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狼は眠らない  作者: 支援BIS
第26話 薬聖来訪
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 薬聖訪問団は、スカラベル導師がその師である薬師シーラに会いに来るため編成された一団で、スカラベルと、その随行、護衛、事務方、雑用係から成る。

 とりまとめ役のエレクス神殿一級神官アーマミール・タランスは、幼いころからスカラベルに師事し、調薬と施療師のわざを学んだ。〈回復〉と数種の魔法を使え、筆頭弟子格の人物である。

 アーマミールは、準備段階ではヴォーカに来たが、訪問団には別の一級神官を入れるつもりだった。ところが、ケレス神殿総神殿副神殿長マルリア・フォートスが割り込んできたため、予定を変更して自身が訪問団に入ったのである。

 マルリアはスカラベルの弟子ではない。しかし心からスカラベルを敬愛している。

 マルリアは幼いころから〈回復〉を発現し、スマーク侯爵家に生まれながら、王都ケレス神殿総神殿に入ることを選んだ。長じてスカラベルを知るのだが、弟子入りは許されなかった。

 ケレス神殿は、施療師の総本山をもって任じている。調薬についても、薬神たるライコレスの神殿をしのいでいると自負している。そのケレス神殿総神殿の神官が、市井の薬師に教えを受けるわけにはいかない。だから九大神殿のうちケレス神殿は、神殿内の者がスカラベル派の教えを受けることを、最後まで厳格に禁じていたのである。

 それはおかしい、とマルリアは言い続けた。現に素晴らしい調薬法を編み出し、見事な施療を行う薬師がいて、しかも上級の〈浄化〉を持ち、三代の王から信任されている人なのだ。その人に学ぶことこそ、ケレス神殿にふさわしい。そうマルリアは主張した。

 マルリアが実績を積み、神殿内での地位を上げるにしたがい、その主張は多くの賛同を集めるようになっていった。

 そしてついに、ケレス神殿総神殿は、所属神官がスカラベル派の教えを受けることを認めたのである。

 喜びもつかのま、マルリアの直属の上司がこの世を去り、マルリアは副神殿長に就くことになった。

「いくらなんでも、ケレス神殿総神殿の副神殿長が、神殿外の薬師から教えを受けるのはおかしい」

 その声に逆らうことはできず、泣く泣くマルリアはスカラベルの弟子となることを諦めたのだった。

 アーマミール神官は、マルリアとの付き合いは長い。マルリアが、しばしばアーマミールのもとを訪れるからだ。用件はたいてい苦情である。スカラベル導師の体調が悪かったと聞いたがどんな調子か、どんな手当をしたのか。スカラベルの業績をしらしめる働きが足りないのではないか。スカラベルの弟子たちは、本当にスカラベルの教えを理解しているのか。いろいろ文句を言い連ねたあげく、スカラベルの教えを書き留めたノート類をアーマミールから借りては熱心に読んでいるのである。

 ケレス神殿総神殿長が序列の上ではエレクス神殿三級神官と同位なのであるから、今回同行しているエレクス神殿三級神官コトジアは、序列上マルリアより上位である。本来来るはずだった一級神官は、さらに上位である。

 しかし、マルリアは、侯爵家の血を引く女性である。前々侯爵の四男の末娘ではあるが、実家との縁は深く、現侯爵もマルリアには頭が上がらないという。

 マルリアは、アーマミール以外では抑えきれない。まとわりつかれてスカラベルも往生するだろう。そんなわけで、アーマミールが訪問団に入ったのである。

 アーマミールは、スカラベル門下の筆頭弟子のような立場にいるが、それは学識や実績、神殿内の地位もさることながら、タランス伯爵家の長男だということが大きい。家督を弟にゆずって神官の道を歩まなければ、今ごろはタランス伯爵だった人物なのだ。後継に育ってほしいと思い、今回のヴォーカ訪問で箔を付けさせようと考えたが、そのもくろみはくずれたことになる。

 各神殿から派遣された九名の神官は、いずれも薬師で魔法使いだが、必ずしもスカラベルの弟子ではない。この神官たちは、〈薬聖〉スカラベル導師が恩師を訪ねるという出来事に、自派の神官が参加したという事実を残したい、神殿の政治的意図から派遣された者たちなのだ。

 王国騎士団の騎士たちは、宰相の命により騎士団長が選んだ者たちで、王命を奉じ、スカラベル導師の旅を安んじるべく全力を尽くす者たちだ。

 ただしここに副団長ネイサン・アスペルが入り込んだのは、同格の副団長であり剣の腕も拮抗しているザイファド・カッチーニが手も足も出ずに負けた冒険者がいると聞いて、そんなやつがいるなら顔をみてみたいと思ったからである。

 王国魔法士団も同じく王命を奉じる者たちだといいたいところだが、今回は指揮官がローラン・バトーである。魔法士団の地位を高めるため躍起となっているうえ、魔法の才に恵まれたため、人をみくだすくせがある。それでも、出自がいいためにたいていのことはみすごされてきた。今回も何かしでかさなければいいがと思っていたのだが、さっそくしでかしてくれたわけだ。

 こうしたことをレカンは、毎夜ネイサン副団長と話すうちに、おいおい教えられるのである。

「第26話 薬聖来訪」完/「第27話 薬神問答」

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― 新着の感想 ―
>後継に育ってほしいと思い、今回のヴォーカ訪問で箔を付けさせようと考えたが、そのもくろみはくずれたことになる。 マルリアさんさぁ…… と思いつつも、ここまで慕い続けて弟子入りしたがってきたのに諦めざ…
アーマミールは今回の来訪で色々と考えてましたが、世の中ままらないものってのを感じる話ですね 魔法士団の暴走はアーマミール含め各部署の責任者は頭を痛めてることでしょう
[良い点] マルリアとかの脇役も背景が面白くてつい覚えちゃいますね
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