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狼は眠らない  作者: 支援BIS
第23話 王都よりの使者
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 倒れたザイファドに、レカンは歩み寄った。

「ザイファド。オレの勝ちだ」

 ザイファドは目を動かしてレカンをみた。

 顔は血まみれで、鼻血がとくとくとあふれている。

 おそらく鎧の下の全身はひどい打撲のはずだ。軽くないやけどもしているにちがいない。

 腕も足もだらりとして動かない。

「約束を守れ。スカラベルの旅行はなしだ」

「殺せ」

「お前を殺してオレに何の得があるんだ。約束を守れ。お前、騎士だろう」

「殺せ」

「おいおい。お互い条件をつけての恨みっこのない決闘だったろう」

「レカン殿」

 話しかけてきたのは神殿騎士デルスタンだ。

「うん?」

「スカラベル導師の旅は、王がお認めになったものなのです。勅命に従って宰相閣下は今回の準備をお命じになりました。ここへの道中、おもだった町には事務官を残してきています。もう王都付近の町では、街道の整備や宿泊所の改装が始まっているでしょう。この計画は中止できないのです」

 レカンは、その言葉の意味をかみしめた。

「ということは、こいつ騎士のくせに、できもしない約束をしたのか?」

「そういうことになります。負けるとは思っていなかったのでしょう」

 レカンはデルスタンをにらみ、それから離れた場所に立っている書記次官をにらみつけた。それを知っていながら言わず、決闘をやめさせなかったこの二人も同罪である。

「殺せ」

 ザイファドの声は、まるで哀願するような声だ。

 騎士は決闘に名誉をかける。名誉にかけて約束したことが守れないとなれば、死ぬしかない。レカンは、ザイファドを殺すことで、三人の罪を帳消しにすることにした。

 ザイファドの無防備な頭の上に、レカンは右腕だけで〈アゴストの剣〉を振り上げた。

「ザイファド様!」

「ザイファド様!」

 二人の従騎士が駆け寄ろうとした。

「〈雷撃(グィンバル)〉!」

 左手を従騎士たちのほうに突き出して、レカンは魔法を放った。

 二人の体を取り巻いてばちばちと雷電が生じ、二人はばたりと倒れた。

 そしてそのまま動けずに、ひくひくとけいれんしている。

 呼吸を調え直したレカンが、ザイファドの命を絶つため剣を振りおろそうとしたそのときである。

「レカン。そこまでにしときな」

 レカンは剣を止めて振り返った。

 そこにはシーラがいた。


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「〈創水〉〈回復〉」

 二十歩近く離れた場所でシーラが右手をかざして呪文を唱えると、ザイファドの顔の上に魔法純水が生成され、そこに〈回復〉が込められて、ゆっくりと顔をひたしていった。

 レカンは、心のなかで、あっ、と驚いた。

 魔法純水に〈回復〉を込めると、〈回復〉の効果を持つ魔法水となる。しかしちゃんと効果を保つのは一日ほどで、三日もすればほとんど効果はなくなる、と教わった。

 〈回復〉を使えるレカンにとって、この技術はあまり意味がないと、今まで思っていた。

 ところが今シーラがやってみせたような方法をとれば、ザイファドの頭部にずっと〈回復〉をかけ続けているようなものである。魔法水は頭から入り体にもしみこんで、細部までも治癒してゆくだろう。魔法水はポーションのように体にしみ込む性質があるのだ。

「〈回復〉」

 次にシーラは、ザイファドの全身に〈回復〉をかけた。打ち身とやけどをほぼ癒しておいて、あとは魔法水の働きが体全体をうるおしてゆく。

 〈回復〉にはこんな使い方もあるのだ。工夫というものはつくづく大事だと、レカンは思った。

 シーラの横では、一級神官と三級神官たちが膝を突いている。

 施療の術に長じた彼らには、今シーラがやってみせたことが、どれほどけた外れの技術であるかわかるのだ。

 二十歩も離れた場所から、杖もなく、準備詠唱もなく、〈創水〉と〈回復〉を連続発動して混ぜ合わせてゆっくりと患者の患部をひたしたこと。

 やはり二十歩離れたままで、こんな大きな患者の全身に一気に〈回復〉をかけたこと。

 レカンは王都の施療師たちの技術水準は知らないが、あのノーマでさえ、離れた場所から〈回復〉を使えるという話を、最初は信じなかった。

 たぶん今一級神官たちは、伝説の魔法使いに出会ったような感動を覚えているはずだ。

「アーマミール殿といったかねえ。スカラベルのやつの弟子なんだね」

「はい。お会いできて光栄に存じます、シーラ様」

「立ちな。そんな格好じゃ話せない。そっちの書記次官さんは、イェテリア殿といったかね」

「お初にお目にかかる。ザカ王国宰相府内務書記次官イェテリア・ワーズボーンである。貴殿が薬師シーラ殿であるか」

「今はそんな名前だったねえ。あんたもおいでな。応接室で話そうじゃないか」

 レカンも応接室に向かおうとした。

「レカン。そっちはあんたの受け持ちだよ」

 シーラの視線の先をみると、従騎士二人がひくひくとけいれんしている。

 レカンはその二人に〈回復〉をかけた。

 残り少ない黄色ポーションを使うのはいやだったので、そのまま〈回復〉をかけ続けた。

 やけどや引きつりはすぐに治ったが、麻痺状態がなかなか解けない。

 しばらく〈回復〉をかけると、どうにか動ける状態になったので、あとは放っておいた。

 ザイファドが起き上がって、不思議なものをみる目でレカンをみていた。

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― 新着の感想 ―
シーラもこうなる事を半ば薄々想像しつつも、なんとか収まらないかと賭けてみたんでしょうかね? ザイファドと決闘することになった時点で「あちゃー」となってた気がします。 剣はどこに出しても剣だといったのは…
[一言] 決闘やる前に書記次官あたりが既に中止にできない段階にあると一言いうべきではありましたね しかし副団長が義憤で引く気がなく言ったとこで決闘をやめることはないから、それを言っても無駄と判断してこ…
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