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狼は眠らない  作者: 支援BIS
第17話 ニーナエ迷宮中層
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1


 二日目の休養日、つまり迷宮に降りる前日に、レカンはエダを連れて弓を買いに店を回った。アリオスとヘレスにもついてきてもらった。

 もとの世界では攻撃魔法を使えなかったので、レカンはずいぶん弓の練習をした。弓をみる目はそれなりにあるつもりだ。

 どの大きさにするか、少し迷った。この迷宮ではかなり大きな弓でも使える。むしろ、第二十階層までなら、大きな弓のほうが有効だ。それもあってか、迷宮で使うとはとても思えない大きな弓がたくさん売られている。

 しかし、大きすぎれば、やはり動きをさまたげるし、できればシーラからもらった〈箱〉に入る大きさがいい。

 かといって、矢の飛びが悪い弓では何にもならない。遠距離射撃はできなくていいが、中距離で矢をまっすぐに飛ばすことのできる弓がいい。伸びがあってくせのない矢を放てる弓がいい。

 ずいぶんいろんな店を回って、何度も試し撃ちをさせてもらい、これはという弓をみつけた。張りもあって、ぶれがなく、手離れの感触が抜群にいい。こしらえも、地味ながらよい素材をふんだんに使っていて、耐久性も期待できる。

 恩寵もついていないのに金貨五枚と大銀貨三枚という値段を聞いて、エダは目を丸くしていたが、これは割安だとレカンは思った。たぶんこの町には恩寵品の弓があふれているから、普通の弓はこんなに安いのだ。だが職人の腕は鍛え抜かれているから、素材にも造り方にも妥協がない。

 もちろんエダに金を払わせた。

 同じ店で矢を百本買わせた。そんなには〈箱〉に入らないとエダが言うので、半分はレカンが預かった。予備の矢尻も少し買わせた。弓を手入れするための油や布や糸も、同じ店で買わせ、手入れのしかたを教わらせた。いい店がみつかったのだから、できるだけここで用事をすませたほうがいい。

 その店に、呪術屋と毒屋も紹介してもらった。この町には呪い専門の店や毒専門の店が山ほどあるのだ。

 呪術屋では、麻痺の呪いを五本の矢にかけてもらった。ランクは、矢にかける呪いとしては、その店での最高ランクのものだ。一本につき、ほぼ金貨一枚した。エダはもっと安い呪いでいいと言ったが、確率の低い呪いを十本にかけてもらうより、確率の高い呪いを五本にかけてもらうほうがいいのだと教えた。

 毒屋では、矢二十本分の麻痺毒を買った。

「エダ」

「うん」

「迷宮で矢を使う場合、回収できないことが多いし、回収しても使えないことが多い。つまり矢は、使ったらそれで終わりだと思っておけ」

「えっ? そうなの?」

「残数を計算しながら使うんだ。狩りに使える本数は何本までなのか、命を守るために残しておく本数は何本なのか、それを状況に応じて判断しろ」

「うん!」

 四人は遅めの昼食を取り、そこでレカンは、エダをアリオスとヘレスに託した。

「では二人でエダの防具をみつくろってやってくれ」

「はい」

「心得た」

「第二十二階層以下の魔獣は毒液を飛ばしてくるというから、やはり体を覆うような服がいる。靴も、もっと丈夫で軽いものをな」

「わかりました。幸いここの迷宮からは、素材の高級糸がいくらでも採れます。網鎧の軽くて上等なものを探しますよ」

「頼む。ショートソードは、当分オレのを貸したままにしておくから、今は買わなくていい。有り金全部使わせてもいいから、いい防具を頼む」

「わかりました」

 ヘレスもうなずいている。

「では、ここで別れよう。夜に〈ジェイドの店〉に集合だ」

「わかった」

「はい」

「承知した」


2


 三人と別れたレカンは、武器屋を回った。

 どういうわけかこの町には、槍専門店はたくさんあるのに、剣の専門店というのがほとんどない。

 しかも剣の専門店に置いてある剣は、恩寵品が中心だ。

 それも、剣自体はたいした剣ではないのに、恩寵の効果で売るような売り方をしている。

 しばらく店を回ってみたが、心惹かれる剣はなかった。

 昨日、持ち金を整理したところ、ざっくり数えて金貨七十枚をちょっと超える程度の金があった。いい剣が買えるなら、これを全部使ってもいいのだが、あいにくいい剣がない。

 レカンは考え方を変えることにした。

 いい剣の代表としてレカンが思い描くのは、折れてしまった〈自動修復〉つきの剣だ。どんな乱暴な使い方をしても自動的に修復する素晴らしい剣だった。切れ味や威力を増幅するような効果はついていなかったが、手になじむ、使いやすい剣だった。

 だが、もうああいう剣は手に入らない、と思うしかない。

 つまり、一本の決まった剣をずっと使い続けるような、そういう使い方のできる剣を探すのは無理だ。

 ひょっとして将来、〈剣の迷宮〉で、新たな愛剣がみつかるかもしれないが、それまでは、剣は消耗品だと思うべきだ。

 今使っている〈ラスクの剣〉を、レカンは少し遠慮しながら使っている。せっかく質のよい剣が手に入ったのだから、壊さないように使おうと思っている。

 そこがまちがいなのだ。

 剣は使うものだ。使い倒すものだ。壊れたら次の剣を使えばいい。せっかくいい剣を持っているのに、その性能をじゅうぶんに発揮できないのでは、話が本末転倒だ。

 〈ラスクの剣〉より多少劣ってもいいから、使いやすい剣を一本か二本買っておこう。〈ラスクの剣〉が折れたらそれを使う。それも折れたら次の剣を買う。つなぎに、〈収納〉に入っている剣を使ってもいい。

 そう決めたら、心が軽くなった。

 軽くなった心で入った小さな武器屋で、レカンは一本の剣に出会う。


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