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狼は眠らない  作者: 支援BIS
第3話 弟子入り試験
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 翌日冒険者協会に行くと、何人もの冒険者たちがカウンターに並んでいたが、アイラはレカンに声をかけた。

「あ、レカンさん! ちょっと待ってくださいね。お願いがあるんです」

 アイラは並んだ冒険者たちの対応を同僚に任せ、レカンを奧の部屋に呼んだ。

「すいません。こんなところに来てもらって。実はお願いがあるんです。あ、その前に伝言です。シーラさんから、試験は合格だ、とのことです」

 この知らせには驚いた。試験というのは、もっともっと続くものだと思っていたのだ。

「そのうえでお願いしたいんです。ある依頼が昨日飛び込んできたんですが、これをレカンさんに受けていただけないかと」

 そう言ってアイラが依頼票を差し出したので、レカンは読んだ。

 件名は、〈魔獣の散歩〉となっている。

 それは調教中の長腕猿(ザンバルドゥ)に、森のなかで一日ゆっくり散歩させてほしいという依頼だった。

「依頼主のドニさんは、とても有名な調教師さんで、先祖代々この領地に住んで、人柄も誠実です。でも、こんな依頼は今まで出たことがありません。長腕猿の散歩だなんて、それこそドニさんがご自分でなさるか、お弟子さんにやらせることです。しかも報酬が大銀貨一枚。高すぎます。この依頼は変です。でも依頼を断る理由が立たないので、協会としては受けざるを得ませんでした。そこで協会長が言い出したんです。魔獣百匹をわずかのあいだに全滅させた冒険者が、今この町にいる、と」

「なるほど」

 魔獣百匹うんぬんの話は、おそらくチェイニーがレカンのことを冒険者協会長に頼み込んだとき、話したのだろう。

 レカンは考えた。

 もうシーラからは試験は合格だと言われている。

 だからこの依頼を受ける必要はない。

 一方で、この依頼を蹴ったことをシーラが知ったらどう思うだろうか。

 そしてまた、シーラに弟子入りすれば、この町に長く滞在することになる。そのあいだの収入は、この冒険者協会での依頼や、魔獣の素材売却に頼ることになるだろう。協会とは良好な関係を保つことが望ましい。

 この依頼をレカンに振ってきたのは、他の冒険者だと、長腕猿に襲われた場合怪我や死亡の心配があるからだろう。

 結論は決まっていた。

受けよう(イェール)


11


 調教師ドニの住まいは、ルモイの村にあった。ヴォーカの近隣には五つの農村があり、いずれもヴォーカ領主の統治下にある。その一つがルモイである。

 ドニは三十前後の木訥そうな男だった。

「すいません。パレードを思いきり運動させてやりたいんですが、訓練所はあまり広くないし、敵もいないし」

「パレードとは、長腕猿(ザンバルドゥ)の名前だったな」

「はい」

「依頼内容は森での散歩だったが、戦闘もさせるのか」

「ああ! すいません。書いてなかったですかね。はい。できれば戦闘もさせたいんですが、無理でしょうか」

「いや。だが、戦闘のとき、オレは何をすればいい? 手助けか。指示か」

「いえ。黙ってみてていただければ」

「ふむ。何回ぐらい戦わせればいい?」

「何回といっても……。出会う相手の数次第ですかね」

「どの程度の強さの相手と戦わせればいい? そのパレードとかいう長腕猿と同じ程度の強さの敵か。それとも少し弱い程度の敵か」

「ええっ? そ、そんなこと、選べないでしょ?」

「いや。ある程度は選べるし、実力以上の敵と出会ったら、オレが倒すという方法もある」

「た、倒す? パレードより強い敵を倒せるんですか? い、いや。そのへんはお任せします。とにかく、パレードに思いっきり自由に遊ばせ、戦わせてやってほしいんです」

「わかった。そのようにしよう」

 何をすればよいのかは、たぶんおのずと明らかになるはずだ。


12


 パレードというのは、並外れて大型の長腕猿だった。身長はレカンより少し低いだけだ。体重はレカンの倍近くあるだろう。普通の長腕猿四頭分だ。

 ドニはパレードと抱き合ったり、果物を食べさせたり、ひどく親しげにというか、名残惜しそうにしていた。

「あ、レカンさん。これがパレードの食事とおやつです」

「こんな量の荷物袋を持っていけというのか」

「はい。パレードは大食らいですので、これくらいはいるんです」

「わかった」

 レカンは荷物袋を持った。こんなものを持って森のなかを走れというのは、なかなか厳しい要求だと思った。

 ドニがパレードの耳に何事かささやきかけている。魔力を出しているので、たぶん命令だ。

 そしてドニは森を差して大声で命令した。

 パレードが駆け出してゆく。素晴らしい速度だ。

 レカンはのんびりとついていった。


13


「どうして……どうして帰ってこれたんですか?」

「どうしてといわれても、そういう依頼だったからだ」

「どうしてパレードも帰ってきたんですか?」

「パレードは森の奧に進もうとしたが、帰るよう命じた」

「命じたといっても、魔力鞭もないのに」

「威圧してどちらの力が上か思い知らせたら、服従の姿勢をみせた。それでここに帰るよう命じた」

「い、威圧? パレードを威圧できたんですか? そんなばかな」

「これで依頼は達成できたな。コインをもらおう」

「はい……いえ! や、やっぱりだめです。明日もやってもらいます」

「では、何がだめだったのかを教えてもらいたい。依頼条件のうち、何が達成できなかったんだ?」

「そ、それは……」

「パレードを森の奧に逃がせなかったことか?」

「えっ? いや、それは」

「本当のことを言え。どうしてパレードを逃がそうとしたんだ」

 調教師ドニは、押しに弱い人物だった。

 すぐに真相を白状した。


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― 新着の感想 ―
[良い点] ・「威圧してどちらの力が上か思い知らせたら、 ・服従の姿勢をみせた。 ・それでここに帰るよう命じた」 〈調教〉や〈支配〉が使えない人でも、威圧が出来るなら、魔獣の馴致・使役が叶うのでしょう…
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