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狼は眠らない  作者: 支援BIS
第18話 ニーナエ迷宮下層
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 翌日、レカンは一日寝た。

 夕方起きて、宿で軽い食事を取り、また寝た。

 その次の日、ヘレスを連れて、迷宮品を売却して歩いた。

 いつものことだが、量が多いので、一つの店で売ろうとしても断られたり、値を下げられたりする。毒袋はそもそも売り先がちがう。

 通常個体四十四体は、締めて大金貨十六枚になった。大金だが、ヘレスは最初の店で店主に文句を言った。安すぎると。

 だが、みかけ以上に傷んでいる足が多いので、しかたないのだという。

 なぜ傷んでいるかというと、ヘレスがしゃにむに攻撃したからであり、ヘレスのふるう魔法剣の威力が高かったからである。いわば自業自得なので、説明を聞いているうちにうなだれていた。

 大型個体二体は、迷宮から出たときすぐに、四軒の店に足を置いてきたのだが、なんとこれが大金貨九枚になった。

 この階層の大型個体の足が、これほど奇麗な状態で出ることはめったにないのだという。

 一人、金貨六十二枚以上である。

 分配金を渡したとき、エダが目をまん丸にみひらいていた。

 さらに次の日も、レカンはほとんどの時間を寝て過ごし、食事は宿でとった。

 エダは買い物に行かせた。

 百本買った矢も、もう半分以上を失った。

 毒は使い切ってしまったので、倍の量を買わせた。

 麻痺の呪いを付加した矢は、まだ一本も使っていないが、さらに五本に付加するよう言っておいた。この町ほど呪術師が多い町は珍しいらしいので、たぶん質もよいし、値段もよそと比べれば割安であるはずだ。

 次の日、レカンは食料や薪を買いに出た。状態異常解消の効果がある黄色ポーションは多めに買っておいた。休みは四日と言ってある。つまり今日までだ。

 買い物をしながら、町をぶらつきながらも、レカンは〈生命感知〉に注意をしていた。

 〈生命感知〉は、半径千歩の範囲にいる生命体を感知する能力だ。

 赤い点は人間であり、緑の点は鳥獣魚虫、青の点は魔獣だ。

 もといた世界では人間は多い少ないはあれ、誰でも魔力を持っていたが、この世界では、魔力を持つ人間のほうが少ない。

 だから赤い点が、ごく薄くしか表示されない人間が多い。

 この能力では、人がいるということはわかっても、それが誰であるかはわからない。

 けれども、点の表示のされかたには、微妙なちがいもあって、どれが誰なのか、判別できる場合もある。

 幸い、エダ、アリオス、ヘレスには魔力があるので、レカンは人物判定の練習にと、この三人の赤い点を、朝から追跡していたのだ。

 この遊びのような練習は、今までにも何度かやったのだが、よくこの日やっていたものだと、レカンは感謝することになる。

 アリオスの赤い点は、もうだいぶ前にみうしなってしまった。アリオスぐらいの魔力の持ち主は、この町には山ほどいるので、人が密集している場所に移動してからは、すぐにみうしなった。もう、どれがそうなのかわからない。

 ヘレスは、アリオスよりずっと強い魔力を持っている。さすがに迷宮都市だけあって、匹敵する、あるいは凌駕する魔力の持ち主も多いが、なんとか追跡を続けられている。

 エダの赤い点は、魔力量が多いため、目立つ。こちらは最近段々特徴がわかってきたような気がする。目を離しても、これがそうかとみつけることができるようになってきた。

 そのヘレスの赤い点の動きがおかしいことに、レカンは気づいた。

 先ほどから、三つの赤い点と一緒に動いている。

 街中で一緒になったのだが、そのうち離れるかと思っていたのに離れない。

 そのまま四つの点は、一緒に町外れのほうに進んでいく。

(あまりに一緒に動きすぎる)

(馬車か?)

(一緒に馬車に乗って移動しているのか?)

 ヘレスの点は、どんどん遠くに去っていく。

 突然。

 レカンの体を悪寒が走った。

(いかん!)

 レカンは走った。


12


 迷宮は町の中央にある。

 というより、迷宮の周りに町がある。

 領主の館は迷宮の南にあり、その付近に貴族たちの屋敷がある。

 町の北側には山々が連なっているのだが、その麓には、それぞれじゅうぶんな距離を置いて、立派な屋敷が、ぽつりぽつりと立っている。

 これらは、迷宮で稼いだ高位冒険者たちの屋敷だ。

 その屋敷のどれかに、馬車は向かっているようだ。

 レカンは〈貴王熊〉の外套をはげしくはためかせながら、走りに走った。

 人通りの少ない場所では〈突風〉の魔法を行使して加速をつけた。

 山道に入ってからは、〈突風〉を強く背中にあて、木々の上を飛ぶようにして馬車を追った。

(あれだ)

 谷川を飛び越えながら、レカンは馬車を発見し、その前方に着地した。

 馬車が近づいて来る。

 レカンは〈収納〉から、〈ザナの守護石〉を取りだしてシャツのポケットに収め、手甲状態の〈ウォルカンの盾〉を取り出して左手に装着し、〈ラスクの剣〉を腰に着けた。

 馬車はレカンの前で歩みをゆるめた。

「てめえっ! 死にてえのか! そこをどけ!」

 御者をしているのは冒険者の男だ。

 スノーと一緒にいた男だ。何とかという名のパーティーの仲間なのだろう。

「ヘレスを返してもらおう」

「なにい!」

「その馬車のなかにヘレスがいることはわかっている」

「そんな女はいねえ! どけと言ってるだろう」

 レカンはヘレスを〈立体知覚〉で捉えた。

 生きてはいるようだ。だが、寝たままで動こうとしない。

「なぜヘレスは寝たままなんだ? お前たち、ヘレスに何をした?」

「ひき殺せ!」

 馬車のなかから声がした。

 聞いたことのある声だ。

 のっぺり男のスノーの声だ。

 馬車の窓からスノーが頭と右手を突き出し、その右手に持った何かを構えた。

「〈展開(パシュート)〉!」

 レカンの呪文に反応し、手甲は〈ウォルカンの盾〉となり、左手に収まった。

 スノーの右手からまばゆい光がほとばしった。

 飛んで来た炎の弾を、〈ウォルカンの盾〉ではじく。

 御者をしている男が馬を走らせようと手綱をたたく。

 レカンは素早く右側、すなわち山の斜面を駆け上り、呪文を唱えた。

「〈炎槍〉!」

 強力無比な攻撃魔法は、御者をしていた男の頭を吹き飛ばした。

 馬車に飛び移り、その勢いのまま御者の男を蹴り出して、手綱を引き絞った。

 頭を失った御者の男の体が谷川のほうに落ちてゆく。

 軽く蹴ったつもりだったが、考えてみれば、今、〈ザナの守護石〉を身につけている。ブーツを履いての蹴りは、攻撃とみなされたのだ。

 御者席の背中を貫いて槍先が飛び出してきた。

 乗車席のなかには槍をしまっておくほどの空間はない。

 この槍も何かの恩寵を持った品なのだろう。

 そんなことを考えながらひらりと身をかわし、槍が伸びきったところで右手でつかんだ。

 槍の使い手は槍を引き戻そうとした。

 さすがに迷宮深層を探索する槍使いである。まさに剛力といってよい。

 だが、レカンが右手でにぎる槍は、びくともしない。

(うん?)

(〈ザナの守護石〉が働いているわけでもないようだが)

(握力が上がっている?)

 ならばとレカンは、湧きいずる力のまま、太い槍をずるずると引き出した。

 馬車のなかからはうめき声のようなものが聞こえる。

 レカンの〈立体知覚〉には、筋骨たくましい槍使いが、必死で槍を押さえ込んでいる姿が映っている。

「〈縮小(ピルアー)〉」

 盾を手甲に変えると、左手を槍に添え、ぐい、ぐいと両手を交互に回して引っ張った。

 いとも簡単に槍は抜けた。抜けた瞬間に突き返した。

 石突きは槍使いの男のみぞおちを打ち抜いた。

 男が崩れ落ちる。

 レカンは一気に槍を引き抜いて、馬車の前方に捨てた。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 最新話では、アリオスのことをかなり強い魔力をもった人間だっていってたけど、この話では アリオスの赤い点は、もうだいぶ前にみうしなってしまった。アリオスぐらいの魔力の持ち主は、この町…
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