〉は、風呂に入った。
二人が夕食を食べ始めたころ、〈グリンダム〉が帰ってきた。
「おや、今日はそっちが先に帰ったんだね」
「ヨアナさん、お帰りなさい。ツインガーさんも、ブルスカさんも」
「ただいま」
「おう」
「ヨアナさん、私たちも九十二階層に到達しましたよ」
「えっ、もうかい」
「これは驚いたわい」
「ちょっと待ってくれよ。二日で九十階層、九十一階層を踏破したっていうのかい?」
「ええ」
「それはすごいのう。どこのパーティーと一緒だったんだ?」
「二人だけですよ」
「かっかっかっ。そんなわけがあるまい。まあ、言いたくなければかまわんがの」
「ちょうどいいじゃないか。あたいたちも、組んでるパーティーがだいぶ消耗しちまってね。しばらく探索を休憩するっていうんだ」
「じゃあ、明日は休養日にして、明後日一緒に潜るってのはどうかな。どこかの部屋で連携を試してみて、具合がいいようなら大型個体に挑戦してもいい」
「いいね。それでどうだい、お二人さん」
「レカン殿、それでいいですか」
「ああ」
「じゃあ、それでお願いします」
聞いているナークの胸がどきどきしてきた。
いよいよ合同探索を行うのだ。
明後日になれば、〈ウィラード〉が本当に九十二階層に達しているのかどうか、はっきりする。もしも到達しているのなら、この迷宮にはじめて挑戦したというのは嘘だったことになる。逆に九十二階層に達しているというのが嘘だったとすれば、なぜそんな嘘をついたのかがはっきりするだろう。
その翌日は休養日ということで、〈グリンダム〉の三人はほとんど寝て過ごした。
レカンとアリオスは町に出かけた。昼も帰ってはこなかった。
ナークは一日中、合同探索がどうなるかについて、いろんな想像をめぐらせた。
そして一の月の三十日となった。
合同探索の日である。
五人は意気揚々と出かけていった。
いったいどんな結末になるのかやきもきしながら、ナークは一日を過ごした。
「あんた。何をそわそわしてるんだい」
「うるさいな。ほっておいてくれ」
(無事に帰ってこいよ、ブルスカ、ツインガー、ヨアナ)
(それにレカンとアリオスもだ)
(みんな無事に帰ってきてくれ)
水牛の四刻となったが、五人は帰ってこなかった。
黄蛙の一刻になっても、五人は帰ってこなかった。
夕食の客はみな帰って、宿はがらんとして静まりかえっている。
黄蛙の二刻となり、ナークの不安といら立ちが頂点に達したころである。
にぎやかな一団が近づいているなとは思ったが、どうもその声に聞き覚えがある。
(〈グリンダム〉か?)
大きな音を立ててドアが開いた。
「ナークさん、ただいま!」
「帰ったぞい」
「帰りました」
五人が次々に入ってくる。〈グリンダム〉の三人はひどく上機嫌だ。アリオスもにこにこしている。レカンは相変わらず仏頂面だが、不機嫌そうな様子ではない。
「ナークさん。やりましたよ、私たち」
「何をやったんだ」
「九十四階層に到達したんです!」
「なんだと」
「腹減ったのう。飯はあるか」
「あ、ああ。おい! ネルー! 食事だ! 五人分だ!」
「あいよー」
五人は白ワインで乾杯した。
カップ五つにつぐと、ちょうど一本のワインをつぎきる。
乾杯は一度ではすまず、三度にわたった。
あっというまに三本のワインが五人の腹に消えたのである。
「ナークさん。到達階層の更新もうれしいんだけど、もっとうれしいことがあるんだ」
「ほう?」
「恩寵品の武器が五本出た」
「おお! それはめでたい」
「いくらで売れたと思う?」
ということは買い取り所に寄ってきたのだ。
「さあ、わからんな」
「白金貨一枚と大金貨二枚」
「えええっ?」
「すごいだろう。一人あたま大金貨二枚と金貨四枚の分け前だ。三回ぐらいの乾杯じゃたりないよ」
〈剣の迷宮〉は、駆け出しには探索できない迷宮だ。
それは、浅い階層でも敵が手ごわいということもあるが、それよりも収入が問題だ。
白幽鬼には売れる部位がない。だから、魔石と宝箱の中身しか収入にならない。ポーションが出れば自分で使うことが多いから、結局どれぐらいいい武器が出るかが収入を左右する。
ところが浅層では、あまり宝箱が出ない。下に下りれば下りるほど宝箱の出現率は上がる。宝箱のなかに入っている武器も、下に行けば行くほどよい物が出る。九十階層台となれば、白金貨一枚以上の値が付く武器も出ることがある。
ところが恩寵付きの武器を得るには、その武器を持って襲ってくる魔獣を倒す必要がある。当然よい恩寵を持った相手ほどてごわい。
だから最高到達階層を伸ばそうとしているときには、敵が手ごわければ退却して、時間をおいて再度挑戦するということが当たり前に行われている。
稼ぎたいときには、最高到達階層より何階層か上で、部屋をめぐって魔獣を倒し続け、いい恩寵のついた武器が出るのを待つのだ。
ところが五人は最高到達階層を二つも伸ばしたうえに、白金貨一枚以上の値打ちがある恩寵品を手に入れたというのだ。これは驚くべきことである。
その驚きから覚めてみると、喜びと安心が込み上げてきた。
〈ウィラード〉は嘘つきではなかった。正真正銘の腕利きパーティーだった。
すると以前にもこの迷宮に来たことがあることになるが、やはりそうは思えない。しかしもうそんなことはどうでもよかった。
にぎやかな打ち上げに、ナークもネルーも参加した。
何本もの酒瓶が空いた。
ナークの不安はすっかり消え去ったのである。




