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家に帰るとエダはまだ帰っていなかった。
レカンは広場に行って、串焼きを買い、ベンチに腰を下ろして食べた。
食べ終わると、行き交う人たちをひそかに〈鑑定〉していった。
〈鑑定〉というのは、特定の物品に対して行使する魔法であり、複数の不特定の物品を対象とすることはできない。
つまり、〈この相手がどんな装備を持っているか知りたい〉という疑問に答えてくれる魔法ではない。何を持っているかを調べる魔法ではなく、持っているのが何かを調べる魔法なのだ。
もっとも、肉眼で相手をみれば、鎧を着けているとか、剣を持っているとか、マントを羽織っているとか、基本的な情報はわかる。
目にみえない装備も、〈立体知覚〉で把握できる。これは、そこに物理的に存在する物を感知する能力であり、死角はない。ドアの向こう側や箱の中身もわかる。探知可能範囲は自身を起点に半径五十歩ほどだったが、最近は半径百歩ほどに伸びている。
〈立体知覚〉を用いれば、腰のホルダーに短剣を入れてあるとか、鎧の下に網鎧を着けているとか、ポケットに宝玉を忍ばせているとかいう、肉眼でわからない情報が得られる。
そうしたなかで、これはと思った物品を〈鑑定〉することはできる。
今レカンは、できるだけ口を動かさず、小さな声で、しかしはっきりと〈鑑定〉の呪文を唱える練習をしている。
と同時に、歩いたり動いたりしている人間の持ち物を〈鑑定〉する練習をしている。
これは対人戦のためだ。
さすがに戦闘に入ってしまってからは、相手の装備を〈鑑定〉するようなひまはないだろうが、戦闘になりそうな相手の装備の機能がわかれば、予測不能な攻撃を受ける危険が減る。この世界には、恩寵品というものがある。レカンが想像もしないような機能を持った品々があふれているのである。用心に越したことはない。
やはり歩いている人間が身に着けている物を〈鑑定〉するのは、なかなかむずかしい。だが、やってできないことではない。幸い魔力量は豊富なのだ。何度でも繰り返し練習すればよい。
面と向かって相手やその装備をにらみつけたほうが〈鑑定〉はしやすいのだが、直視しないで〈鑑定〉の練習をしている。これがまたむずかしい。
しばらく〈鑑定〉の練習をして時間をつぶしてから帰宅すると、エダが帰っていた。
ノーマから告げられた話をすると、ゴンクール家に行って〈回復〉をかけるのはかまわないと答えたので、その足でノーマの施療所に行き、了承を伝えた。
夕食のとき、エダが興味深い話を聞かせてくれた。
「今、冒険者協会にね、魔法指導員て人が来てるんだ。王都から各地の冒険者協会に派遣されて、魔法の指導をしてるんだって」
「ほう」
「まず、大銅貨一枚を払うと、魔力判定をしてくれる。魔力があるかないかを判定してくれるんだ」
「なるほど」
魔力持ちだから人に魔力があるかどうかがわかるというわけではない。もちろん、魔法を使える者は、誰かが目の前で魔力を使えば、そうとわかる。だが、魔力を持っていても、本人がそのことを知らず、魔法を使う訓練もしていないとすれば、魔力を使うことはできない。そうなると、目の前に魔力持ちがいるのに、魔法を使える者がそれをみぬけないということになる。人に魔力があるかどうかがわかるには、特別の才能が必要なようだ。
「それで魔力持ちとわかったら、座学や技術指導が受けられる。座学は基礎講座で銀貨一枚」
「基礎講座というのは何だ?」
「うーん。魔法の種類はどういうのがあって、具体的にはどういう魔法があるか、っていうようなことらしいよ」
「なるほど」
「基礎講座を受けた人は、特定の魔法について、技術指導を受けることができる。これは一つの魔法について大銀貨一枚。ただ、その魔法に適性があるかどうかは、習ってみないとわからない。適性がなくても大銀貨一枚は払わなくちゃならない」
「当然だろうな」
「魔法の発動に成功した人は、さらに料金を払って、講座や技術指導を受けられるらしいよ」
「おもしろそうだ。その魔法指導員というのは、明日もいるのか」
「しばらくこの町に滞在するっていってた」
「よし。オレは明日冒険者協会に行ってみる」
「あたいは、ミリルさんに料理を習うね」
「ミリルとは誰だ」
「隣に住んでる人の名前ぐらい覚えようね」
レカンは、しばらくは戦闘を休みたかった。
ニーナエ迷宮でたっぷり戦ったし、ゴルブルでは決闘をした。
少しのんびりと過ごしたかったのだ。
新しい魔法を覚えたいとは思っているが、二十六日まではシーラを訪ねるわけにもいかない。
だから、冒険者協会にやって来たという、この魔法指導員なる人物に魔法を教わるのは、いい時間つぶしになるだろうと思ったのである。
こうしてレカンは、翌日、冒険者協会に足を運んだ。
そこで、王都魔法協会の技術指導員である、ドロース・シェプターに出会うことになる。




