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第四十三階層では、戦いはいっそう激しくなった。
そして、四人の連携はさらに練り上げられた。
昼食を挟んで七度の戦闘があり、七度目の戦闘で宝箱が出た。
「平べったい宝箱ですね」
「剣なら細いもんね」
「まるで額縁でも入っているかのようだな」
「開けるぞ」
そこに入っていたのは、〈ウォルカンの盾〉だった。
レカンはそれを持ち上げた。
盾は迷宮の薄暗い光を浴びて、高貴な輝きを放っている。
「レカン殿。それは、もしや」
「〈ウォルカンの盾〉だな」
「やはり。おお! これが出現するところをみることができるとは」
「やっぱりいい盾ですね。神々しい感じがします」
「あれ? でもこれ、レカンの使ってる盾とおんなじだよね?」
「そうですよ」
「ヘレス」
「うむ」
「この盾は、お前が使え」
「え?」
「迷宮品の配分はオレが決める。そういう約束だ。この盾はお前にやる」
「こ、これを。この盾を。〈ウォルカンの盾〉を、この私に?」
「受け取れ」
ヘレスは、押し頂くように盾を受け取った。
「呪文は知っているか? 小さくするときは〈ピルアー〉、盾に戻すときは〈パシュート〉だ。左手に持ってやってみろ」
「うむ。〈縮小〉!」
盾はヘレスの左手に手甲となって収まった。
「おおおおお。なんという。本当に、〈ウォルカンの盾〉なのだなあ」
「戻してみろ」
「心得た。〈展開〉!」
盾はもとの姿を取り戻し、自然にヘレスの左手ににぎられていた。
「これが、〈ウォルカンの盾〉。まさかこれをわがものにできることがあろうとは」
「ヘレスさん。これってそんなに珍しいもの?」
「名誉ある騎士の最高の装備といわれておってな。王国騎士団でも、団長と副団長しか持っていないのだ」
「高いの?」
「というか、どこかの迷宮でこれが出ると、高位貴族が買い占めるのだ。自分の騎士に与えるために」
「あ、そーゆーこと」
「これを持つことは、あらゆる騎士のみはてぬ夢なのだ。うふふ。ふふ」
レカンは、ふと思った。
ジンガーの持っていた〈ウォルカンの盾〉は、ニーナエ迷宮で出たものだった。もしかすると、ジンガーは、自分でこの迷宮に潜ったのだろうか。
「あのトーナメントにも出たくてしかたなかったのだ。でもいかさまだとわかってるし、盾は持ってきていないし、ろくな盾は売っていないし。ところが。うふふ」
しかもかなり深い階層に。だとすると、ジェイドにでも尋ねれば、ジンガーを知っているかもしれない。
「ありがとう、レカン殿。貴殿には、どんなに感謝してもしたりない」
「ヘレス」
「何であろう」
「ここからの探索で、その盾を使ってはどうだ」
「いや。それは無理だ。この魔銀の剣は重すぎて、私には片手で扱えないのだ」
「それはしまえ。これを貸してやろう」
レカンは〈収納〉から聖硬銀の剣を出して、ヘレスに渡した。
ヘレスは、けげんそうな表情をしながらも、受け取った。
「不思議な造りの鞘だな。重くはない。むしろ、軽い」
すらりと抜いた。
こぼれ出た光が、居並ぶ者たちの顔を照らす。
「これは……なんと美しい。だが、これは、何だ。まさか」
「これはあの時の剣ですね。聖硬銀だったんですか」
「聖硬銀!」
「こんな純度の高い聖硬銀の剣が、この世に存在するものなんですね。いや、これはもう、驚きを超えてます。言葉もないですね。父でもこんなものはみたことがないと思います」
「レカン殿は、もしや、どこぞの王族であられたか?」
「いやいや。ないない」
「その剣なら、切れ味ではお前の剣に劣らないはずだ。それを使え」
「い、いや。無理だ。こんな貴重な剣を使うなんて。刃こぼれでもしたら」
「そのときは代わりを貸してやる」
「……………………はあ?」
「同じ物が何本かある」
その夜、ヘレスは、〈ウォルカンの盾〉と聖硬銀の剣を抱いて寝た。
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朝からヘレスはうきうきしていた。
(うわついているな)
(こんな状態では迷宮最下層の敵とは戦えん)
「さあ、レカン殿。姫亀の一刻もなかばを過ぎた。もうすぐ姫亀の二刻だ。そろそろ行こうではないか」
「いや。行かん」
「は?」
「盾と剣の扱いに慣れる時間をやる。といっても一人ではよくわからんか。アリオス」
「はい」
「相手してやれ」
「わかりました」
「いや、レカン殿。聖硬銀の剣がかすりでもしたら、アリオス殿は大怪我をする」
「かすればな」
「何と言われる」
「お前の腕で、アリオスにかすり傷でもつけられると、本気で思ってるのか」
さすがにヘレスは、むっとした顔をした。
「盾と剣を携えたる、わが修練をご存じか」
「もしアリオスに、かすり傷をつけるか、大怪我を負わせられたら、その剣はお前にやる」
「なんと」
「心配するな。ここには上級〈回復〉持ちが二人もいる」
「二言はありますまいな」
「ない」
「いや、あの。そんな重大な責任を負わせないでほしいんですが」
「この迷宮探索で何かを学んだのなら、それをみせてみろ」
そして二人の試合が始まった。
だが、最初から逃げにまわったアリオスを捉えることは、ヘレスにはできなかった。軽鎧とはいえ、全身に金属を貼り付けた鎧をまとい、左手に盾、右手に剣を持って長時間戦えば、女の身では体力がもたない。最後は足元がふらふらになり、レカンに試合終了を宣告された。
そのあと昼食になった。
レカンは何も言わなかった。
何も言わなくても、体を動かし続けることで、ヘレスに落ち着きが戻ってきた。
昼食のあと、レカンはエダに命じて、ヘレスに〈浄化〉をかけさせた。
そして横になり、しばらく眠った。