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使者一行は、昼食時間をかなり過ぎてから到着した。
ということは、道中で昼食をとったのだろう。
レカンは、領主に乞われ、玄関で使者一行を出迎えた。
〈貴王熊〉の外套を身にまとったままで立っていたら、領主が脱ぐようにと迫ったので、〈収納〉にしまった。もちろん、武器の類も全部しまってある。
領主側は、これでもかと出迎えの人数を繰り出して、玄関周りを埋め尽くした。
テスラ隊長が町の門外で一行を出迎え、領主館まで案内してくる。
玄関前で、書記次官と領主は簡単なあいさつをかわして、打ち合わせに参加する者は応接室に移動した。
領主側は五人である。
領主クリムス・ウルバン。
守護隊隊長テスラ。
文官が二人。
そしてレカン。
「こちらは薬師シーラ代理、薬師レカン。ヴォーカの町の金級冒険者でもあります」
という紹介がなされたとき、静謐を保っていた使者一行に、わずかなざわめきが生じた。
使者側は十二名だ。
宰相府内務書記次官イェテリア・ワーズボーン。
事務官二名。
その護衛である王国騎士団副団長ザイファド・カッチーニ。
従騎士二名。
王都エレクス神殿一級神官アーマミール・タランス。
その護衛である王都エレクス神殿の神殿騎士デルスタン・バルモア。
従騎士二名。
三級神官二名。
紹介が終わったあとソファに座ったのは、領主側では領主とレカンの二人であり、使者側では書記次官と一級神官と事務官二名の四人だった。人数分のソファしか用意されていなかったので、誰が座るかについて、あらかじめ打ち合わせがあったのだろう。
使者側で座らない者たちは、ぐるりと周りを取り囲むように立ち、領主側で起立したままの三名は、領主とレカンの後ろに立った。さほど広い部屋でもないので、領主の受ける威圧感はかなりのものだと思われる。
会談の口火を切ったのは書記次官だ。
「お忙しいところ、ご造作をおかけする。まず、宰相殿よりの口上を申し伝える。〈こたび薬師スカラベル導師の願いを受け、王陛下におかれては、スカラベル導師がヴォーカにおもむき薬師シーラと会談するため必要な準備を進めるよう、勅命を発せられた。ヴォーカ領主クリムス・ウルバンは、わが使者と協議のうえ諸般のことを取り進めよ〉。以上である」
「ち、勅命」
領主が目をみひらいて硬直している。勅命というのは、そんなに珍しいものなのだろうか、とレカンは思った。
「さて、事務上の取り運びについては、領主殿とのちほど協議することとして、まずは薬師シーラ殿のお目にかけねばならぬものがあるのだが、ご代理をよこされるということは、薬師シーラ殿はご病臥であられたか? お見舞い申し上げることはかなうであろうか」
「遠路はるばる宰相ご使者様ならびにアーマミール一級神官様のご来駕を得、まことに畏れ多く、また光栄に存じております。ヴォーカ領主といたしまして、陛下のご勅命の趣旨に沿って宰相様のご下問に応うべく、全力を尽くす所存でございます。薬師シーラの現状につきましては、薬師シーラの弟子であり、薬師シーラが代理人に指名したレカンよりご説明申し上げます」
頭を下げたまま領主は横をみて、レカンをぎろりとにらんだ。お前が説明しろ、と要求しているのだ。
レカンはソファにふんぞり返ったまま、言葉を発した。
「使者殿からの来信を受け、領主はその趣旨をシーラに伝えた。その翌日、すなわち一昨日、シーラはオレと領主に手紙を残して姿を消した」
「レカン! 言葉遣いを改めよ。ご使者様に非礼である」
領主の言葉を、書記次官は手を上げて制した。
「領主殿。レカン殿は冒険者であろう?」
「は、はい」
「冒険者には冒険者の流儀がある。言葉尻をとらえて非礼とは申さぬ。レカン殿。続けよ」
「二つの手紙に書いてあったことをまとめれば、こうなる。自分は旅に出る。王都からの使者については、オレを代理人に任ずるので対応せよ」
レカンはここで言葉を切って、相手の反応をみた。
さすがに書記次官も、硬い表情をしている。
「シーラは、あんたたちが来ると知って姿を消した。つまり、あんたたちに会いたくないということだろうな」
王国騎士団副団長のザイファドが、すさまじい怒気を放った。その後ろの従騎士たちも同様である。
「シーラ殿は、お付きの人たちとご一緒であろうか?」
「いや。一人だと思う」
「一人で旅に出られるほど、ご壮健か?」
「元気いっぱいのばあさんだ」
「それは重畳。スカラベル導師は、シーラ殿のご健康をひどく案じておられた。しかし、これは困った。どうしてもシーラ殿に直接お会いせねばならんのであるが」
ここで書記次官は、アーマミール一級神官のほうをみた。
先ほどからこの一行をみていると、宰相の正式の使者は書記次官イェテリアにちがいないが、一行で一番尊ばれているのはアーマミール一級神官のほうである。立場上は随行者にすぎないアーマミール一級神官が、実はこの一行で最重要の位置にある。
アーマミール一級神官は、老いてしわだらけの顔をした小さな男だが、その目に宿る叡智の光は、みる人をして畏敬の念を抱かせずにはおかない、そんな人物である。




