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狼は眠らない  作者: 支援BIS
第17話 ニーナエ迷宮中層
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 〈ジェイドの店〉には、今夜も〈ベガー〉が来た。

 レカンは一足先に飲み始めていたのだが、そこにコズウォルがやって来た。

「いよう、レカン!」

「やあ」

「はっはっはっはっはっ。迷宮帰りかあ?」

「ああ。昼過ぎに上がった。明日から三日は休養だ」

「俺たちは明日から潜る。少しゆっくりしたから、今度は五日間ほど潜るつもりだ」

「あんたたちは、迷宮宿は使わないのか?」

「ありゃあ、だめだ。あそこに泊まると、緊張感が切れちまう。時間もむだだしなあ」

「同感だ」

「そうか! やっぱりお前、話せるなあ」

「ちょいとおじゃまするよ。あんたがレカンかい?」

「ああ」

「あたしはヌル。〈アズカリス〉の回復師さ。あんた、〈大回復〉が使えるんだって?」

「ああ」

「なにいっ? レカン。お前、剣士じゃないのか」

「剣士だ」

「どうして剣士が〈大回復〉なんぞ使えるんだ」

「知らん」

「あたしもちょっと信じられない気分だけど、ヴェータがわざわざ嘘を言うわけないからねえ。それと、そっちのお嬢ちゃんがエダって人かい?」

「はい」

「かわいいねえ。冒険者どころか、十四歳ぐらいにみえるよ。その顔で、第三十一階層に潜るとはねえ」

「第三十一階層だとうっ? 馬鹿いえ。レカンはついこの前ここに来たばかりだ」

「あんたとはじめて会ったのは五の月の二十四日だったかな。あの日にこの町に来たんだ」

「あの日に〈ジャイラ〉が主を倒して五日間迷宮はお休みだ。てことは、たった十日間で第一階層から第三十一階層まで探索したってのか? んな馬鹿な」

「馬鹿だろうが何だろうが、今日第三十一階層で〈ジャイラ〉と若い子たちのパーティーが蜘蛛野郎になぶり殺されるところを助けたうえに、瀕死状態の八人に、レカンとエダが〈大回復〉をかけて命を救った、てのは事実さ」

「〈大回復〉。このごっつい大男と、このちみっこい小娘が?」

「あんたに大男とは言われたくないだろうさ」

「はっはっはっはっはっ。しかし、一パーティーに〈大回復〉持ちが二人か? なんてうらやましい話だ」

「それでね、レカン。聞いた話じゃ、あんたたち、二人で八人に〈大回復〉をかけたそうだね。しかも、何度かかけた相手もいるっていう。それなのに、青ポーションなんか飲んでなかったっていうじゃないか。どうやって魔力をもたせたんだい?」

「手の内は明かせない、と言いたいところだが、魔石の小さいやつ、持ってるか?」

「え? ああ、これでいいかい」

「結構。みてろ」

 レカンの手のひらのうえで、魔石は魔力を吸われ、輝きを失った。

「〈吸収〉か。やっぱりね。そうじゃないかとは思ったんだ。だけど、あんた、身体系の〈回復〉が使えるうえに、特殊系の〈吸収〉が使えるのかい? 剣士のくせに。そりゃ、反則だよ。あれ? 今、準備詠唱と発動呪文がなかったような」

「それは秘密だ」

 そう言いながら、レカンは空になった魔石をヌルに返した。

 どうも魔石から魔力を吸うのに、準備詠唱と発動呪文がないのは普通でないらしい。ヌルは酔っ払っているからあまり気にしていないようだが、今後は人前で魔石から魔力を吸わないようにしよう、とレカンは思った。

「ごちそうさん」

「そんなつれないこと言うんじゃないよ。教えてくれたら、もっといいもんごちそうしてあげるからさあ」

 そう言いながら、ヌルは豊満な胸をレカンの背にぐりぐりと押し付けた。

「おい、ヌル」

「ほっといとくれ」

「そうじゃない。あれ」

 入り口の扉を開けて入ってきたのは、〈ジャイラ〉の剣士カガルだ。

 カガルは、まっすぐにレカンのところに歩き寄ると、持って来た袋を差し出した。

「今日は世話んなった」

 このタイミングでここに来られたということは、店に金でも渡して、レカンが来たら教えてほしいと頼んでいたのだろう。

「ああ」

「ここの神殿で〈大回復〉は金貨五枚だ。〈ジャイラ〉の四人と、〈ペザントオルザム〉の四人にかけてもらったのだから、大金貨四枚を持ってきた。受け取ってくれ」

「確かに」

 レカンはそう言うと、中身をみもせずに金袋を外套のポケットに入れた。

「じゃあな」

「ああ」

 短くあいさつをして、カガルは〈ジェイドの店〉を出た。

「〈ジャイラ〉は、回復師のドレンが死にかけたとき、神殿にかつぎこんだらしいな」

「ええ。噂じゃ、〈浄化〉をかけてもらったそうねえ」

「なにっ。ここの神殿には〈浄化〉持ちがいるのか?」

「そんなことわかるわけないじゃない。でも最高の治療を頼んだらしいわ」

「高くついたろうなあ」

「そりゃもう。でもドレンは助からなかった」

「カガルもつらいとこだ」

「そうねえ。ところで今気づいたけど、そこに座ってんの、ヘレスちゃんじゃない」

「その節は世話になった」

「ごめんねえ。あたしはあんたを入れてあげたかったんだけどさあ」

「いや。こちらの条件に無理があった。致し方ないことだ」

「そう言ってもらえると、ちょっと気が楽になるわ。で、レカンちゃんを雇ったのね。あなた、どうやってこんないい男みつけたの?」

「雇ってはいない。パーティーに一時加えてもらっているだけだ」

「へえ? でも、最下層目指してるのね?」

「今のところ、レカン殿は最下層を目指していない。だが私は、レカン殿が最下層を目指してくれるわずかな可能性に賭けた」

「そうなの。うまくいくことを祈ってるわ。うふん。レカぁン。ヘレスちゃんに飽きたら、あたしを入れてね。あたしに入れてもいいのよ」

「こら、お前、言ってることがむちゃくちゃだぞ。酔ってるのか?」

「酔ってるわよう。この店に来て酔わなくてどうするのよう」

 しばらくして、〈アズカリス〉のリーダーである双剣士のファルカンがやってきて、酒癖の悪い女回復師を引きずっていった。

 翌日、レカンはヘレスに連れられていくつかの店を回り、素材を売った。中身付きのまま足を売ったら驚かれたが、いい値段がついた。

 全部で金貨百三十二枚の収入があった。一人金貨三十三枚である。

 もう魔石分の金額など、あまり問題にならない金額になってきたので、レカンは売り上げを四等分して渡した。

 さらにエダには、大金貨四枚の半分を渡した。

 エダは有頂天になって、服を買いに行くと宣言した。

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― 新着の感想 ―
[一言] 下品な回復師が最高です
[気になる点] 依頼人の過失による失敗なんだし、本人も認めてるんだし 依頼取り下げとか、依頼失敗にならない方法は無いのかな レカンも遺恨を気にするくらいなら、危険だからくらいの理由は言ってもいいので…
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