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狼は眠らない  作者: 支援BIS
第18話 ニーナエ迷宮下層
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1


 第三十二階層からは、一階層に一日をかけた。

 昼食は階層のなかほどでとった。下が砂場になっているので座り心地はいい。

 たき火をたくのにも困らない。

 一階層降りるごとに、敵は手ごわくなる。

 だが、こちらの連携も段々と形になりつつある。

 そのときの状況や敵の動きにあわせ、誰かが行動を起こす。

 その呼吸を読んで、他のメンバーが最適な行動を瞬時に判断する。

 それが本当の連携だ。

 まだまだその状態には届いていない。

 だが少しずつ、そこに近づいている。

 レカンは、エダを気遣うのをやめた。

 魔獣が溶解液をはくたびに、これはエダに向かうだろうか、エダはこれをかわせるだろうかと心配するのをやめた。

 エダに溶解液がかからないよう、魔獣の動きを制限するのもやめた。

 今の階層ではエダを気遣った動きをすることができるが、下の階層に行けば、たぶんそんな余裕はない。

 エダのことはエダ自身に任せて、レカンはレカンの役割を果たすべきだ。

 そう思いを定めた。

 素材もしっかり採取した。ただし、腹の皮は処理がめんどうなので捨てて、毒袋だけを取っている。足も、関節を切り離すだけで、なかの肉はそのままにしてある。魔獣の肉は腐りにくいが、それでもあまり時間をおくと腐ってくるので、いつまでも〈収納〉に入れたままにしてはおけない。

 第三十五階層に〈印〉を作り、探索五日目の夕方、地上に戻った。

 連携の感覚を忘れないよう、休養は三日とした。


 〈ジェイドの店〉に行くと、扉が新しくなっていた。

 なかに入ると、〈地獄の番犬(ベガー)〉がいた。

「やあ、レカン! 今迷宮からあがりか?」

「ああ。さっき出て、水を浴びてきたところだ」

「ははは。俺たちは昨日昼出てきたところだ。今何階層だ?」

「第三十五階層に〈印〉を作ったところだ」

「三十五! すごい勢いだなあ。すぐに俺たちに追いつきそうだ」

「あんたたちは迷宮踏破者だろう。今何階層に潜ってるんだ?」

「今回は第四十階層だ」

「そうか」

 レカンは席に座ってエールを注文した。

 コズウォルがジョッキを持ってやって来て、隣に座った。

 エダもアリオスもヘレスもまだ来ていないので、このテーブルには二人だけだ。

「最下層を目指すのか?」

「まだ決めていない」

「ヘレスは行きたがっているだろう」

「うん? ああ、あんたたちにも頼んだんだったな。いや。オレのパーティーに一時参加する条件として、最下層のことは口にしないことと、探索する階はオレが決めるということを飲ませた」

「そうか。今は順調のようだから何も言わんだろうが、そのうち言い出すかもしれんな」

「かもしれん。だが関係ない。オレが危険だと思ったら、探索はそこで終わりだ」

「そうか。それならいい。いらんことを訊いたな」

「いや」

 エールが運ばれてきた。

 レカンは給仕に料理を注文した。今日は野菜多めの料理が食いたい気分だった。

「レカン。お前、迷宮踏破の経験があるな?」

「この国に来てからということなら、ゴルブルの迷宮を二度踏破したな」

「ゴルブルだって? あそこはたしか、最下層には少人数しか入れない制限がかかってなかったか? だから未踏破だったはずだが」

「そんな制限があったとは知らなかった」

「何人で行った?」

 レカンは返事を返さなかった。

「もしかして、ソロだったのか?」

「ああ」

「お前、とんでもないやつだな。とんでもないやつに乾杯だ」

 乾杯(ジョー・ジョード)と声を上げ、ジョッキを打ち合わせて、一気に中身を飲み干す。

「ぷふぁあ、うめえ!」

 二人はエールのお代わりを注文した。

「なあ、レカン」

「うん?」

「もといたとこじゃ、いくつぐらい迷宮を踏破したんだ?」

「さあな。覚えてない」

「十以上か?」

「ああ」

「すげえなあ。それほどの年にはみえんが」

 エールが二杯運ばれてきた。

「俺もなあ、若いころは、いくつか迷宮を回った。でも、〈ベガー〉を結成してからは、ここ一本だ」

「そうか」

「二度最下層を攻略した。だがもうやる気はねえ」

「一度でも迷宮制覇に変わりはない」

「一度目に攻略したときは、一人仲間が死んだ。二度目には二人死んだ。もう仲間は失いたくねえ」

「そうか」

「迷宮最下層で仲間が死んだことあるか?」

「ああ」

「そうか」

 料理が三皿運ばれてきた。

 コズウォルは、野菜炒めを指でつまんで食った。

「それでも潜り続けられるのか。しかもいろんな迷宮を次々と」

 レカンは、魚の揚げ物をフォークで口に運んだ。

「お前みたいなのが、ほんとの冒険者なのかもしれんなあ」

「冒険者に本物も偽物もない」

「ははははは。そりゃそうか」

「自分が冒険者だといえば、冒険者だ」

「この迷宮も、あっというまに踏破して、次の迷宮に行くんだろうな」

「〈剣の迷宮〉には行ってみたいと思っている」

「おお! あそこはいいぜ。競争厳しいけどな」

 コズウォルは、魚の揚げ物を指でつまんでむしって食べた。

「乾杯だ! 冒険者の栄光に!」

「乾杯」

「乾杯!」

 コズウォルは自分のテーブルに戻った。

 レカンは静かに食べ、かつ飲んだ。

 エダとアリオスとヘレスがやって来た。

 この日は皆疲れていたのか、早々に宿に引き上げた。


2


 翌日の朝、珍しい人物がレカンを訪ねてきた。

「ジェイド。何か用か」

「ああ。レカン。〈ジャイラ〉はこの町に屋敷を持ってるんだが、あんた、いるか?」

「いらん」

「みもせずに即答か。この町にいるあいだだけ使ってもいいんだぞ」

「移るのが面倒だ。夕食はあんたの店で食う」

「こりゃ、光栄だな。わかった。屋敷は売りに出す」

「そうしてくれ」

「しかし、ということはあんた、この町に長くいる気はないな?」

「六の月の二十五日にはこの町を離れる」

「なんだ。あと一旬と少ししかないじゃないか。それじゃあ、とても踏破は無理だな」

「そうだな」

 この日、武器屋に行くと、〈ラスクの剣〉の研ぎが仕上がっていたので受け取った。

 ヘレスと、迷宮品を売却した。

 今回はどういうわけか宝箱がまったく出なかったが、それでも大金貨十四枚近い収入になった。やはり深層の稼ぎは大きい。

 翌日、翌々日と休養し、六の月十二日、再び迷宮に入った。


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― 新着の感想 ―
[一言] レカンが元居た世界では階層転移なんて便利なものがないので迷宮を踏破しても潜った時と同じ時間をかけて上がらないといけないし その消耗した状態を狙って強盗行為をする盗賊まがいの冒険者集団なんての…
[良い点] 前話で書いた感想の内容が、今回のレカンがしっかりエダのことはエダがなんとかするべきって考えてて、私なんかが心配することじゃなかった………………となりました(笑) コズウォルとレカンの会話は…
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