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狼は眠らない  作者: 支援BIS
第20話 金級昇格
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「今回の盗賊団討伐では、エダが大活躍だったなあ。わしも鼻が高い」

 頭のはげた筋骨隆々の大男の協会長は、今日は上機嫌だ。

「守護隊隊長のリットンは、最初はエダのことを、ずいぶん軽くみておったようだがなあ。〈探知〉に〈睡眠〉に〈回復〉を持っていると知って、目を丸くしておった。特に離れた場所から連続して〈睡眠〉を撃ったのには度肝を抜かれたようでなあ。ヴォーカの町の冒険者は、こんなにレベルが上がっていたのかと言われたよ」

「用件を言え」

 ぴしゃりと言われ、協会長は一瞬しらけた顔で沈黙した。

「やれやれ。そうだな。用件を言おう。盗賊のリーダーを倒し、一味を捕縛したあと、ゼキがリットン隊長にささやいた。あれは〈股裂きメルダー〉だと」

「知らん」

「メルダーは、バンタロイの冒険者協会が認定した金級冒険者だ」

「だからどうした」

「あんた、誰に対してもそんな調子なのか? そうなんだろうな。リットンは帰着後わしと相談して、あんたとエダを金級冒険者に推薦するよう領主に進言するとともに、メルダーの首をバンタロイに届けることにした」

「話がみえん」

「ああ。あんた、遠くから来たんだったな。金級冒険者というのは、いわば町の英雄であり、町の顔なんだ。認定するのは冒険者協会だが、選ぶのは領主だ。うちの町にはこういう有力な冒険者がいるぞと、町の住民や外に対して宣言しているわけだな」

「ふん」

「バンタロイが認定した金級冒険者が盗賊団の頭だったなんてことになると、バンタロイ領主の顔は丸つぶれだ。町の外にもなかにもにらみが利かなくなるしな。いろいろとまずいんだよ」

「なるほど」

「だから、内密に討ち取って、こっそりその首を届けてやれば、ヴォーカの領主は、バンタロイの領主に貸しができるわけだ」

「了解した。だが、なぜそれをオレとエダをわざわざ呼び出して教える」

「バンタロイにはリットン隊長が行くはずだ。もう出発してると思う。帰ってきて、確かにメルダーの首だったと確認できたら、その時点で、さっき言った金級冒険者への件を取り運ぶ。エダの表向きの功績は、銀狼討伐と盗賊団討伐だが、実際にはメルダー討伐の功績が大きい。それを知っといてほしいのさ」

「盗賊団討伐の手柄は、ゼキのものであり、リットンのものであり、討伐隊全員のものだろう」

「エダの〈探知〉と〈睡眠〉がなければ乱戦になっていた。あのメルダー率いる盗賊団だ。討伐は失敗したかもしれん。全員無傷で終わったのは、エダのおかげだ。矢でメルダーの足を射抜いた腕も見事だ。リットンもゼキも、最大の功労者はエダだと言っていた」

 今回の討伐でエダに功績があったのはまちがいないが、それで金級昇格を決めたというのは、少し強引な理屈であるようにレカンには思われた。だが、エダが金級に昇格することは望ましいことなので、異論は挟まなかった。

「そうそう。言い忘れていた。ニーナエの冒険者協会から情報と問い合わせが届いた。六の月二十二日にニーナエ迷宮踏破者が出て、そのパーティーは〈ウィラード〉と名乗っていたんだが、この〈ウィラード〉というパーティーについて情報があれば教えてほしい、ということだった」

「ほう」

「当協会では、すぐに返事を出した。この町に〈ウィラード〉というパーティーがいて、メンバーはニケ、レカン、エダの三人だとな」

 確かにニーナエでは、〈ウィラード〉と名乗った。この町の冒険者協会に自分たちのことを知らせるななどと頼んではいなかったし、そんなことを頼んでも聞いてはもらえなかったろう。

「ニーナエの迷宮探索に、ニケは同行していない」

「それは前に聞いた。アリオスとかいう剣士と、もう一人現地で知り合った剣士が一緒だったそうだな。それはこの町には関係ない。大事なのは、この町で登録し、この町で活動しているパーティーが、ニーナエを踏破したってことだ」

 ニーナエ迷宮踏破によって実力を示したことがエダの金級昇格を決定づけたようだ。しかもわざわざニーナエの冒険者協会が、踏破したのは〈ウィラード〉だと言ってくれている。領主としては、自分の町にこんな有力な冒険者パーティーがあるのだと自慢したいのだろう。

「一つのパーティーの全員が金級ということになる。こんなことは、聞いたことがない。あんたたちは、この町の誇りだよ」

「エダは金級に昇格させてやってくれ。オレは銀級のままでいい」

「それは困る」

「あんたに関係があるのか」

「大いにある」

 さらに反論しようかと思ったが、レカンの金級昇格が自分に関係あることだと協会長が言う以上、協会長自身にとっては関係があるのだろうと思い直して、反論をやめた。

「金級昇格のことも含め、領主があんたとエダに会いたいと言っている」

「〈ハルトの短剣〉は売らんぞ」

「いきなりだな。あんたの意志は伝えてある。領主も無理なことはいわんさ。あんたの機嫌をそこねたいとは思っていないからな」

「いつ行けばいい?」

「できれば今日か、そうでなければ明日。これから行くんなら、わしも同行するが」

「レカン」

「うん? どうした」

「ご領主様にお会いするんなら、水浴びして着替えないと」

「着替え? ああ、そうだな。ちゃんと装備を調えていったほうがいい。何があるかわからんからな」

「おい、レカン! あんた領主の館に何をしに行くつもりだ? 戦争か?」

「それは相手次第だ」

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― 新着の感想 ―
[一言] しかし股裂きメルダーって二つ名はインパクト強いですね、魔獣の股でも裂きまくったのかな その光景からしてちょっとよろしくない人なのでは?という印象を抱いちゃいますし、レカンは黒衣の魔王っていう…
[良い点] >「それは相手次第だ」  面白い。笑ってしまいました。  [一言]  楽しい面白い小説を読ませていただいて感謝してます。
[一言] まったく権力者を信用していないレカン(笑)
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