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狼は眠らない  作者: 支援BIS
第19話 銀狼討伐
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「あれはお前に売る。どう使うもお前の勝手だ」

「そこがご相談なのです」

「どこだ」

「買い取るならば、いくらの値をつけるかを申し上げ、それに納得していただいて、代金をお渡しして品物を受け取るのでなくてはなりません」

「それはまあ、そうだろうな」

「あれを全部買い取るほどの金額を、動かせないことはありません。しかしそれは、あの品々にとって最大限の値付けとはならず、買い取ったあとも、チェイニー商店の手の長さを超える商売とはなりません」

「それで」

「あの品々を使って、バンタロイに食い込みたいのです」

「バンタロイには商売のつながりを作ってあるだろう」

「はい。それもレカン様のおかげです。あなたがゴルブル迷宮から得た品々で、新たな取引先もでき、わが商店は一定の信頼を得ることができました。つい先日、バンタロイ支店を開設し、オルストを支店長にいたしました」

 オルストは、チェイニー商店の店員だ。レカンたちが護衛したことがある。

「あの品々は、ここヴォーカでも解体し商品として仕上げることは、できなくはありません。しかし、バンタロイの腕利き職人たちなら、二ランクも三ランクも上のものを作れるでしょう」

「ほう」

「私は、バンタロイのある商人と手を組み、そこが抱える腕利き職人の手をもって、軽鎧を中心とした最上等の製品をいくつか生み出し、まずあちらの領主様に献上したいと思います」

「こっちの領主はいいのか」

「こちらの領主にも贈ります。もちろん。そしてあちらの領主様からお許しを頂いて、新たな製品を売り出しもし、また新たな取引先を作って素材を売りもしたいのです」

「ならば、そうすればいい。オレに断る必要などない」

「この方法をとった場合、今すぐおいくらと値付けをすることができないのです。そして、代金をお支払いするのが、かなりあとになります」

「かまわん。オレは今年いっぱいはこの町にいる。急ぐ必要はない」

「ありがとうございます! そう言っていただけましたら、私は挑戦することができます。新たな取引先や職人たちと関係ができ、一段も二段も上の品を取り扱う道が開けます。これは」

 チェイニーは立派な小さな袋を盆に載せ、レカンに差し出した。

「ほんのわずかでございますが、当座の手付けでございます」

 レカンは袋を持ち上げた。

 その感触で、なかには二枚の白金貨が入っているだろうと見当がついた。

 レカンは袋を盆に戻し、チェイニーのほうに押しやった。

「動かせる資金がいるだろう。金はすべてが調ってからでいい」

 チェイニーは、地に伏さんばかりに頭をさげた。

「ありがとうっ、ありがとうございます」

「では、オレたちの軽鎧の注文を聞いてもらおうか」

「はい。今、採寸の職人を呼びます。作り方についての細かい注文も、その者にお申し付けください。仕上げはバンタロイに出しますので、恐れ入りますが、納品はひと月後とさせていただきとうございます」

「あ、チェイニーさん」

「はい。何でございましょう、アリオス様」

「これは私から売りたいのですが」

「この〈箱〉には、何が?」

「ニーナエ迷宮の主である、八目大蜘蛛の女王種、その毒袋が入っています」

「え?」

 チェイニーは、まるで女王種の氷結攻撃を受けたかのように、その場に凍ってしまった。

 そのチェイニーにレカンが言葉をかけた。

「オレたちの軽鎧を作るについては、すでに引き渡した素材のなかで最上の部分を使ってもらいたい」

「は、はい。それはもちろんでございます」

「それから、装甲部分は、これを使ってくれ」

 レカンは立ち上がって、胸元の〈収納〉から無造作に巨大な何かを取り出した、

 それは、差し渡し一歩半はある、青く美しい甲羅のような何かだった。

 一箇所に穴が開いている。

 よくみれば、下部に小さな傷のようなものがついているのがわかるだろう。

 チェイニーは一目みて、それが今までみたことない強大な魔獣の素材だと気づいた。

「それは……。それは……。まさか」

「女王種の腹の甲殻だ」

 ニーナエ迷宮の主は、特殊な構造をしていて、腹の部分が非常に硬い。

 刺突スキルを持つレカンが全力で突きを放っても、一度では穴を開けることができなかったほどの硬さだ。

「エダ。お前には、女王種討伐の分け前をやっていなかったな」

「えっ?」

「この甲殻の一番いい部分はお前のものだ」

「えっ!」

「チェイニー」

「は、はいっ」

「この甲殻の一番いい部分はエダの軽鎧に使え。あまりの部分を、オレとアリオスの鎧に使え」

「う、うけたまわりました」

「残った端切れはお前に売る」

「あ、ありがとうございますっ!」

 レカンはチェイニーに、ベストの修理も依頼した。

 見栄えのしない黒いベストは、もとの世界で長く愛用してきたものだ。千々岩蜘蛛の糸でできた逸品で、驚異的な魔法防御の性能を持つ。だがさすがにもうぼろぼろだし、ニーナエ迷宮では大穴を開けられてしまった。同じ素材はないだろうが、今回の素材に似たようなものはある。とはいえ、軽鎧の下に着けるには厚みがありすぎるので、軽鎧を着けているときは着ないだろう。

 ズボンも修理に出した。希少素材を混ぜ込んで優れた職人が仕上げたものだ。もう本当にぼろぼろだが、愛着がある。チェイニーから、軽鎧の下に着けるのに好適な下着とシャツとズボンを、今回得た素材で作ることを提案されたので、頼んだ。

 エダとアリオスにも今回の素材で、シャツとズボンと下着を作ることになったが、エダは下着については穿き心地次第では身につけないと宣言した。


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 職人の採寸は込み入っていたし、戦い方や標準の装備など細かく聞かれた。

 レカンは軽鎧とブーツだけでなく、シャツも注文したし、〈ザナの守護石〉を入れるための頑丈なポケットを鎧の内側につけさせたり、そのほかの宝玉を手に入れたときのことを考えて、そのポケットも注文した。〈ハルトの短剣〉を収めるホルスターも注文し、いつでも魔石を取り出せるような小さな革袋をベルトにつけるよう注文した。そのほか細々した注文を出した。

 アリオスのほうは、レカンよりさらに細かく、形や機能を注文した。

 エダは機能などおかまいなしで、色や形のかわいいものを注文しようとしたので、レカンは職人に、お前がみつくろえ、と告げた。

 採寸が終わったら、もう夕刻だった。

 ダンスがやって来て、いつもの高級店に三人を案内してくれた。今夜もチェイニーのおごりだ。この店でレカンは金を払ったことがない。

「主人はあいすまないことですが、失礼させていただくとのことです」

 たぶんチェイニーは新しい商売のことで動き回っているはずで、顔を出さないのは自然なことである。

 ダンスも帰ってしまい、三人だけでの夕食となった。

「エダ。ワインをグラスに三分の一だけ飲め」

「いいけど、どうして」

「エダの銀級冒険者昇格に。乾杯(ジョー・ジョード)

「あ、ほんとだ。乾杯!」

「おめでとうございます。乾杯!」

「エダ」

「うん?」

「三十一日から薬草採取に出かける。オレとお前と、ニケでな」

「ニケさん、帰ってきたんだ!」

「もう帰ってくるはずだ。前回は十四、五日かかったかな。そのつもりで準備しておいてくれ」

「私は明日、町を出ます。早ければひと月半ほどあとに、遅ければふた月ほどあとに帰ってきます」

「アリオス君。気をつけてね」

「はい。エダさんも」

 料理はうまかった。

 酒もうまかった。

 三人はその夜、心ゆくまで食事を楽しんだのである。

「そうだ。アリオス。これを渡しておく。エダにもだ」

 レカンは二人に白金貨を二枚ずつ渡した。

 〈ジャイラ〉からは、襲撃のわびとして六枚の白金貨をもらった。エダは誘拐されかけた本人であり、アリオスはその場で一緒に戦った仲間なのだから、その金を受け取る権利がある。

 アリオスは礼を言って無造作にしまった。

 エダはしばらく固まっていた。


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 夜中にレカンは飛び起きた。

 重要なことを忘れていたのを思い出したのだ。

「〈光明(テラパーム)〉」 

 灯りをともし、〈収納〉から首飾りを取り出す。

 〈ジャイラ〉からのわびの品として、ジェイドから渡された首飾りだ。

 ニーナエ迷宮最下層を探索していた魔法使いヴェータの装備品だ。

 どんな機能があるのか、まだみていなかった。

「〈鑑定(アベル)〉」


〈名前:インテュアドロの首飾り〉

〈品名:首飾り〉

〈恩寵:魔力蓄積、魔法攻撃無効〉

 ※この首飾りには魔力が蓄積できる

 ※蓄積した魔力は装備者がいつでも使用できる

 ※装備者に加えられた魔法攻撃を蓄積魔力を消費して無効化する


「これは。この機能は」

 どの程度の魔力を蓄積できるのか、また、魔法攻撃を無効化するのに、どの程度魔力を消費するのかを検証しなければならない。

 それにしても驚くべき機能だ。

 この首飾りを装備していれば、魔法攻撃による不意打ちは恐れる必要がなくなるというのだろうか。

 ニーナエ迷宮で〈貴王熊〉の外套をつらぬいてレカンの腹を突き抜けたあの魔法攻撃、ああしたもの一切からレカンを守ってくれるものだというのだろうか。こちらの魔力の続くかぎり。

 だとすれば、これはまさにレカンにとって究極の装備といってよい。

 薬草採取の旅は、この装備の性能を検証する好機である。

「第19話 銀狼討伐」完/次回「第20話 金級昇格」

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― 新着の感想 ―
この話、チェイニーっていう冒険者とは違う戦場から退こうとした人に勝負を決意させるっていう、レカンの縁が人の有り様に繋がっていくって話本当に良いです。
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