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狼は眠らない  作者: 支援BIS
第22話 魔法指導員ドロース
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「やあ、レカン。よく来てくれた。今日は一人なのかい?」

「エダはいろいろ用事があるようでな。隣の奥さんと、菓子作りの約束もしていたみたいだ」

「そうか。何にしても君に会えてうれしいよ。君の顔をみると、心が元気になるんだ」

「それは変わっているな」

「私もそう思う」

 ノーマは声をあげて笑った。陰湿さのない、よい笑い声だ。レカンも口の端でにやりと笑った。

 やはり、この施療所は心地よい。ノーマのそばで過ごす時間は気持ちいい。

「ちょうど君と相談したいことがあったんだ」

「ほう。何だ」

「ゴンクール家から、エダの〈回復〉を受けさせてもらえないか、と打診があった」

 レカンは渋い顔をした。そんなレカンの顔をのぞき込んで、ノーマはおもしろがるような表情をして、こどものように目をくりくりとさせた。

「たちまち不機嫌な顔になったね。君はエダのことが心配でたまらないんだね。ありがとう」

 最後の言葉は、茶を持ってきてくれたジンガーへの礼だ。

「あんたは、どうしたらいいと思うんだ」

「受けたらどうか、と思っている」

「なに?」

「もちろん、君やエダがいやなら話は別だ。だがそうでないなら受けたほうがいいと思う」

「それはなぜだ」

「君は来年からエダと離れてしまうかもしれない。エダはこの町に居続けるかもしれないし、どこかに行くかもしれない。どこかに行くとしても、この町に戻ってくることもあるかもしれない。いずれにしても、この町がエダにとって安全な避難所になるのは望ましいことだ。ここまではいいかな」

「ああ」

「結構。そうだとして、この町でのエダの安全を、どう確保するかだ。エダは金級冒険者となった。君は領主様にエダの真実を告げ、エダの安全を守ることに協力するという約束を取りつけた」

「ああ」

「そして、ゴンクール家がエダの〈回復〉目当てにエダをさらって、君にひどい目に遭わされたという噂、領主家が、有力者や金持ちに広めつつある」

「ほう。そうか」

「そこからどうするかだ。実は、ゴンクール家と君たちが対立しているという状況は、他の貴族家からすれば、エダの庇護を申し出やすい状況なんだ」

「なに? ふむ。なるほど」

「領主家をどこまで信用できるかという問題もある。安全を守るためといいながら、徐々にエダを縛りつけていくかもしれない」

「そういえばそうだな」

「だから、領主家に頼るだけではなく、有力家の庇護も受けておいたほうが安全だ」

「有力な家はいくつかあるのだろう。なぜゴンクール家を選ぶんだ?」

「君の恐ろしさを骨の髄まで知っているからさ。〈黒衣の魔王〉殿」

 レカンはぶすっとした。

 ノーマは笑みを浮かべた。

「それに、今の段階では、庇護を求めるというような大げさなことではないよ。こちらからも少しばかり歩み寄るというだけのことだ」

「こちらからも?」

「そうだよ。どうして今ゴンクール家が君たちを呼ぶと思う。私は診察に行ったばかりだが、プラドさんの健康状態は、きわめて良好だ。以前からはまったく考えられないほどにね。今すぐにエダの〈回復〉が必要な状態ではないんだ」

「では、なぜ呼ぶ」

「和解をしたいんだと思うよ。君たちを招き、〈回復〉を受け、たぶんちょっと多めの謝礼を払う。儀式のようなものさ」

「なるほど。わかった。エダがいいと言えば、ゴンクール家に行かせよう」

「君も来るんだよ、レカン」

「オレが一緒に行く必要があるのか?」

「ある。周りがみている」

「周り?」

「ああいう貴族家のことはね、自然と外に漏れるものなんだよ。使用人も多いし出入りの者も多い。誰が来た、何があったというようなことは、おのずと周りに知られていく。君たち二人が行くことで、周りはゴンクール家とこの町の金級冒険者たちが和解したことを知るのさ」

「なるほど。あんたが正しいようだ」

「今回招きに応じれば、今後は時々呼ばれるようになるだろう。まあ、それを受けるかどうかは、そのとき次第だ。とにかく、最初の一回だけは、君が同行すべきだ」

「了解した。行くとすれば、いつだ?」

「明後日でどうかな」

「わかった。エダの都合を訊いて、すぐに返事をする」

「これは領主様にも歓迎されると思うよ」

「なぜだ?」

「考えてもごらん、レカン。金級冒険者で危険のかたまりのような男が、町の貴族家と対立関係にあるなんて、君が統治者だったら、歓迎できるかい?」

 レカンがいやそうな顔をした。

 ノーマは声を立てて笑った。

 レカンは、ふと思いついたことを訊いた。

「ゴンクール家以外の貴族家から呼ばれたら、どうする?」

「現時点では、領主家はともかく、他の三家は呼ばないと思う。そういうことがあるとすれば、プラドさんの体調のよさが普通の〈回復〉によるものではないと、はっきり気づかれたときだ」

「それは、いつごろになる」

「そんなことはわからないよ。そんな日は来ないかもしれない。そこまで今から心配するのは、傷を負ってもいないのに怪我を心配して、前もって傷薬を塗るようなものだ」

「うん?」

「あまり意味がない」

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― 新着の感想 ―
[一言] 予め赤ポーションをのんで闘いに臨んだジンガーの事を思い出すと、ちょっと複雑な意味合いになりそう >前もって傷薬を塗る
[良い点] 今更ながらノーマのように理路をしっかり説明されれば、レカンは理解できるだけの地頭があることに驚きですね。 他の冒険者の方が柵とかもあるから案外分かるのかもしれないけど、レカンならではの視点…
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