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狼は眠らない  作者: 支援BIS
第19話 銀狼討伐
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8


 思わず〈炎槍〉を撃とうとして、あやうくレカンは踏みとどまった。

 エダが、すっと右に身をかわし、魔獣の牙からのがれたからだ。

 跳躍している魔獣は途中で軌道を変えられない。

 その代わり、左前脚がエダを襲った。

 エダは、ショートソードを順手に構えつつ、その左前脚を受け流した。左腕の腕覆いの部分で、ショートソードを支えている。

 うまく勢いを殺したとしても、魔獣の体重の乗った攻撃を受けたのに、エダは体勢を崩していない。その身体能力は、以前とは比較にならないぐらい向上している。

 地上に降り立った銀狼は、素早くくるりと向きを変えた。

 そのときエダはすでに右から回り込んでいる。

(うまい!)

 魔獣が体を回転させたと同じ方向に、エダは回り込んだ。

 だから魔獣は一瞬だけエダを見失った。

 エダは回り込みつつ踏み込んでいる。

(危ないことをするな!)

 魔獣もエダが突っ込んでくるのを察知し、さらに体を回転させつつ、エダを食い殺そうと牙を剥く。

 その鼻面に、エダは斬り付けた。左から右にショートソードを振って。

 エダに貸してあるショートソードは、頑丈さが売り物であり、切れ味はそれほどよくない。

 だが、今の一撃は、さほど体重を乗せてもいなかったのに、相当深く食い込んだ。

 ぎゃん、と悲鳴をあげて銀狼が立ちすくむ。

 その首筋に、真上からエダはショートソードを突き込んだ。

 素早く跳びすさるエダ。

 激しく身をよじる銀狼。

 両者はともに動きをとめ。

 そして銀狼は崩れ落ちた。

 エダは勝利を得たのである。


9


 レカンはずいぶん気をもんだが、終わってみればあっけない戦いだった。

 もはや戦士としてのエダの格は、通常種の銀狼を大きく上回っているのだ。

 考えてみれば、迷宮深層の魔獣たちとの戦いを生き抜いたエダである。

 地上の魔獣と一対一で戦うなら、よほど上位の魔獣で、しかも強い個体でなければ勝負になるわけがなかった。

 エダは倒した敵をみおろしながら、ふうっ、ふうっ、と荒い息をついている。

 肉体的に疲れたというよりは、大物との戦闘という、今までなかった体験の余韻がそうさせるのだ。

 やがてエダは、レカンのほうを振り向いた。

「レカン」

 そのままレカンに駆け寄り、抱きついてきた。

 レカンはやさしく受け止めた。

 しばらくして言った。

「ショートソードをしまえ」

「うん」

 それからレカンは銀狼の血を抜き、〈箱〉に収めた。

 ヘレスが迷宮探索用にいくつか買って使っていた〈箱〉を、もう不要だからというのでもらったのだ。

 レカンとエダは、戦いの場に黙礼を送り、町に帰った。

 夕方になっていたが、冒険者協会は、まだ開いていた。


10


「あら、レカンさん。エダさんもこんにちは。何かありましたか?」

 レカンは手に持った〈箱〉を示した。

「討伐した」

「は?」

「依頼を完了した」

「………はああ?」

「調査したところ、銀狼だった。だから、討伐した」

「うそ、ですよね?」

「死骸を持って帰った。ここに出せばいいか?」

「いえ、ここでは困ります。こちらへ」

 レカンはアイラに案内され、協会の奥にある素材買取解体所に行き、〈箱〉からずるずると銀狼の死骸を引き出した。

 よごれた作業服を着た年配の男が、あきれたように言った。

「ありゃあ、ほんとに銀狼じゃねえか。しかも大きさも、けっこう大きい。年老いているわけでもねえ。強かっただろうなあ。こんなもんが町のすぐそばにいたとは。アイラ。お前の勘が正しかったのう」

「こんなにすぐ倒してもらえるなんて。どうやってみつけたんですか?」

「それは秘密だ。ところでアイラ」

「はい?」

「この魔獣を倒したのはエダだ。オレが手伝ったのは血抜きだけだ」

「はいいいい? いや、まさか、そんな。うそ、ですよね?」

「オレに何か嘘を言う理由があるのか」

「……いえ。レカンさんは嘘をいいませんよね。では、本当に、こんな強力な魔獣を、エダさんが?」

「傷跡はショートソードだけだろう。オレは大きな剣しか使わん」

「信じられないことですが、本当なんでしょうね。いつのまにそんなに強くなったんですか」

「エダはオレと一緒に、ニーナエの迷宮を踏破した」

「……は?」

「銀狼を討伐した場合は報酬が上がるんだったな。それはまた近いうちにもらいにくる。ではな」

 呆然と立ち尽くしているアイラを取り残して、レカンとエダは家に帰った。

 家に帰るとアリオスが食事の準備をしてくれていた。しかも三人分である。

「わあ、アリオス君! 晩ご飯作ってくれたんだ。うれしい!」

「お帰りなさい。エダさんほど上手に作れませんけど、がまんしてください。レカン殿、チェイニー商店の使いが来ました」

「そうか」

「明日の午後一番に、荷馬車を二台よこすそうです。大型の〈箱〉をたくさん積んで。ただし、朝の間に使いをよこすので、午後一番では都合が悪いようなら、別の日時をご指定いただいて」

「わかった。明日の午後一番でいい。さあ、食事にしよう。いや。その前に水を浴びるか」

 大量の素材をレカンの家まで取りにくるのは大変だ。

 レカンが持っていけば、その手間は省いてやれる。

 しかしそれをすると、レカンの〈収納〉の容量の大きさを知られてしまう。

 迷宮のなかで同じパーティーの仲間の前で〈収納〉を使うのはやむを得ないが、それ以外の人間にこの能力を教える気はなかった。

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― 新着の感想 ―
子供に初めてのお使いをさせるお父さんみたいでほっこりした
[気になる点] 作者さんは東北の方?
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