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その日の夜は、夕食が終わると早々に解散になった。
領主館に引き上げたアーマミールは、事務官の訪問を受け、あれこれと会談の内容について訊かれた。
アーマミールは、シーラ側の〈浄化〉によりスカラベルの健康状態が著しくよくなったことを説明し、このことは最終日まで内密にすることを約束させた。
また、スカラベルとシーラの対談は、かつてない画期的なものであり、薬草についての知見を飛躍的に引き上げるものであって、不用意に外に出すべきでなく、スカラベルの監修のもと、きちんと調えてから公開すべきものだと強調した。
事務官たちにとって、薬草などどうでもよかった。彼らが心配するのは、第一にスカラベルが無事に予定通りに王都に帰還するかどうかであり、第二に、スカラベルが王都以外の地に不必要に興味を持つかどうかであった。
要するに、彼らが心配しているのは、まずもってスカラベルの健康に害が及ばないことである。そして、今回のような旅を二度と望まないことである。
万が一にもヴォーカに再訪するというような話になっては困るし、まかりまちがってヴォーカに長期滞在したいなどと言い出されたら困るどころではない。
そんなことが起きれば、どこにどんな影響が及ぶか予想しきれない。王都の民心に少なからぬ動揺を与えるだろうし、さらなる経費も必要になる。
かといって宰相府では、スカラベルを放置したり、何かを強制したりすることは避けたい。王の信任も厚いし、民の人気も高いうえ、宰相府にも比較的協力的なこの人物は、政治的に有用な存在なのだ。
アーマミールは、貴門の出身だけあり、事務官たちの立場をよく理解し、彼らが安心できるよう話を進めることができた。
ここにもう一度来たいなどという話はまったく出ていないし、シーラの側にもそんなそぶりはない。むしろシーラの側では今回の訪問をありがたく思いつつも、とまどいをもって受け止めているし、おそらく迷惑にすら感じている。
さらにスカラベルの思いを斟酌すれば、ここで得たものを王都に持ち帰り、薬師の知識を高め新たな薬師たちの育成に役立てることこそを願っていると思われるのであり、王都こそスカラベルの活躍の場である。
このように説明したあと、さらにスカラベルは、サースフリーという学者の著作を世に出す計画を温めており、これは王都でなければできない事業である、ということもほのめかした。
逆に滞在予定については含みを持たせた。
ここまできて一日や二日の滞在延長は大きな問題ではなく、そもそも宰相との打ち合わせでも、最大四日までの延長はみこんでおくということだった。今スカラベルが非常な意欲を持っていることこそ重要である。そこをうまく補佐し支えてこそ、事務官たちの面目躍如たるところであり、自分としても大いに宰相にご報告したいところである。
アーマミールは、エレクス神殿での地位からいっても、出自からいっても、事務官たちにすれば、スカラベル以上に尊重すべき立場の人物だ。
そこを最大限に利用し、事務官たちを安心させるとともに、スカラベルの自由を確保したのだから、やはりこの旅にアーマミールがついてきたのは正解だったといわねばならない。
こうした事情につき、レカンは食事の際の雑談でアーマミールから聞かされることになる。それを知ったことで、レカンも必要以上に事務官や御雇人の意図に思いをめぐらせずにすむようになった。