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狼は眠らない  作者: 支援BIS
第21話 領主館の決闘
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 レカン、立ってくれ、とダグ隊長にすがるような目で頼まれ、レカンは立ち上がってゴルブル伯爵ガイオニス・ドーガの入室を迎えた。

 よく痩せて、ぴんと端がつり上がった、気取った口髭を生やしている。

 二人の騎士を伴って入室したゴルブル伯爵は、すぐには座らず、レカンにあいさつした。

「ゴルブル伯爵ガイオニス・ドーガである。そちが冒険者レカンか」

 長男のトマジは、落ち着いた低い声の持ち主だが、父親の伯爵は、妙に甲高い声をしている。

「そうだ」

 ゴルブル伯爵の後ろに立つ二人の騎士が、殺気を放った。

「ふむ。飾らぬ物言いよな。それが冒険者というものであろう。このたびは、よくぞ足を運んでくれた。座ってくれぬか」

「座らせてもらおう」

 レカンが座るのに合わせて伯爵が座り、それを待って、トマジとヘンジットが座った。

「早速であるが、王国暦百十六年三の月の二十八日と、四の月二十六日の二度、そちが、わがゴルブル迷宮を踏破したことにまちがいはないか」

「日付けはよく覚えていないが、三の月と四の月にゴルブル迷宮を踏破した」

「そちが、わがゴルブル迷宮の初踏破者であることを認める。祝福させてもらうぞ」

「すでにあんたの長男から酒と飯をおごってもらい、祝ってもらった。あれはゴルブル伯爵からのもてなしと思っている」

「重畳なり。訊くが、三の月に迷宮主を倒して得られたものは、何か」

「金ポーションだった」

「それは、今も所持しおるか」

「いや。使った」

「自身にであるか」

「そうだ」

「どのような能力が得られたか、聞かせてもらえるか」

「話す気はない」

「さようか。では次に、四の月に迷宮主を倒して得られたものは、何か」

「〈ハルトの短剣〉だ」

 周りがざわりと反応した。

「それは、そちのみたてか。〈鑑定〉によるものか」

「〈鑑定〉だ」

 再び周りがかすかにざわめいた。

「重畳なり。今、所持しおるか」

「ああ」

「みせてもらえるか」

 レカンは外套の襟を立てて、〈収納〉から〈ハルトの短剣〉を取り出して、テーブルの上に置いた。

 おお、という声が何人かからあがる。

 ゴルブル伯爵は、少し顔を後ろに向けた。騎士の一人がうなずいて進み出、短剣をつかもうとした。

「短剣にさわっていいとは言っていない」

 騎士がすさまじい目つきでレカンをにらんだ。

「ふむ。あらかじめ許しを乞うべきであったな。冒険者レカン。この短剣を〈鑑定〉したいので、しばし借り受ける」

「短剣をオレの目の届かない場所に持ち去ることは許さん。〈鑑定〉をすることは許可する。ただし、この部屋のなかで、オレの目の前でやれ」

「無礼者!」

 伯爵の後ろにいたもう一人の騎士が怒声を上げ、一歩前に進み出た。

 伯爵は右手を少し上げ、その騎士を押しとどめた。

「鑑定士を連れてまいれ」

「はっ」

 レカンにきつい一べつをくれて、その騎士は部屋を出た。

 ほどなく、騎士は一人の小男を連れて戻ってきた。

「伯爵様。御前に」

「うむ。その短剣を鑑定せよ」

「かしこまりました」

 ヘンジットが席を立ち、場所を空けた。

 小男は、部屋の異様な空気にびくびくするようすをみせながらも、ヘンジットが空けた場所に進み出て、両手を短剣にかざした。

「叡智をつかさどる神秘の神マーラーよ。わが魔力を導きたまえ。しかして、わが手の指し示す物の正しき名と由来をわれに教えたまえ。〈鑑定〉」

 小男の両手から放出された魔力がやわらかく〈ハルトの短剣〉を包み、循環して両手に戻っている。小男は目を閉じ、両手をわさわさとゆらめかせながら、何かを感じ取っている。

 やがて小男は、うっとりしたような表情を浮かべて目を開け、両手をおろした。

「〈ハルトの短剣〉でございます。ゴルブル迷宮で出現したものにまちがいございません」

「おおっ」

「なんとっ」

「本当だったか」

「素晴らしい」

 歓声があがる。部屋の空気は一気にやわらいだ。

 伯爵も、おお、と小さく感嘆の声を漏らしてソファにもたれかかった。

 トマジは、ぐっと両手を握りしめて喜びを現たあと、レカンのほうを向いた。

「レカン殿。伯爵様が短剣を手に取ることを許してもらえるか」

「かまわない」

「感謝する。さあ、伯爵様。鞘から抜いてなかをお検めください」

「うむ」

 伯爵が左手で短剣をつかみとり、右手で柄を持った。

 部屋中の人々が、かたずを飲んでみまもっている。

 そのなかで、伯爵は短剣を抜いた。

「おお」

「なんと美しい」

「これが、これが〈ハルトの短剣〉」

 剣身からこぼれでる優しい光が、人々の顔を照らしている。

 呪いを寄せつけず、解く力を持つこの短剣は、人々の心をも溶かす力があるのか、皆の顔から険は消えた。

 ずいぶん長い時間、伯爵は短剣にみとれていたが、やがて鞘にしまった。

 そして一瞬、短剣をトマジに渡すかのようなしぐさをみせたが、レカンのほうをちらりとみてその動作をやめ、短剣をもとの通りにテーブルに置いた。

 そして伯爵が口を開いたが、その声は先ほどより一段と甲高く響いた。

「さて、冒険者レカン。そちに提案がある」


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[一言] クリムスは〈ハルトの短剣〉を手に取るときに事前にレカンに許可を取ってたのに対して ガイオニスはレカンに指摘されて初めて許可を求める この対応の違いが領主としての格の差を表してるように見えます…
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