表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
狼は眠らない  作者: 支援BIS
第4話 薬草採取
27/702

1_2

1


 目を覚ましたレカンは、たらいに残しておいた水を布にしみこませ、体を拭いた。よごれがたまると、隣のたらいに絞る。それを四度繰り返し、最後に残った水で顔を洗った。

 机などというしゃれたものはないので、寝床に腰掛けて腹ごしらえをした。昨日帰りがけに買った食べ物を〈収納〉に突っ込んであったのである。

 こざっぱりした服を着て、宿を出た。

 右手に持っている荷物袋がわずらわしいので、物陰で〈収納〉にしまい込む。剣も〈収納〉にしまい込む。これで荷物はなくなった。

 こんな無防備な格好で町中を歩くのは、あまり気分のよいものではない。ましてこれから行く場所には、魔力の化け物のような女がいる。女ではない。女のような姿をした何かだ。

 このように無防備な姿でその何かに近寄るのは、不安でしかたがない。

 これが森か迷宮で強大な敵に出会ったというなら、何の問題もないのだ。戦えばよいだけのことである。こちらが強ければ敵が死ぬし、敵が強ければこちらが死ぬ。いずれにせよきちんと決着がつく。

 ところが、このような町中で、圧倒的に強大な相手の前で、攻撃も防御もせずただじっとしているとなると、どうにも居心地が悪い。

 とはいえ、その化け物のような何かから、とにもかくにも魔法薬の作り方を教わらねばならない。


2


「やあ、来たね。じゃ、旅に出るよ」

「なに?」

「あんた、魔法薬の作り方を教わりたいんだろう?」

「そうだ」

「だったらまず原料となる薬草の採取から教えないといけない。幸いこの町の四方には、いろんな薬草が生えていてね。まあ、だからあたしが住み着いたんだけれど」

「なるほど」

「だから旅をできる格好に着替えな」

「今か?」

「今だよ」

 〈収納〉のことは知られたくない。

 だから荷物を取りに宿に帰るふりをしようかと、一瞬考えた。

 だが、やめた。

 すべての能力をシーラに隠しきることはできない。

 ならば、どうしても隠したい能力を優先的に秘匿し、ごまかしにくい能力や、知られてもかまわない能力は、隠そうとしないほうがよい。

「ここで着替えればいいのか」

「ああ、あたしは、玄関の外にいるからね。着替えたら出ておいで」

 レカンは、着慣れた黒い服に身を包み、貴王熊の外套を羽織った。

 そこで少し考えた。

(シーラは)(旅をできる格好と言ったが)(それはたぶん)(人からみて旅ができるような格好)(という意味だ)

 荷物袋を出して適当な荷物を放り込み、剣と鞘を取り出して腰に吊った。

「着替えてきた」

「じゃあ、行くよ」

「ドアに鍵をかけていない」

「鍵をかけちまったら、ジェリコが食べ物を買いにいくのに不便じゃないか」

「猿が……猿の魔獣が、自分で、食べ物を買いに行く、のか」

「お気に入りの店があるのさ」

「鍵が開いたままだと薬を盗まれはしないか?」

「そもそも鍵はないよ。棚の壷のことなら、ちょっとした仕掛けがあってね。持ち出すことはできないよ」

「庭に植えてある薬草はどうなる。あんな柵は、壊そうと思えば簡単に壊すことができる」

「うちの庭に植えてるのは、扱いの難しい薬草ばかりでね。ほかじゃ売れないよ。それに、毒草のほうが多いから、庭に入ろうもんならえらい目に遭う。盗人(ぬすっと)どもも近所の悪ガキどもも、そこらへんは思い知ってるさ。あとついでにいえば、薬草の水やりはジェリコがやってくれるよ」

「猿が薬草の面倒をみるのか」

 それから二人は東門のほうに歩いていった。

 それはいいのだが、シーラはどうみても普段着である。

 が、もうレカンは質問しないことにした。

「じゃあ、あんた。門を出るときには、薬草採取で二旬ほど出ると説明しとくんだ。それで、門を出てまっすぐ行くと、五千歩ほど行った所で、左に河原がある。その河原のほとりで待っといてくれるかい」

「わかった」

 その通りにした。

 しばらく河原で待っていたが、暇だったので武具を取りだして手入れをしていた。

 そのうち女の冒険者が河原に降りてきた。

 若くて美しい女だ。

 少し露出の高い動きやすそうな服を着て、ショートソードを腰に吊っている。

 女はレカンを無視して川辺に近づくと、水を手ですくって顔を洗った。

 レカンは武具の手入れを終え、立ち上がり、顔を拭いた女に後ろから声をかけた。

「遅かったな。それで、どっちに行くんだ」

 女は驚いた顔で振り返った。

「ちょっと待って。あんた、あたしがわかるのかい?」

「さっき別れたばかりだ。耄碌したのか、シーラ」

「いや、全然さっきまでと外見がちがってるはずなんだけどね」

「最初に会ったときから、オレにはその姿でみえていたぞ」

「あんた、魔眼持ちだったのかい?」

「まがん?」

「いや、その話はあとでいいさね。こっちだ」

 シーラは走りだした。最初は普通の速度だったが、森に入って人からみられる心配がなくなると段々加速してゆき、最後には恐ろしい速度となった。レカンは、最初は余裕でついていった。だが休憩もなく走り続けたため、疲労が蓄積して、まともに走れなくなった。昼過ぎに一度休憩を取ってくれたが、レカンの疲労は回復しない。容赦なく走るシーラに必死でくらいついた。そして体力の限界に達しようとしたころ、ようやくシーラは停止したのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 婆さん、レカンを驚かせてやろうと、わくわくしていたのでしょうか。 [気になる点] ・「いや、全然さっきまでと ・外見がちがってるはずなんだけどね」 ・「最初に会ったときから、 ・オレにはそ…
[一言] ここでレカンに自分の本当の顔が最初からバレてたって明かされた時のシーラは内心相当焦ったでしょうね この世界でシーラの魔法をかいくぐって若い方の顔を見るのは、甘く見積もってもジザレベルの魔法使…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ