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狼は眠らない  作者: 支援BIS
第2話 護衛依頼
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 門を通るときには、右手首を失って縛られているマラーキスをみて門衛が驚いたが、隊長なる人物が通過を許してくれた。

 ヴォーカの町に入ると、チェイニーは、レカンとエダを宿屋に押し込め、どこかへ姿を消した。宿屋に再び現れたのは、翌日の昼のことである。

「詳しくはいえないのですが、まにあいました。私にとっても、この町にとっても、本当によい結果が得られました。悪人たちは罰せられるでしょう。私は、領主家の筆頭出入り商人に復帰できました」

「それはよかった。詳しいことは訊かないことにする」

「ええっ? あたいは詳しいことを聞きたいよ」

「ところでレカンさん。今日は銀色の指輪をしておられないのですね」

「その気分ではなかった」

「そうですか」

 この世界にも〈鑑定〉か似たような能力はあると思っておいたほうがよい。不用意によい装身具や武具を身につけていると、手の内を読まれたりするし、それを欲しがる人間が現れる。だから今は、〈状態異常耐性〉と〈毒耐性〉が付与された指輪は装着していないのだ。

「さて、依頼は達成です。報酬をお支払いします。まず、エダさん」

 チェイニーは机の上に、二枚の銀貨を置いた。

「ええっ? そんなばかな! 報酬は銀貨五枚のはずだよ!」

 チェイニーは、ちょっと困ったような顔でエダの目をみていたが、やがて言った。

「エダさん。冒険者章をみせていただけますか」

「あ、ああ。いいとも」

 銀色の金属片を受け取ったチェイニーは、まず表をじっとみて、次に裏をじっとみた。

「ほう。あなたのお名前は、正確にはエディダルというのですか」

「そ、そうさ」

「男みたいな名前ですね」

「だからこんなふうに育っちまったんだろうな」

「ショアーの町で登録されたのですね」

「ああ」

「あの町の冒険者協会の職員は、全員知り合いです。どなたが手続きしました?」

「えっ? さ、さあなあ。もう忘れちまったよ」

「そうですか。ところでこの冒険者章によると、銀級への昇級は十八年ほど前ですが、あなたは今何歳ですか?」

「あ、あたいは……」

 膝の上に置いた手がぶるぶる震えていたかと思うと、エダは突然立ち上がった。

「ちくしょーーーー!」

 叫びながら駆け出そうとしたエダの左手を、レカンがつかんだ。エダの右手が机の上の銀貨をさらっていたからである。

「お座りなさい、エダさん。他人の冒険者章を自分の物だといつわるのは大罪ですよ」

「た、他人のものじゃねえよっ。父ちゃんのだ!」

「あなた本人の冒険者章でないものを、自分の冒険者章だといつわれば、それは詐欺であり詐称です。あなたは本当はまだ登録していないのでしょう? このことが伝わったら、あなたは冒険者登録などできません。各地の冒険者協会は、各地の領主家や商人たちとのあいだに幅広い連絡網を持っていて、あなたが想像するよりずっと多くの情報が共有されているのです。こんなことは二度としてはいけません。いいですね」

「……わかったよ」

「では、部屋に戻りなさい。明日の朝までの宿泊料と食事料は私のほうで払っておきます」

「あ、ありがとよ」

 エダは、未練がましく何度も何度も振り返りながら部屋に戻った。

 チェイニーはレカンに深々と頭を下げた。

「レカンさん。あらためて礼を言います。ありがとう。これは報酬です」

 そういって差し出したのは、一枚の金貨だった。

「約束の報酬は銀貨十枚だ。これは多すぎる」

「いえ。仕事内容が素晴らしかった場合や、依頼主が思わぬ大きな利益を得た場合、それに依頼時点では予想されていなかった困難や危険が起こり、それを解決して依頼を達成した場合には、依頼主の判断で報酬を増額することがあるのです。これはあなたへの正当な報酬です。本当に、本当に、ありがとうございました。付け加えていえば、依頼主が契約以上の報酬を払うとき、今後もその冒険者と親密でいたいという希望が込められています」

「ふむ。ではこの報酬は受け取ろう。一つ、頼みがある」

「はい。何でしょう」

「腕のいい薬師を紹介してほしい」

「第2話 護衛依頼」完/次回「第3話 弟子入り試験」

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― 新着の感想 ―
[良い点] チェイニーの、中学校辺りの良い先生感。 ヴォーカとその近辺には、他にも、善導されたボンクラ連中が、大勢居たのでは。 [気になる点] ・「あなた本人の冒険者章でないものを、 ・自分の冒険者…
[良い点] 落ち人であるため常識知らずで規格外なレカンの性質がさりげなく触れられていて、話の流れがとても自然だと感じます。 [気になる点] レカンへの護衛の報酬について、依頼時は「大銀貨一枚」、支払い…
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