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狼は眠らない  作者: 支援BIS
第22話 魔法指導員ドロース
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 家に帰ると先にエダが帰っていて、夕食ができていた。

「今日、六か所に往診したんだ」

「そうか」

「一か所で、〈浄化〉が発動しちゃった」

「ふむ」

「あとでノーマさんに怒られた。意識を集中して、〈浄化〉を発動しないようにしなさいって」

「そうだな」

「それから、もう一つ言われた」

「何をだ」

「今日から毎日一回、夜寝る前か朝起きたときに、レカンに〈浄化〉をかけなさいって」

「ほう?」

「誰かにかけたほうが上達するんだって。それと、目標があったほうが、上達するんだって。で、レカンの左目を治すつもりで毎日〈浄化〉をかけなさいって」

「そうか。すまんな」

 そのあと、レカンはエダの〈浄化〉を受けた。

 体がとろけてしまうかと思うほど気持ちがよかった。

 翌朝目覚めたときの爽快感と体調のよさは、ただごとではなかった。

 ただし左目は治らなかった。

(待てよ。迷宮で生命力が上がったが)

(もしかしたら固定化も進んでいるのではないか)

 そうだとすると、迷宮に潜れば潜るほど、左目は治りにくくなる。

 しかし、そんなことは迷宮で得られるものに比べればわずかなことだ。

 レカンは、これからますます迷宮探索に励むつもりだった。


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 翌朝シーラの家に行くと、午後には薬屋に薬を持っていくように言われた。

「午後には冒険者協会で〈氷弾〉の講座を受ける約束なんだ」

「午前中には何をするんだい?」

「体力回復薬の残りを作る」

「それは作らずに、材料を〈収納〉にしまっときな。あとで特別製の体力回復薬の作り方を教えてあげるから」

「ほう? わかった」

「それと、ほかの薬はいつ作るんだい?」

 ほかの薬とは、レカンが自分用に作る予定の万能薬、風邪薬である。ポプリはもう仕上がっている。

「いつということもないが、落ち着いたらやる」

「よし。そいつは後回しだ。まずこの薬を配達しちまいな」

 シーラの命を受け、レカンはジェリコと薬の入った樽を配達してまわった。

 配達が終わったときは、昼にはまだ早い時間だった。

「よし。〈創水〉を教えるよ」

「え?」

 それから〈創水〉の指導が始まったが、実は薬を作るときに使っていた呪文が〈創水〉の練習になっていたということで、すぐにこつをつかむことができた。

「できたね。それじゃあ行っといで。冒険者協会の講座が終わったら、またここに来るんだよ、いいね」

「なに? わかった」

 なぜもう一度シーラの家に来なければならないか、そのわけはわからなかったが、師匠からのはっきりした指示である。レカンは了承の返事をして出かけた。

 冒険者協会の横の食堂で遅めの昼食を食べ終わったころ、お呼びがかかった。

 練習室で、〈氷弾〉の指導を受けた。

 これは、〈水刃〉と同じように水を準備しておいて、その水を槍の形に整形して凍らせ、魔力で撃ち出すという技術だった。

 やってみてわかったが、凍らせる技術は、発火の魔法と系統が同じで、ただ効果を裏返すような手順を踏むのだった。

 この魔法で一番大事なのは、水を凍らせるときの魔力の使い方で、それ次第で鋼鉄をも貫く魔法になるのだという。

 標的は、木の杭に鉄の板をくくりつけたものだ。

 しばらく指導を受け、魔法そのものは簡単に発動できたが、肝心の槍の強度がうまく調整できない。

 ドロースに頼んで料金を払って見本をみせてもらった。銀貨三枚をとられたが、それだけの価値はあった。ドロースの魔力制御は緻密で正確だ。

 見本をみたあとは、文句なく強力な〈氷弾〉を撃つことができた。あとで準備詠唱を省くやりかたを工夫しなければならないが、とりあえずは満足すべきだろう。

「レカンさん。王都魔法協会に入会しませんか」

「それは断る」

「そうですか。しかし、あなたは、今のところたった二回の講座しかしていませんが、わたくしが今まで教えたうちで、一番優秀な生徒でした。これをあげましょう」

 ドロースから中魔石を渡された。

 そのなかに込められているのは、普通の魔力ではない。複雑な模様をみせながら、舞い踊るようにゆれている。

「この魔力文様は、みる者がみれば、わたくしのものだとわかります。この文様は一人一人ちがっていて、決して人と同じにはならないのです。王都に来て、魔法協会の助けが必要になれば、この魔石を持って協会を訪ねなさい。わたくしはいつでもあなたの味方です」

「そうか。感謝する」

 王都などに行く気はないし、この魔石は二度と〈収納〉から取り出すことはないだろう。だが、ドロースの気持ちはうれしかった。

「次の講座の予約を入れますか?」

「いや。ちょっと用事ができて、これから行かなくてはならん所がある。またあらためて顔を出そう」

「そうですか。新しい受講者もいないし、現在残っている受講者も次々に脱落しているので、この町での滞在は短くなりそうです。早めに顔を出しなさい」

「わかった」

 だが、このあと、ドロースが滞在中にレカンが冒険者協会を訪れることはなかった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] この手の人物がかませみたいにならず有能なのはいいですね 主人公のいないところでもちゃんと世界が回ってるんだなと感じます
[一言] 胃袋は陥落目前 続けて毎晩の浄化攻撃まで こりゃエダに絡め取られるのも時間の問題ですわ 策士は誰だ?
[一言] 実はドロースがヤックルベンドの魔の手から救ってくれるという伏線だったりして。
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