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狼は眠らない  作者: 支援BIS
第19話 銀狼討伐
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「シーラ。生命力とは、強さなのか」

「強さの基盤ではあるね。強大な魔獣を倒したり、強い敵と戦い続けたやつの生命力は増大するから、ある程度以上の生命力を持ったやつは強いことが多い」

「生命力が膨大であるのに強くないということがあり得るのか?」

「強さの意味によるね。例えば、〈回復〉しかできないやつを連れて迷宮の深層まで探索をしたとする。直接魔獣を攻撃していなくても、その回復役の生命力は増大する。つまり少々の攻撃じゃびくともしなくなる」

「うむ」

「だけど、もともと攻撃力を持っていなかったとしたら、その攻撃力は増加しようがない」

「ああ、なるほど。そういうことか」

「逆にいえば、エダちゃんの場合、弓使いでもあり、ショートソードも使う。そのエダちゃんが小規模とはいえ迷宮を踏破し、最下層じゃ一万匹もの魔獣を倒したパーティーに参加してたんだ。エダちゃんの生命力と攻撃力は、飛躍的に伸びてるはずだよ」

 そういえば、確かにエダの気配は以前とはちがう。

「えっ? ばあちゃん。あたい、弓で敵を傷つけたけど、ショートソードはあんまり使ってない」

「じゃあ、ショートソードの腕はよくなってないだろうね。だけど威力は上がってるんだよ。注意力や瞬発力や俊敏性なんかも上がってるはずさ」

「そうなんだ」

 ということなら、ますますエダを迷宮に連れてゆき、危ない思いをさせた意味があった。だが、実際にどの程度成長しているのかがわからない。

 近いうちに、魔獣を狩りにいこう。そうレカンは心に決めた。

「まあとにかく、生命力は強さの基盤ではある。でも、どのくらい生命力があるかってことと、どれくらい腕が立つかってことは、同じじゃない」

「理解した」

「あんたのような冒険者は、相手の強さを気配で感じるだろう。それは、生命力や武芸の腕を、直感的に総合的に判定してるんだ。相手の強さを量るには、そっちのほうがすぐれてるねえ」

「なるほど」

「ただ王国騎士団のようなとこじゃね、生命力、つまり命の総量が一目でわかるような魔道具があると、何かと便利なんだよ。成長ぶりがわかるから稽古の励みになるし、どの程度の魔獣と戦えるかも見当がつく。同じような訓練をしてる者同士だと、生命力の量で強さを比べることもできるのさね」

 レカンは、自分の生命力を知りたいとは思わなかった。だが、エダが迷宮に行く前とあとで、どの程度生命力に変化があったかは、知りたいと思わなくもなかった。といっても、今からでは行く前の生命力は量りようがない。

「そういやあ、レカン。ヤックルベンドがあんたに会いたがってるんだけどねえ」

 それは、あの〈気絶棒〉とかいう趣味の悪い武器を作った魔道具技師だ。

 火の魔法が出る短い杖を作ったのもそいつだ。

 レカンは直感的に、関わってはならない相手だと感じた。

「会う気はない」

「あんたのその外套を、どうしてもみたいっていうんだ」

「この外套のことを話したのか?」

「ごめんよ。ついぽろっとね」

 王都まで往復すればひと月はかかると聞いている。

 手紙のやりとりもできなくはないだろうが、手紙でぽろっと漏らしたりするだろうか。

 たぶん、シーラとヤックルベンドは、離れていても話ができるような方法が何かあるのだ。

「オレは王都に行く気はないし、ヤックルベンドにも会う気はない」

「そうかい。それじゃしかたがないね。でも、何かの都合で王都に行くことがあったら、ヤックルベンドを訪ねてやっておくれでないかい」

「わかった」

 このとき、わかった、と返事をしたことを、後日レカンは死ぬほど後悔することになる。

「そういえば、レカン殿の外套。大穴が空いたはずなのに、全然そんな跡がありませんね」

「そのことは訊くな」

「わかりました。秘密の多い師匠殿」

「師匠だって?」

「はい。シーラ様。私はレカン殿に剣の教えを受けているのです」

「おやおや、まあまあ。あんたが自分から人の面倒をみようとするなんて、こりゃ〈大暴走〉の前触れかねえ」

「シーラ。教えてもらいたいことがある」

「なんだい?」

「実はオレも、ニーナエ迷宮踏破後、身体能力が上がった。魔力量も増えたように思う」

「それはそうだろう。だから冒険者は迷宮に潜るんだからね」

「空間探知能力も向上している」

 ニーナエ迷宮の踏破後、異様に体調がよかった。

 ヘレスから生命力増加という話を聞いて、あらためて自身を点検してみたところ、明らかな能力の増大が確認できた。

 体力や俊敏性は、いくぶん向上していると感じる。

 魔力量は、かなり増大している。

 〈生命感知〉の探査範囲は、半径千歩ほどだったが、少し拡大している。

 〈立体知覚〉の探査範囲は、半径五十歩ほどだったが、倍ほどにもふくらんでいる。

 〈魔力感知〉の探査範囲は、普通で五歩、最大状態で二十歩ほどだったが、これも倍、あるいはそれ以上に増えている。

「オレはもとの世界で、ニーナエの最下層より手ごわい敵とも戦った。だが、ここまではっきりと、生命力や魔力や各種能力が増大したことはない。これはどういうわけだろう」

「うーん。はっきりしたことは、すぐにはわからないけどね。種類がちがうからかねえ」

「種類がちがう、とは?」

「同じ種類で同じレベルの魔獣を倒し続けても、生命力はほとんど上がらない。種類のちがう魔獣やよりレベルの高い魔獣を倒せば、上がる」

「うむ」

「あんたの生命力の成長は、もとの世界じゃあ、飽和状態だったんじゃないかねえ」

「飽和状態?」

「その環境ではそれでいっぱいいっぱい、ってことさ」

「成長の上限に達していたということか」

「そういうことだよ。それが正しいかどうかはわからないけどね」

「それで?」

「この世界の魔獣は、今まであんたが倒していない種類だ。だから生命力の成長度合いが、また新たに計算されてるんじゃないか。そう考えてみたんだけどね」

「ということは、この世界でさらに深い迷宮に潜れば、オレはまだまだ強くなれるのか」

「そうだと思うよ。そのうち頭打ちになると思うけどね」

 なんということだ。

 迷宮だ。

 迷宮に潜らなくてはならない。

 レカンは、驚いた顔で自分をみつめているアリオスに気づいて、あることを思い出した。

「アリオス」

「はい」

「お前、このあとひと月ぐらいどこかに行くと言ってたな」

「はい。今夜は家に帰って寝て、明日出発します」

「そうか。実は、今回深層で採取した八目大蜘蛛の素材で、オレとエダとお前の軽鎧とブーツを作ろうと思っているんだがな」

「ほんとっ? レカン」

「それは、ありがたい話です」

「よかったら、採寸もあるから、その注文が済んでから用事をしに出かけたらどうだ」

「そうさせてもらいます。いやあ、これはうれしいなあ」

「レカン。明日か明後日にまたおいでな。薬草採取の相談をしたい」

「わかった」


 レカンは、シーラの家でチェイニーへの手紙を書くと、一人で冒険者協会に足を運んだ。エダとアリオスは、先に家に帰った。

 手紙の用件は、まずニーナエ迷宮四十階層台の八目大蜘蛛の上位種二十四体分の素材の売却であり、引き渡し場所はレカンの家だ。そして三人分の軽鎧の作製である。

 冒険者協会に足を踏み入れるなり、呼びかけられた。

「レカンさん!」

「久しぶりだ、ええと」

「アイラです。どうしてたんですか、今まで。パーティー結成の届けをしてから、全然顔を出してくれないじゃないですか」

「用事があったのでな」

「それと孤児院へ九日も奉仕に行ってくださって、ありがとうございます」

「あれは神殿への奉仕であって、冒険者協会を通した依頼ではなかった」

「それでもです。こどもたち、本当に喜んでました」

 アイラの笑顔をみて、レカンは気がついた。

「あんたは、もしや孤児院出身か?」

「はい」

 どうりで孤児院からの指名奉仕依頼を熱心に勧めてきた。

「どうぞこれからもよろしくお願いします」

「いや。もう行かん」

「こどもたち、本当に楽しみにしているんです」

「そんなことより、依頼だ。この手紙をチェイニー商店に配達してもらいたい」

「はい。今ちょうどいい子がいます」

 アイラは、見覚えのある若い冒険者に声をかけて依頼を受注させ、レカンに依頼達成の印を渡した。

「こちらのテルニスに、レカンさんの居場所を教えてください。報告に行ったら、印を渡してあげてくださいね」

「いや」

 レカンはテルニスに印を渡した。

「この手紙が着けば、向こうがオレに店員を差し向ける。向こうはオレの家を知っている。だから、この手紙を渡した時点で、依頼は完了だ」

「は、はい」

「そんなに信用していいんですか」

「あんたがちゃんと教育してるようだからな」

「まあ」

 テルニスはうれしそうな顔をして駆け出して行った。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] レベルキャップと拡張パックって本当にゲーム的なのにそう感じさせない文体はすごい。
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