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狼は眠らない  作者: 支援BIS
第17話 ニーナエ迷宮中層
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 三日間の休養はあっというまに終わり、またも迷宮探索の時がやってきた。

 第三十一階層に〈印〉を作ってあったので、この階層からやり直しである。

「この階層では前回、十分に戦った。冒険者も多いし、戦闘はできるだけせずに進む」

 そうは言ったものの、突き出た岩の配置は複雑で広大、レカンの〈立体知覚〉をもってしても、最適なルートがわかるというわけではない。

 ふと思い出して、迷宮に〈鑑定〉をかけるような気持ちになってみたが、どうすれば〈図化〉ができるのか、わからなかった。

 進み方は前回と同じである。レカンが正面から突進し、アリオスとヘレスが左右から遊撃する。さらにエダが最初に弓で注意を引き、あとは戦闘が終わってから砂場に入り、負傷者を治癒する。

 ヘレスは、まだとまどっている。

 レカンは、中央から突進しつつも、左右に移動して、魔獣に狙いをしぼらせない。そのため、左側にいたはずのヘレスの左側に突然レカンが移動したりする。するとヘレスはレカンのさらに左に移動しようとするが、突然レカンが後ろに引いて魔獣を引き寄せたため、ヘレスは押しつぶされそうになってしまう。

 アリオスは素早くレカンの意図をみぬき、必ずしも右翼にこだわらず、攻撃できそうな場所を探しては攻撃している。レカンは、魔獣を引きつける役は自分がすると言ったのだから、安全な位置から魔獣を攻撃する工夫をすればいいのだと理解しているのだ。

 ただしアリオスの動きは、並外れて素早い移動速度と攻撃速度に頼ったもので、予測があまりうまくはない。やはりアリオスの動きは対人戦用に鍛えられたものであり、魔獣相手では勝手がちがうようだ。

 それでも、この日六回目となる戦闘では、アリオスの動きも多少こなれてきたし、ヘレスのほうも、レカンの大剣を黙々とかわしながら魔獣に打撃を加えていた。

 この調子でいけば、あと数階層のうちに、アリオスもヘレスもそれなりの連携を覚えてくれそうだ。

 そんなことを考えながら階層の出口に向かって歩いていた。

 このとき、右手には抜き身の〈アゴストの剣〉がにぎられているが、〈ウォルカンの盾〉は左手の手甲に変わっている。

 もちろんレカンに油断はない。そうやって歩きながらも、〈生命感知〉と〈立体知覚〉であたりを探っていた。

 しかし、レカンは忘れていた。

 〈生命感知〉も〈立体知覚〉も万能ではないということを。

 迷宮の階層のなかからは、他の階層や階段部分の音や気配は察知できず、〈生命感知〉も〈立体知覚〉も通じないのだということを。

 もっとも、この世界の迷宮では、上層に行くものは〈転移〉を使うのであり、階層の出口から人が出てくることなどないのだから、出口のほうに注意を向けていなかったのは、油断とはいえないかもしれない。

 そしてそこに、岩壁の向こうに姿を現した出口が、たまたまレカンの左前方、つまり肉眼の死角にあたっていたという不運が重なった。

 だから、階層の出口からヴェータが姿を現したとき、察知するのにわずかな時間が過ぎてしまった。

 それは、階層の外で準備詠唱を済ませていたヴェータが、必殺の攻撃を放つのにじゅうぶんな時間だった。

「〈氷牙(シルエギ)〉!」

 構えた杖から白色の奔流が生じた。

 発動呪文を耳にしたレカンには、この魔法をかわせるだけの余裕があった。

 しかし、自分がこれをかわしたら、後ろにいるエダに当たるのではないかという思いが、一瞬、回避をためらわせた。

 そのわずかなためらいのあいだに、恐るべき威力を持つ攻撃魔法は放たれてしまった。

 だがレカンはあわてはしなかった。

 これまで幾多の魔法攻撃を防いでくれた〈貴王熊〉の外套が、今度も自分を守ってくれると信じていた。

 レカンは思い出すべきだった。

 ヴェータが迷宮を三度も踏破した〈ジャイラ〉の切り札であり、一撃か二撃でどんな強大な敵も倒してきたのだということを。

 放たれた魔法は、〈貴王熊〉の外套を貫き、レカンの腹をえぐって背中に抜けた。


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 ヴェータの後ろから、剣士カガルとグレイブ使いタクトと盾持ちマズーが飛び出した。

 レカンの後ろからアリオスとヘレスが飛び出した。

 アリオスの疾走はほかの誰より速い。さほどの距離でもない。たちまち魔法使いヴェータのもとに到着した。

 しかしヴェータの位置は出口からすぐの場所であり、盾持ちマズーがアリオスの前に立ちはだかった。

 ヴェータは準備詠唱に入っている。二撃目を撃たせてはならない。

 アリオスが地を薙いだ。

 いや、そうではない、マズーの足を斬り払ったのだ。

 左足を失ったマズーは前方に転倒し、アリオスはヴェータの持つ杖の頭を斬り落とした。


 レカンは、とどめを刺そうと襲いかかる剣士カガルを迎え撃とうとした。だが体が動かない。足元がよろける。

 ヴェータの放った魔法攻撃が貫通した部分を中心に、その周りが凍り付いていっている。この状態異常を、左手にはめた銀色の指輪はふせげなかったのだ。

 カガルが振りおろす剛剣を、レカンはかろうじて〈アゴストの剣〉で受け止めた。


 グレイブ使いタクトは、ヘレスに襲いかかった。

 その恐るべき膂力で振りおろすグレイブは、戦慄すべき威力を持っている。

 しかし対人戦については、ヘレスはよく鍛えられていた。グレイブの間合いをはかり、わずかにその外側に身を引く。

 狙いをそらされたグレイブは、迷宮の岩を割り砕いて深々と食い込んだ。

 そのときすでにヘレスは、敵を倒すべく踏み込んでいた。


 レカンは、カガルの二撃目をどうにか受け止めた。

 さすがに〈ジャイラ〉のリーダーであるカガルの攻撃は重い。

 そのままカガルは剣を押し込んでくる。

 そのときエダの呪文が響いた。

「〈回復〉!」


 ヘレスは、迷宮深層を探索する冒険者の反射神経と剛力をみあやまっていた。

 岩を吹き飛ばしてグレイブが横からたたき付けられる。

 ヘレスは巨大なグレイブの刃を横ざまに打ち付けられ、吹き飛ばされて岩に衝突する。

 タクトは右に大きくグレイブを引く。


 レカンは、温かい光につつまれて体が回復するのを感じた。

 力があふれてくる。

 銀色の指輪の効果なのか、凍った体がもとに戻る。

 レカンはカガルの剣をはね飛ばし、がら空きになった胴体に剣を振りおろす。

 さすがにカガルも百戦錬磨の冒険者である。すかさず後ろに飛びのいた。

 だが完全に攻撃をよけきることはできず、右手の手首が斬り飛ばされ、宙に舞った。


 岩に打ち付けられ意識を飛ばしたヘレスに致命の一撃を放つべく、タクトがグレイブを右に引ききったとき、その右腕が斬り飛ばされた。

 ヴェータに当て身をくらわせたアリオスが神速の移動を行い、タクトの後ろから攻撃したのだ。


 レカンとアリオスが、それぞれの対手にとどめを刺そうとした、ちょうどそのとき、制止を呼びかける声をかけた者がいる。

「待て! 待ってくれ!」

 その男はそう叫ぶと、その場ではあはあと荒い息をついた。

 〈ジェイドの店〉のあるじだった。


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