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「翌朝、敵のアジトを探ることになって、ゼキさんが、索敵が得意なやつはいるかと訊いたから、あたい、〈探知〉が使えるって言ったんだ」
「うんうん。そういうことは申告しといたほうがいいね」
「ゼキさんが、有効距離は、って訊くから、六十歩、って答えた。それで、ゼキさんとあたいが偵察に行って、アジトの位置と盗賊の人数を確認した。二十二人いたよ」
「で、帰ってリットン隊長とゼキさんが作戦を立てた。六班に分かれてアジトを包囲して、ゼキさんが攻撃魔法を使ったら、それを合図に一気に突入するって。で、あたい、離れたとこから〈睡眠〉が使えるって言った」
「エダちゃん大活躍だね」
「でも、リットン隊長が信じないんだ。離れたところから〈睡眠〉がかけられるなんて、そんな馬鹿な話は信じられないって」
「その何とか隊長ってのは、魔法使いなのかい?」
「そうじゃないと思う。魔力の匂いはしなかったよ」
レカンはちょっと驚いた。魔法使いだからといって、魔力をまったく発していない相手が魔法使いかどうかはわからない。しかしエダは魔力の匂いというものを感じ取ることができるようだ。
「で、ゼキさんが、うまくいかなきゃ、それはそれでかまわないから、とにかくあたいに魔法を使わせてみればいいって、そう言ってくれて、あたいは、リットン隊長とゼキさんと同じ班になったんだ」
「〈睡眠〉は、うまくかかったかい?」
「みはりがいたから、まずそいつを眠らせた。ゼキさんが、準備詠唱はどうしたって訊くから、習ってないって答えた」
「確かに教えた覚えはないねえ」
「次に、小屋の外に出てるやつが二人いたから、眠らせた。小屋が三つあって、六人と四人と八人が入ってた。姿はみえなくても、〈探知〉で位置はわかるから、一人ずつ眠らせていった。三人ほど眠らせたときには大騒ぎになって、小屋のなかから外をうかがってたけど、かまわず眠らせていった」
なるほど、〈睡眠〉と〈探知〉を併用すると、そういうことができるわけだ。ただしそれは、両方の呪文を連続して何度も使用できるエダだからできることなのであって、誰もがまねできるわけではないだろう。
「やるもんだねえ」
「ところが一人だけ、術をはじくやつがいてね。ゼキさんにそう言うと、そいつにかまわずほかのやつを眠らせろって言うんだ。だから、そうした」
「盗賊たちからしたら、何が起きたのかわからなかったろうよ」
「十八人ほど眠らせたときだったかな。術のかからないやつが小屋を飛び出して来た。すごい大男だったよ」
「ふん。たぶん、抵抗装備をしてたんだろうよ」
「うん。あとでゼキさんが教えてくれた。魔法をはじく鎧を着けてたって」
「へえ? 盗賊にゃ過ぎた装備だ」
「ゼキさんが何かの魔法の準備詠唱を始めたら、その大男があたいらんとこに突っ込んできたんだ。だからあたいは、弓でその大男の足を射て動きをとめた。そこにゼキさんの魔法が着弾して、リットン隊長がばあっと走っていって、大男を斬り倒した」
「いい連携だ」
「で、残ってたやつが逃げだそうとして、周りを取り囲んだ冒険者に足止めされたんで、全員順番に眠らせてやった」
「作戦終了だね」
「うん。あとはみんなが盗賊たちをふん縛って。あたい、眠ってるやつらを起こそうかと思ったけど、やめた。ばあちゃんが、起こす魔法は人前であんまり使うなって言ってたから」
「そんなことを言ったねえ。よく覚えてたもんだ。えらい、えらい」
「へへ。で、やつらが起きるのを待ってたもんだから、結局その小屋で泊まることになって。で、捕虜を連れてるとあんまり早く移動できないもんで、途中で野営して、今日帰ってきたってわけ」
「よくやったねえ。あたしも鼻が高いよ。そこにも鼻をひくひくさせてるやつがいるけどね」
「鼻をひくひくさせてなどいない」
「自分じゃ気づかないものなんだよ」
「ゼキさん、レカンによろしくって言ってた」
三の月の末から四の月のはじめにかけて、レカンはニケやエダとともに、バンタロイ行きの馬車の護衛をした。ゼキとヴァンダムも一緒だった。その道中、〈破砕槌のブフズ〉と〈邪眼のジバ〉の襲撃を受けた。二人を討ち取ったのはレカンである。刺客二人の持ち金と装備の代金は、ヴォーカに帰着してから分配されたのだが、金貨九枚大銀貨九枚あった。ゼキも同じ金額を受け取っているはずであり、ゼキがレカンに好意を抱いても無理はない。
「あ、それでね、レカン」
「うん?」
「冒険者協会の協会長さんが出迎えてくれて、リットン隊長と何か話してたんだけど、明日、レカンとあたいに来てほしいって」
「冒険者協会にか?」
「うん」
「オレには用事がないがな」
「行くって言っちゃった」
「ならしかたがない」
エダは何か食べて家に帰ると言って、シーラの家を出た。
レカンはポプリに呪文を込めた。
最初のうちは、シーラから指導が入ったが、半分ほど済ませたあとは、何も言われなかった。
「もうだいじょうぶさね。ポプリ作りのやりかたは、すっかり覚えたね」
「そうか。感謝する」
「十日ほど乾かそうかね。二十六日から、体力回復薬の作り方を教えるよ」
「わかった。しかし、〈加速〉を教わりたいので、時々来る」
「あたしは寝たいんだよ。よっぽどの急用でなけりゃ、二十六日まで出入り禁止だ」
十日間も寝続けるのだろうか。不思議な話だが、この老婆そのものが摩訶不思議のかたまりなのだ。
「了解した」
家に帰ると夕食の用意ができていた。
食事をしてゆっくり酒を飲み、寝た。
翌日はゆっくり起きて、ゆっくり朝食をとり、エダと一緒に冒険者協会に向かった。