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「不審者は貴殿たちだ」
魔法使いたちの後ろから声をかけた者がいる。
王国騎士団副団長ネイサン・アスペルだ。
レカンはわざわざ奥側に回り込んでから魔法使いたちに話しかけ、注意を引いたのだが、ネイサンは、足音を忍ばせて近寄り、話を聞いていたのだ。
ネイサンの声に驚いて、魔法使いたちが振り向く。五人もいて同じ方向に気を取られているのだから、やはりこの魔法使いたちは、戦いでの連携が身についていない。
しかも、足音を忍ばせていたとはいっても、物音はしていた。あれに気づかないようでは、いくら魔法使いだといっても、にぶすぎる。
つまり、この男たちは、魔力豊かで装備もよく、おそらく威力の高い魔法を使えるが、戦い慣れしていない。
となれば、どのようにでも料理できる。
といっても、せっかくネイサンが出てきてくれて、ローランをとがめてくれているのだ。
レカンは、ネイサンに処理をゆだね、何かあれば援護するつもりになった。
ただし、この場に駆けつけながら姿を現していない者がいる。その人物がどう出るか、レカンは油断なくみはるつもりだ。
「ネイサン殿。不審者とは失礼ですね」
「ローラン殿。失礼なのはそちらだ。キッシュルに何をした」
キッシュルというのは、木の根元に倒れかかっている従騎士のことだろう。
「眠ってもらっているだけですよ。用事が済んだら起こします。何の問題もありません」
「不寝番が眠らされて問題がないわけがない。どういうことなのか説明していただく」
「われわれは、ネイサン殿の指揮下にあるわけではありません。説明の義務はありませんね」
「そうか。それならこちらにも考えがある」
ネイサンが剣の柄に手をかけた。
「おやおや。五対二ですよ」
ネイサンがひと声かければ、すぐに騎士や従騎士たちが駆けつけるが、ローランには、騎士や従騎士たちが駆けつける前に勝負をつける自信があるのだろう。
とはいえ、味方であるはずの王国騎士団にけんかを売るような物言いである。
「うるさいねえ。眠ってられやしない」
その場の全員がぎょっとして声のしたほうをみた。
シーラがそこにいた。
レカンも驚いていた。またもこの希有の魔法使いは、一切の気配をレカンに感じさせることなく、突然に現れた。
普通魔法使いであっても、人が魔力を持っているかどうかはわからない。わかるには特殊な能力が必要だ。優れた魔法使いなら、ある程度は、その人が魔力を持っているかどうかを感じ取れるが、それでも魔力量の多い少ないはわからない。
わかるのは、相手が魔力を放出したり、魔法を行使したときである。
今シーラは魔力を全身にまとっている。隠そうと思えば隠せる人なので、これは一種のあいさつか、そうでなければ脅しのようなものだろう。
「やっと親しくお話ができますね、シーラ殿。それにしてもなんという膨大な魔力。あなたのような魔法使いが、まだこの大陸におられたとは。二十歩も離れた場所に〈創水〉と〈回復〉を発動した幻覚を何人もの人間にみせたというのも、これなら納得でき」
「〈交換〉」
シーラが呪文を唱えると、魔法使いローランの姿が消え、樽が現れた。
〈交換〉の魔法は、大きさと重さが近い二つの物や生き物を交換する魔法だ。シーラは、家に置いてあった樽とローランを〈交換〉したのだろう。
指揮官が突然消えてしまい、魔法使い二人と従者二人はあわてふためいた。
そこに、裏口の警護をしていた騎士がやって来た。
「副団長。どうかなさいましたか」
「王国魔法士団に不審な行動があった。この魔法士二人と従者二人を領主館に連れてゆき、監視をつけてくれ。すべての装備は没収せよ。四人をばらばらにして尋問し、今夜の行動についての調書をとれ。尋問の要点については、あとで指示する」
「はっ」
騎士は笛のような物を取りだして吹いた。
かすかな甲高い音が鳴ったが、たぶん騎士や従騎士には聞こえるような仕組みになっているのだろう。
「デルスタンとかいったかねえ、出ておいで」
木の陰から神殿騎士デルスタン・バルモアが出てきた。この男は、レカンとほぼ同時に現場に到着していたが、気配を消してようすをみまもっていたのだ。
「またもや珍しいものをみせていただきました」
「そうかい。そりゃよかったねえ。見物料をもらおうかねえ」
「見物料ですか?」
「あんたこの前、あたしの家に来たね」
「はい」
騎士や従騎士が集まってきて、指示に従って魔法士と従者を連行した。
「あの家に、今消した魔法使いの小僧が来てる」
「ああ、ローラン殿を樽と入れ替えたんですね。〈交換〉にこういう使い方があると聞いてはいたんですが、実際にみたのははじめてです」
「迎えに行ってやっておくれでないかい」
「わかりました。迎えに行かせていただきます」
「こう伝えてほしいんだけどね」
「はい」
「今後あたしに話しかけたり、あたしから十歩以内に近づいたら、ほかの大陸に飛ばすよ、ってね」
「ほかの大陸。そんなものが本当にあるんですか」
「行ってみるかい? 帰りは自力になるけどね」
「いえ。遠慮しておきます。では、行ってきます」
「お待ち」
「はい?」
「この樽を持っていっておくれ。家に持って帰れば、あとはジェリコが片付けてくれる」
「あの猿ですね。わかりました」
神殿騎士デルスタンは、樽をひょいと担いで出て行こうとした。
「お待ちいただけるだろうか」
声をかけたのは、王国騎士団副団長ネイサンだ。
「できれば、ローラン殿を連れ帰るのは、できるだけゆっくりにしていただけるとありがたいのだが」
「ははーん。調書とやらを作るのを邪魔されたくないんだね」
「ご賢察、恐れ入ります」
「デルスタン。迎えは取り消しだ。こっちからは迎えに行かなくていい。帰ってきたとき、伝言は伝えておくれ」
「それは助かります」
「では、私は失礼します」
ネイサンが立ち去った。
デルスタンは、ひょいと樽を降ろした。
「この樽、どうなりますかね」
「そのうちジェリコにでも取りにこさせるさ」
「ローラン殿は、どうなりますかね」
「さあ? 帰りたきゃ、そこらで道を訊いて帰ってくるだろうさ。帰ってこなくってもかまわないけどね」
「ジェリコが乱暴されたりしないだろうか」
「おや、レカン。ジェリコの心配かい? まあ、大丈夫さね。黙ってやられるような猿じゃないよ。うふふ。あたしの家で攻撃魔法でも撃とうとするやつがいたら、ジェリコがどうするか。ちょっと楽しみだよ」
「ほう。それは楽しみだな。ところでシーラ」
「何だい」
「さっきローランが設置しようとしていた〈ヤックルベンドの魔結界〉という魔道具を知っているか?」
「まあね」
「それの精神系というやつは、どの程度の効果があるんだ」
「使う魔石と魔法使い次第さね。でもまあ、あのローランとかいうのがさっきの〈睡眠〉を使ったとして、恩寵品で底上げして、結界に迷宮の深層で採れる魔石を使っても、あんたやエダには効かないだろうね」
「えっ」
驚きの声を上げたのはデルスタンである。
レカンは、シーラの言葉に納得できなかった。
(オレは今〈インテュアドロの首飾り〉を装着していない)
(なのに精神系魔法が効かないとシーラは言った)
(だがこの銀の指輪だけで)
(ローランの魔法が防げるか?)
「というか、あたしがいる所じゃ、あの結界は発動しないよ」
「えっ」
またしてもデルスタンが驚きの声を上げた。
「ほう。それはどうしてだ」
「ヤックルベンドのやつが、あれの作り方を相談してきたとき、ある条件のもとじゃ発動しないようなやり方を教えたからさ」
「なるほど」
「えっ」
ということは、あの魔結界とやらも、もとをたどればシーラが原因なのだ。ヤックルベンドという魔道具技師も相当に面倒な存在だが、考えてみるとシーラも人さわがせな存在ではある。
目をみひらいてシーラをみつめるデルスタンを置き去りにして、レカンは離れに帰った。
シーラの気配も消えた。




