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狼は眠らない  作者: 支援BIS
第25話 スシャーナの純情
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 毎日シーラのもとに通って〈障壁〉の練習をした。だが、発動する気配はなかった。まったく手応えがなく、先のみとおしも立たない練習は、ひどくきついものだった。

 シーラという優秀な師匠が目の前で見本をみせて指導してくれ、かつ自分が空間魔法に適性があると知っていなければ、とうに諦めていただろう。

 ある日、エダが気になる報告をした。

「タリスさんのとこのトミル君が、遊んでて転んで石壁に頭をぶつけて大怪我しちゃったんだ。で、〈回復〉で治してあげたんだけど、まずかったかなあ」

「ほう。まあ知らんふりもできなかったろう。明日ノーマに相談してみるか」

「うん」

 翌日ノーマに相談してみると、あっけない返事が返ってきた。

「ああ。いいんじゃないかな」

「いいんですか?」

「そういうことも、そのうち起こると思っていたよ。君は優秀な〈回復〉使いなんだから、使いたいときに〈回復〉を使えばいい。使うなといっても、それは無理なことだ」

「タリスに料金を請求しなくていいのか?」

「そんなことをしたら、エダは憎まれてしまうよ。お金はもらわなくていい。ただし、相手にこう言うんだ。あのことは内緒にしてくれ、ほんとはお金をもらわずに〈回復〉をかけちゃいけないことになってるんだとね」

「はい」

「金を払ってでもかけてほしいと言うやつがいたら、どうしたらいい」

「そのときは、私に申し込めと言えばいいんじゃないかな。エダは当面、わが施療所の専属回復師ということにしておこう」

「なるほど」

「今までご近所さんには、エダが〈回復〉持ちだということは知られてなかったかもしれないけれど、いずれはわかることだ。この町に住み続けるかぎり、それはさけられない。ありがたいことに、神殿のおかげで、ちゃんとした〈回復〉には高いお金が必要だと、誰でも知っている」

「えっと。あたいがノーマさんのとこで〈回復〉を使ってるのを、ご近所の人たち、だいぶ前から知ってましたよ」

「おや、そうなのか。それなのに、ちょっとした怪我や病気で、君に〈回復〉を頼む人はいなかったんだね?」

「はい」

「それはいい傾向だ。待てよ。もしかするとそのタリスさんは、息子の治療費をどうやって払うか、いくら払えばいいのか、心配しているかもしれないね」

「あ、そうですね」

「すぐに行って、あれは自分が勝手にやったことだから、料金はいらないが、人にはいわないようにしてくれ、と言ってあげたらいいね」

「わかりました。そうします」

 そういうことなら、今後、無料の〈回復〉を求めて、われもわれもとエダのもとに人が押し寄せる、という心配はしなくてよさそうだ。

 もっとも、そんなことがあれば引っ越すまでのことだが。

 怖いのは、権力や暴力でエダを閉じ込め、エダの能力を思い通りにしようとする者たちだ。幸いなことに、現状では、そういう者はいない。レカンが町を離れたとしても、いつ戻ってくるかもしれないということが、抑止力になるはずだ。

 レカンはエダに、自由と、選択の余地を与えたいと思ったのであって、レカン自身が別の形でエダの自由を奪ってしまうのは、本末転倒だ。

「エダがかけてやりたいやつには、こっそり〈回復〉をかけてやればいいんだな?」

「それでいいと思うよ。誰にかけるかという判断は、エダ自身がするしかない。ただ目安だけは言っておこうかな。エダ」

「はい」

「こちらからかけてあげるにしても、頼まれてかけてあげるにしても、知り合いではない人にはかけないほうがいいね」

「わかりました」

「あとで私にお金を払うから、とにかく急いで回復をかけてくれ、と知り合いでもない人から頼まれたときは、断ったほうがいい」

「はい。要するに、お金をもらわずに〈回復〉をかけていいのは、あたいともともと仲が良かった人だけなんですね。自分は知り合いだから特別だったんだって、向こうが思ってくれるような人ってことですね」

「そう。その通りだ。よく理解しているね」

「それと、お金をもらってかけるときは、必ずノーマさんを通すんですね」

「そう。まさにそこだよ」

「ということは、直接あたいにお金を払うっていわれても、断るんですか?」

「断ったほうがいいね。将来エダが自立して施療師となったら、そのときは直接お金をもらえばいい。ただね。お金をもらうといろんな責任が発生する。私のもとで、もう少しそういうことも学んでおいたほうがいいね」

「はい。わかりました」

「ところで、レカン。領主様が、エダの〈回復〉をご所望だ。了承しておいたが、かまわないだろうね」

「もちろん、かまわない。エダ、領主はひどく疲れているから、とっておきの〈回復〉をかけてやれ」

「それって、〈浄化〉を使えっていうこと?」

「そうだ。ただし、呪文は〈回復〉でな」

「わかった!」

「では、今日の午後に行こう。あ、そうだ。エダ」

「はい?」

「毎晩レカンに〈浄化〉をかけているね?」

「はい」

「今夜から、毎晩二度、〈浄化〉をかけるんだ。二度目は長く、たっぷりの魔力をそそいで」

「はい。わかりました。でも、どうしてなんですか?」

「君の〈浄化〉を、伸ばせるだけ伸ばしておきたい。そうすれば、やがてレカンの左目も治せるかもしれないしね」

「領主は、確かに〈回復〉も必要としているが、そのことだけのために金貨一枚は使わないだろう。たぶん、ノーマの人となりもみたいし、あらためてエダとも会いたかったんだろうと思う。離れの準備についても意見を訊かれるかもしれんな」

「私もそんなことではないかと思っていた。だから了承したんだよ」

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― 新着の感想 ―
大きな適性がある空間系でここまで手こずるとなると、レカンの心の深いところが無意識に魔法の習得を拒んでるんじゃ無いかって思えてくるな。
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