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狼は眠らない  作者: 支援BIS
第22話 魔法指導員ドロース
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「以上で魔法基礎講座を終えます。このあと、実際の魔法を指導してもらいたい人は、職員のほうに申し出てください。人数をみながら魔法ごとに実施日を決めます」

 長い講義に少しばかり集中を切らせていた冒険者たちが、目を光らせた。もちろんここにいる者たちは、魔法を使えるようになりたい者たちなのだ。なかにはすでにいくつかの魔法が使える者もいるかもしれないが、大半は魔法そのものを使えないのではないかと思う。実技指導こそ、彼らが欲しているものなのだ。

「まず、〈灯光〉と〈着火〉については、一回の受講料を銀貨一枚とします。この二つの魔法は、魔力のある人ならば、ほぼ必ず覚えられる魔法です。これが覚えられないほど魔力の低い人は、そもそもこの部屋にいません」

 おおっ、という押し殺した歓声が上がった。

「一回の受講では覚えられないかもしれませんが、何回か受講するうちには必ず覚えられるでしょう。覚えられたときには、受講料のほかに大銀貨一枚を頂きます」

 ええっという小さな声があがった。駆け出しの冒険者にはきつい料金だろう。

「そのほかの魔法については、一回の受講料を大銅貨五枚とします。ここにいる人たちは魔力を神から授かった人であり、必ず何かの魔法が覚えられます。一つではなく二つ、二つではなく三つの魔法が覚えられる人もいるでしょう」

 皆の顔つきが期待にあふれている。

「けれど一人一人の人が、いったい何の魔法に適性があるのか、わたくしにはわかりません。選んだ魔法の指導を何回も受けても、結局発動できないということが起きるでしょう。適性がないとわかった人にはそう申しますが、一度の受講ぐらいでははっきりしない場合が多いと思います。だから受講料が安いのです」

 ざわめいている。それはそうだろう。魔法の数はあまりに多い。習っても習得できない可能性のほうが高いのだ。

「習得に成功した場合は、大銀貨五枚をいただきます」

「ええっ?」

「高え、そりゃ高えよ!」

 怒りの声やとまどいの声があがる。だがレカンは、新しい魔法が覚えられるなら、大銀貨五枚は安い、と思った。

「一度に受講できる魔法は一つだけです。その魔法を完全に習得するか、適性がないと判断されなければ、次の魔法実技を受講することはできません。慎重に一つの魔法を選んで、職員に申し出てください。全員の申し込みが済んだら、その申し込み状況をみて、実技講座の開講日を決めます」

 一度に一つの魔法しか学べないと知って、ざわめきが大きくなった。だが、魔力量というものには誰でも限りがあるのだから、一つの魔法に集中して学習したほうがよいのは明らかだ。

「では、木板に、受講を受け付ける魔法を書き出してゆきます。先ほど説明したように、魔法の習得には段階を踏まねばならないものがあり、たとえば〈火矢〉を使えない人がいきなり〈炎槍〉を習得はできないからです。また、一般に適性を持った人が少ない魔法も受講を受け付けません」

 ドロースは、かりこりと音を立てながら、木板に魔法名を書き出していった。驚いたことに、〈回復〉も含まれている。

「質問は?」

 レカンは手を上げた。

「そこの人、どうぞ」

「そこに書かれた魔法のすべてを、あんたが一人で教えるのか?」

「はい。わたくしは、今日説明したすべての魔法を教えることができます」

「ではあんたは、〈回復〉も使えるのか?」

「いいえ。教えられることと使えることは同じではないのです。わが協会の指導員は、自分が使えない魔法であっても教えることができるよう、訓練を受けています。また、そのための魔道具も持参しています」

「了解した」

 これには感心させられた。

 自分で使えない魔法を人に教えられるわけがない。レカンはそう思っていた。

 教えられるとしたら、よほど特殊で専門的な技術があるのだ。

 なるほど。王都何とか協会というのは、無能な組織ではないようだ。

「ほかに質問は。ないようですね。なおわたくしは、一か月程度この町に滞在する予定です。講座はほぼ毎日行います。では希望を聞きます」

 アイラが記録用の板を持って前に立ち、一人一人に、何の魔法を習いたいか訊いていった。思案中の者は後回しにした。レカンは順番が回ってきたとき、〈水刃〉と答えた。ドロースが、ちょっと意外そうな顔をした。

 〈灯光〉や〈着火〉を選んだ受講者は少なかった。魔法が使えなくてもたき火はできる。せっかく高い金を出すのだし、またとない機会なのだ。より貴重な魔法を習いたいと考えても不思議はない。たぶんそうなるだろうとレカンも思っていた。

 意外なのは、〈火矢〉の受講者も少なかったことだ。これは光熱系攻撃魔法の基礎になる魔法であり、これを習得すれば、その先に強力な魔法を習得する道が開ける。

 だが、考えてみたら、今日の講座では、それはよくわからない。単体の魔法としてみたら、〈火矢〉はそこまで強力ではないし、普通はそうそう連発もできない。となると、弓矢を使ったほうがまし、というふうに考えてしまうのかもしれない。

 何の受講希望が多かったかといえば、〈回復〉だ。

 考えてみれば当然だった。冒険者が何を恐れるかといえば、やはり怪我だ。怪我をすれば休まねばならず、そのあいだ稼げない。戦闘中に怪我を負えば命にもかかわる。かといって、赤ポーションは高い。〈回復〉を切実に必要とするのは当然のことだった。

 〈水刃〉を選択したのはレカン一人だった。これは講座が後回しになるなと思ったら、逆だった。

「〈水刃〉は、受講希望が一人だけですね。では、今日の午後やりましょう。希望者は日程上問題ありませんか?」

「ない」

「結構です。そのほかの講座は、多い順に明日から、午前、午後に開講いたしましょう。二回目以降の日程は協会の壁に張り出しますので、開講日に支障がある人は、二回目から受講してください。最後に、皆さん。あなたがたの学習が実り多いことを祈ります」

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― 新着の感想 ―
[一言] 精神系魔法を軽んじてたり光系が至上という一部魔法に対して偏った考えもありますが 教育方針とか教育方法などのカリキュラムはちゃんと確立されてて、教育機関としてはいい方ですよね王都魔法協会
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